NAGOYA Archi Fes 2017 中部卒業設計展

NAGOYA Archi Fes 2017 中部卒業設計展

名称

NAGOYA Archi Fes 2017 中部卒業設計展

日程
個別講評審査:2017年3月14日(火)
公開審査:2017年3月15日(水)
作品展示:2017年3月14日(火)〜16日(木)
会場 吹上ホール(名古屋市中小企業振興会館)
公開審査 審査員

【審査員長】
古谷 誠章氏(建築家/NASCA代表取締役/早稲田大学教授)

【審査員】
手塚 貴晴氏(建築家/(株)手塚建築研究所 代表/東京都市大学教授)

武井 誠氏(建築家/TNA代表取締役)

田中 元子氏(建築コミュニケーター・ライター/株式会社グランドレベル代表取締役社長/mosaki)

総合司会 倉方 俊輔氏(建築史家/大阪市立大学大学院工学研究科准教授)
主催 NAGOYA Archi Fes 2017中部卒業設計展実行委員会
共催 株式会社総合資格/総合資格学院

愛知県名古屋市千種区の吹上ホール(名古屋市中小企業振興会館)にて、「NAGOYA Archi Fes 2017中部卒業設計展」が開催されました。

3月14日(火)〜16日(木)の3日間にかけて行われた本設計展は、「中部建築界の活性化」、「評価軸の多様化」をコンセプトに据え、中部地域の学部1年生から3年生の学生が、実行委員となり企画・運営する「NAGOYA Archi Fes」の最大の企画として位置づけられる卒業設計展です。
中部10県(愛知・岐阜・三重・静岡・福井・石川・長野・富山・新潟・滋賀)の大学・短大・高専・専門学校の建築学生から卒業設計を募集し、第4回目となる本年度は62作品が集まりました。

NAGOYA Archi Fes 2017中部卒業設計展
NAGOYA Archi Fes 2017中部卒業設計展
開会式の様子(1)
NAGOYA Archi Fes 2017中部卒業設計展
開会式の様子(2)
NAGOYA Archi Fes 2017中部卒業設計展
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本年度のテーマは「告白建築」。出展者の「考え」や「想い」を伝えるパネルや模型に触れた来場者が、作品との出会いを通して、自分自身を見つめ直す機会や、建築に対する新たな発見を得ることを期待したものです。

審査は、大会1日目と2日目で、1日ごとに審査が完結し、各賞が決定する方式。「多様な視点での審査」というコンセプトのもと、1日目は、「中部圏を中心に活動する5名の建築家」が個人賞を1人1作品ずつ選出し、2日目は、「全国的に活動する建築家」が「最優賞1作品」と「優秀賞2作品」および「個人賞」を決定します。また、大会期間中、来場者による「一般投票」も実施され、一般の方が良いと感じたプレゼンボード(シート賞)や模型(模型賞)も選出されます。

<大会2日目午前審査・公開審査レポート>

大会2日目の審査は、午前の審査で公開審査に進む11作品(ファイナリスト)が選出され、午後の公開審査で各賞を決定する形式です。

午前の審査は全ての出展者が、巡回してくる審査員に対し、まず90秒間のプレゼンテーションを実施した後、審査員が気になった作品に対して自由に質疑を行う形式でした。
90秒の中には、出展者が審査員の質問に答える時間も含まれるため、出展者からは「かなり短い時間なので、考えを伝えることが難しかった」などの声が聞かれました。

一方で「結果だけでは、どこが良かったのか悪かったのかわからない。短くても審査員がコメントをしてくれたことで、作品の良い点、悪い点を知ることができたのは良かった」などの声も聞かれました。

選出された11作品について、午後から審査会場をホールに移し「公開審査」が行われました。

作品の審査
ショートプレゼン・フリーセッションの様子(1)
作品の審査
ショートプレゼン・フリーセッションの様子(2)
作品の審査
ショートプレゼン・フリーセッションの様子(3)
作品の審査
ショートプレゼン・フリーセッションの様子(4)

いよいよ公開審査がスタート!

公開審査は、プレゼンテーション5分、質疑応答6分という形式で進行。11作品のプレゼンテーション終了後は、各審査員によるディスカッションおよび、ファイナリストの追加アピール時間が設けられた後、投票が行われました。

[ファイナリスト11作品]

