建築新人戦2017

建築新人戦2017 ダイジェスト映像

建築新人戦2017

名称

建築新人戦2017

日程 2017年9月21日(木)〜9月23日(土)
会場 梅田スカイビル
審査員
  • 乾久美子氏(審査委員長:横浜国立大学大学院Y-GSA教授)
  • 光嶋裕介氏(早稲田大学非常勤講師)
  • 佐藤淳氏(東京大学大学院准教授)
  • 武田史朗氏(立命館大学教授)
  • 畑友洋氏 (神戸芸術工科大学准教授)
  • 増田信吾氏(武蔵野美術大学非常勤講師)
司会
  • 宗本晋作氏(立命館大学准教授)
  • 倉方俊輔氏(大阪市立大学准教授)
共催

株式会社 総合資格

近畿大学が16選に3人、8選に2人選出

9月21日(木)〜23日(土)の3日間、大阪の梅田スカイビルで、「建築新人戦 2017」が開催された。本大会は、所属する教育機関(大学・短期大学・専門学校・高等専門学校)で取り組んだ設計課題作品を対象としている。9回目を迎える2017年大会は、エントリーが902作品、出展数が583作品で、まさに建築学生の登竜門と称されるにふさわしい規模を誇る大会となった。昨年までは作品展示が梅田スカイビルタワーイースト5Fを会場としていたが、今年から会場を移して公開審査と同様にタワーウエストのステラホールで行われた。会場は狭くなったが、公開審査当日は例年以上に多くの学生が駆けつけ、若い熱気に包まれていた。
公開審では、まず審査員による巡回審査が行われた。審査員は、審査員長の乾久美子氏(横浜国立大学大学院Y-GSA教授)を筆頭に、光嶋裕介氏(早稲田大学非常勤講師)、佐藤淳氏(東京大学大学院准教授)、武田史朗氏(立命館大学教授)、畑友洋氏(神戸芸術工科大学准教授)、増田信吾氏(武蔵野美術大学非常勤講師)と豪華なメンバーが並ぶ。3年生までの学内課題といえど、583の中から選らばれた作品はどれも力作ぞろい。審査員は皆真剣な眼差しで会場を巡っていた。

審査委員

乾久美子氏(審査委員長)
光嶋裕介氏
佐藤淳氏
武田史朗氏
畑友洋氏
増田信吾氏
巡回審査と、審査員控室で行われる非公開の審査を経て16選、8選を選出。選ばれた作品は別表の通り。近畿大学は昨年から1人減らしたが、3人が16選(内2人が8選)に選ばれ、同大学の強さを見せつけた。新人戦は学内の課題作品を対象としている。まだ3回生以下の学生においては、自身の実力に加えて課題や学内での指導方針が強く影響する。2年連続で最も多くの16選を輩出した近畿大学の課題や設計指導は注目に値するだろう。
エントランスホールと審査会場の後方に作品が展示された
巡回審査をする乾審査員長。審査員は午前中の間で100選を見なくてはならない

16選・8選 選者/作品

【8選選出者・作品】
  • 深井 麻理奈さん(立命館大学)交流を育む、食を育む、健康を育む
  • 伊藤 健さん(京都大学)響とアゴラ/Kyoto Agora
  • 工藤 浩平さん(東京都市大学)
  • 渡辺 拓海さん(近畿大学)
    Chano-yu Tea ceremony Light house: 茶の湯-光露地 Complex
  • 藤田 一摩さん(横浜国立大学)たまりば
    〜地域の特色を生かした図書館を含む複合施設〜
  • 吉村 萌里さん (近畿大学)支えとして、遊び場として、寄りどころとして
  • 大石 理奈さん(名古屋工業大学)「輪廻転生」
  • 増渕 加奈子さん(早稲田大学)広場化する街路ハイパースクール

接戦の末、近畿大学・渡辺拓海さんが最優秀新人賞

お昼休憩を挟んで13時30分から公開審査がスタート。16選と8選選出者の発表と登壇の後、8選選出者によるプレゼンテーションと審査員との質疑応答が行われた。まだプレゼン慣れしていないせいか、多くの学生が時間内にプレゼンを終わらせることができなかったが、その後の質疑応答で、作品の意図や良さを汲み取ろうとする質問が審査員から投げかけられ、学生たちもそれに精一杯応えていた。
質疑応答の後、最優秀新人賞1人、優秀新人賞2人を決める投票が行われた。審査員1人3票ずつ投じた結果、近畿大学の渡辺拓海さんが最も票を集め、それに京都大学の伊藤健さんが続く形となった。
16選に選ばれた面々
プレゼンテーションの後、質疑応答の時間がとられた
渡辺さんの作品「Disorderly space 〜雑多性に伴う展示空間の提案〜」は、路地やスラム、森といった雑多な空間から抽出したパターンを組み合わせて、美術館を設計。審査員からは、「アート(展示作品)と建物の関係が設計段階に入っていない」ことを踏まえ、美術館として議論・説得できるまでに至っていない点を指摘された。渡辺さんは美術館という側面よりも、雑多的な美しさを追求することがコンセプトであり、自分のやりたかったことであると応答。審査員からは、従来の美術館とは異なり、見る人と作る人の境界線があいまいな新しいタイプの美術館として見ることができると評価された。