No. 名前 学校名 作品名
ID 04 加藤 詩織さん 大同大学 『眠らない学生美術館 〜創作する姿そのものが芸術〜』
ID 08 田淵 隆一さん 名古屋工業大学 『水景の共生作法』
ID 17 重永 恵実さん 名古屋工業大学 『軒に住まい、道に学ぶ』
ID 35 西岡 康さん 名古屋市立大学 『Park_ing-新たな立体駐車場-』
ID 36 平林 永里加さん 名古屋工業大学 『まちと子の共育思創』
ID 46 杉山 弓香さん 名古屋工業大学 『表出する居所』
ID 57 柴田 英輝さん 名城大学 『さらば、私の』
ID 60 小澤 巧太郎さん 名古屋大学 『COWTOPIA』
ID 64 大山 兼五さん 愛知工業大学 『記憶の指針』
ID 65 水口敬悠さん 名城大学 『白雪の舞台』
ID 67 吉川 千由希さん 名城大学 『遺構が描く里山の風景 -道路遺構となった弥富相生山線の小学校としての活用-』

投票の冒頭での審査員のコメント

古谷氏

古谷氏

卒業設計は、これから何に関心を持って活動していくかということに対する意思表示だと思います。また、それは社会に初めて一石を投じるタイミングでもあります。その意味で、卒業設計で投げる石は、少し遠くに投げてもらう方がいいと思っています。

手塚氏

手塚氏

建築家の役割をわかっているかどうかという点が特に重要だと考えています。建築は、予めの条件や、クライアントの要求があってのもの。与えられた枠組みの中で、軸足を残しながら答えを出すことが重要だと思います。また、建築家は他の分野については当然、専門家ではありません。建築家は、建築という行為を通して、新しい地平を切り開いてくことが大切だと思います。

 
加茂氏

武井氏

私の審査基準は、3点ありました。1つ目は、問題点を見つけ、それを解決した結果が未来にどのように繋がっているか。2つ目は、批評性や社会に対してのメッセージ性を有しているか。3つ目は、建築にしかできないことを見つけられているかという点です。

田中氏

田中氏

その人の作りたいことに見合った解像度に作品がなっているかどうかという点を特に重要視しました。

 
倉方氏

倉方氏

未来が形態によって定義されているか、また、今、できているものでどうか、という点を見ました。

 

投票後、その票をもとに最優秀賞を決定する展開となりました。そこでは、票を集めたID 08 名古屋工業大学 田淵 隆一さん『水景の共生作法』とID 60名古屋大学小澤 巧太郎さん『COWTOPIA』の2作品に加え、審査委員長の古谷氏から強い支持の声があがったID 67 名城大学 吉川 千由希さん『遺構が描く里山の風景 -道路遺構となった弥富相生山線の小学校としての活用-』の3作品が議論の中心となりました。

加藤 有里さん 慶應義塾大学

ID 08 田淵 隆一さん 名古屋工業大学 

『水景の共生作法』

古くから漁業・水産業で栄え、名古屋の台所とも呼ばれた下之一色。その一方で、この場所は幾多の水害被害を経験し、そのたびに街の水産業は衰退してきた。作者は、防災を考える上で、単に堤防を建てることは街と水辺を隔離し、街のポテンシャルを下げることに繋がると考え、水を引き込み、水没を日常化させ、水と共生する水景を提案。インフラとしての多重堤防と建築としての水産宿泊施設を掛け合わせることで、土木と建築の間の新しい水景を計画している。

武井氏:
この計画は、土木と建築の中間と言える。また、地球や地形を考えたものとなっている。水と建物が共生するという考え方は、新しい提案としてありだと思います。

倉方氏:
土木は生死と深く関わる。その点、建築は土木と比べるとヤワで、安易に建築の計画で土木を語っていいのかは疑問。

『水景の共生作法』
『水景の共生作法』
小澤 巧太郎さん 名古屋大学

ID 60 小澤 巧太郎さん 名古屋大学

『COWTOPIA -街型牛舎の再興』

戦後から食肉文化を支える郊外の畜産家。近年、周囲が宅地などに開発され、迷惑施設と呼ばれている。地域とのつながりを失った牛舎を再構築し、町の生活の風景となる牛舎を計画する。従来型の牛舎のプラン(街→牛→畜産家が活動するスペース)を反転させ、(街→畜産家が活動するスペース→牛)とすることで、畜産家が街の接点となるよう設計。畜産家のアクティビティが周囲に影響を与え、さらに施設自体も周辺環境と一体的に利用できることを意図した提案。

倉方氏:
説得力がある形態になっている点や、かつての牛舎を全く違う機能で表し、それを思い切って街に挿入している点、作られた形によって新しいアクティビティが生まれそうな点が良いと思いました。

「COWTOPIA -街型牛舎の再興」
「COWTOPIA -街型牛舎の再興」

古屋氏から強い支持の声が挙がったID 67は、名古屋市内の相生山緑地を縦断する道路として計画され着工したものの、現在は工事が中止となっている道路「弥富相生山線」を遺構として捉え、その上に小学校を建てる計画です。

最終的な議論の中で、ID 08については、街と河川をつなぎ、津波や水位を受け入れる減災の発想や作者の意図が的確に作品を通して表現されている点が評価される一方で、水位上昇が3mと考えている点について、建物が大袈裟すぎるなどの指摘が挙がりました。

また、ID 60については、模型も含めて説得力ある形態となっていことや、出来上がっている形から新しい未来を想像できる点などが評価されましたが、牛舎を単に街に対して開くだけではアクティビティを生むことは、難しいのではないかとの意見も挙がりました。

ID 67について古谷氏からは、都市開発の傷跡を建築物を作ることで良くしていくという着眼点や、自然と接する学校について高い評価を得ましたが、他の審査員からは、敷地の設定については非常に優れているが、小学校については設計がされていないとの指摘が多く挙がりました。

議論を行うも、最後まで意見は分かれ、最終的に最優秀賞の決定は、審査員長の古谷氏に委ねられました。その中で古谷氏は、「ID8かID60か、どちらかに絞られてきていると思います。決定的な差はないですが、あえて言うとすれば、ID60は、酪農と地域住民がどのように共存していくかといったビジョンに共感できるものがあり、私はID60を最優秀としたいと思います」と語りました。

その意見に反対意見はなく、ID 60が最優秀賞に決定しました。また、優秀賞の1作品目には、最後までID 60と最優秀賞を争ったID 08が決定し、残りの1作品については、古谷氏の推薦でID 36名古屋工業大学 平林 永里加さん『まちと子の共育思創』が決まりました。その後、各審査員より個人賞についても発表がありました。

何 競飛さん 東京大学

ID36 平林 永里加さん 名古屋工業大学

『まちと子の共育思創』

仕事と子育ての両立のために建築ができることを考え、子供と親とまちの距離を近づける保育園を提案。丸の内-伏見間のオフィス街の内側に敷地を設定し、その土地に残る町家型の建物をモチーフに保育園を設計。子供と親とまちの距離を物理的に縮めることに加え、街全体で保育を考えることも意図されている。

古谷氏:
ビルに囲まれ土地的価値が低い場所について保育園を建て利用しようという考えは、都市計画的な面でいいと思います。ただ、もっと計画を複合的にして、街とのかかわりを持つための機能(例えば図書館など)をもたせるとよかったのではないかと思います。

田中氏:
「今」起きている問題にしっかり答えられている提案だとは感じますが、将来可能性の高い働き方、子供の見守り方など「現状」の問題だけにとどまらない考えがあるとよかったと思います。

『まちと子の共育思創』
『まちと子の共育思創』

個人賞

吹野 晃平さん 近畿大学

<倉方賞>

ID 17 重永 恵実さん 名古屋工業大学

『軒に住まい、道に学ぶ』

倉方氏:
(いい意味で)異常なものとして建築ができている。作品に向き合う姿勢は評価できます。

「Black Market Decipher」
「Black Market Decipher」
吹野 晃平さん 近畿大学

<田中賞>

ID 08 田淵 隆一さん 名古屋工業大学

『水景の共生作法』

田中氏:
私は、命は、「長さ」より「質」だと考えています。生き方の質は、生命そのもの。その意味で、高い堤防よりも、この提案は、真に命を守るものだと感じました。また、様々なメタファーを感じた点や、3.11に対する強い批評性を感じた点もよかったと思います。

「Black Market Decipher」
「Black Market Decipher」
大山 兼五さん

<武井賞>

ID 64 大山 兼五さん 愛知工業大学

『記憶の指針』

武井氏:
建築としては、気持ちの良い建物だと感じましたが、プレゼンテーションでの説明が残念でした。物を作る感性は感じました。

『記憶の指針』
『記憶の指針』
大山 兼五さん

<古谷賞、手塚賞>

ID 67 吉川 千由希さん 名城大学

『遺構が描く里山の風景 -道路遺構となった弥富相生山線の小学校としての活用-』

古谷氏:
案はもちろん、造形に対しても抑制がきいていて私は良いと思いました。ただ、教室の設計について考えが浅く、その点が惜しかった。

手塚氏:
案としては素晴らしく、建築のいろいろな観点からみても120点。しかし、設計をしていない部分が多く、そこが残念だった。

『記憶の指針』
『記憶の指針』

また、共催の(株)総合資格 中部本部 副本部長 竹谷から、総合資格賞が発表され、売春を産業とする島に、売春と決別し自立を促す建築を計画するID 57 柴田 英輝さん(名城大学)の作品『さらば、私の』が選ばれました。

大山 兼五さん

<総合資格賞>

ID 57  柴田 英輝さん 名城大学

『さらば、私の』

『さらば、私の』
『さらば、私の』
公開審査
公開審査
授賞式
授賞式
(株)総合資格 竹谷より挨拶
授賞式
懇親会の様子(1)
授賞式
懇親会の様子(2)

集合写真