一方の伊藤さんの作品「響とアゴラ/Kyoto Agora」は、国の有形文化財にもなっている京都の元明倫小学校(現京都芸術センター)の校舎を改修する計画。アゴラとは集会所のことを指す古代ギリシア語だが、作品では大きな階段をアゴラと呼び、それを建物に差し込むことによって、都市の劇場へと再生する。審査員からは、リノベーションにより新しいものを付け足すことで、既存の空間もさらに良くなるという工夫があるかどうか問われたが、現在の狭い入口に大階段を挿入し、またそこに音楽が漏れてくることで、開かれた魅力的な空間になると応え、提案の良さをアピールした。

得票者への質疑応答を終えると、審査員1人2票で再投票が行われた。しかし、結果は渡辺さんと伊藤さんが同票となり決着つかず。そこで2人に絞り決選投票が行われ、結果4票を集めた渡辺さんが最優秀新人賞に輝いた。

最優秀新人賞・優秀新人賞

最優秀新人賞
  • 渡辺拓海さん
    (近畿大学)「Disorderly space 〜雑多性に伴う展示空間の提案〜」

路地やスラム、森といった雑多な空間から抽出したパターンを組み合わせて、美術館を設計。理路整然とした美しさではなく、雑多的な美しさを追求し、アート作品とコラボレーションさせる。アーティストはゲリラ的、そして雑多な空間に合わせるように自由に作品を展示していく。

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渡辺拓海さん

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優秀新人賞
  • 伊藤健さん(京都大学)「響とアゴラ/Kyoto Agora」

小学校をリノベーションして小ホールを設計するという課題。昭和6年竣工の元明倫小学校校舎(現京都芸術センター)に、作品の中でムジカと呼ぶホールを挿入(ムジカとはラテン語で音楽を意味する)。それに対面するように、アゴラと呼ぶ大階段を挿入する(アゴラとは古代ギリシア語で集会所を意味する)。それぞれが対面するように配置されることによって、ムジカ(ホール)から漏れる音楽をアゴラ(大階段)にいる人々も聴き、アゴラも客席へと変化する。

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伊藤健さん

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優秀新人賞
  • 深井麻理奈さん(立命館大学)「交流を育む、食を育む、健康を育む」

滋賀県草津市の住宅街に、幼老複合施設を設計。作物について学び、育て、食べるという一連の流れにより、子供と老人、家族と地域社会といった、さまざまな交流を生むことをコンセプトにしている。交流を生み出すために平面は門型の配置計画にし、立面ではスラブの高さを変えることで空間を区切るようにしている。

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深井麻理奈さん

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優秀新人賞
  • 増渕加奈子さん(早稲田大学)「topologist」

原宿駅が敷地。トポロジーの結び目理論を建築に応用し、構造体を連続して変化させ、アートオブジェのような駅舎を設計。構造体だけの作品だが、原宿という複雑な街に落ちる建物(構造体)の影が都市を読み解くきっかけになることを意図している。

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増渕加奈子さん

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8選に選ばれた人は、建築家になって欲しい

表彰式の後、審査会の締めくくりとして、審査員それぞれが総評を述べた。審査員の一人、光嶋氏は、「自分がいつ建築家になったかは分からないが、8選に選ばれた人たち、また残りの92人には建築家になって欲しい。継続している人、自分なりの勉強をやり続けている人が建築家になれる」と語った。乾審査委員長は、学内の枠を超えた全国的な設計展が増え始めた5、6年前から独立した建築家を目指す学生が減っていることを挙げたうえで、「設計展が優秀な学生の承認機関ではないし、賞をとることが本質ではない」ということを指摘。「今日のように多くの人が力を注いで、これだけのイベントを開催したのに、10年後にいい建築が作られなかったら悲しい。建築家は褒められるために建築をするのではなく、社会に提言するために建築を行う。少なくとも8選に選ばれた人は建築家にならないといけない」と学生たちにエールを送った。

総合資格学院賞を授賞した大方利希也さん(明治大学)
審査会後は懇親会が行われ、和やかな雰囲気の中、出展者や実行委員、スポンサー企業らで交流が図られた。また共催者である総合資格やスポンサー企業による副賞の授与、そして総合資格学院賞(明治大学・大方利希也「いまを生き。つなぐ。 〜年輪が時間を取り巻く小学校〜」)、ASJ賞(横浜国立大学・藤田一摩「路地にあふれる職と暮らし」)、グラフィソフト賞(神戸芸術工科大学・小谷総介「路地のある風景」、武蔵野美術大学・渡辺大輝「UTUTU」)の授賞が行われた。

グラフィソフト賞は、今年から新たに設けられたデザインセレクション部門から選ばれるが、同部門は学生のコンピューターを利用したデザイン思考とプレゼンテーションの向上を目的としている。審査員を務めた遠藤秀平氏は、「模型をつくる、図面を描くといったアナログな部分は建築新人戦のベースにあるが、近未来のデジタルについても知っておかなくてはならない」と同部門の意義を登壇して説明した。

共催・総合資格の関西本部本部長の福西健一より、副賞と総合資格学院賞の授与が行われた

来年で10年めを迎える建築新人戦。建築の登竜門としてこれまで多くの学生が参加してきたが、乾審査員長が指摘したように、近年は建築の道に進まない学生も多い。一方で、建築技術は日進月歩で、建築業界も転換期に差し掛かっている。乾審査員長の言葉やデジタル部門の創設など、新人戦が建築学生のためにさらに充実した大会へと、変化と飛躍を予感させる大会であった。

8選選出者と審査委員

審査会場を素早く片付け、懇親会が開催された
学生同士はもちろんのこと、学生と教員、学生とスポンサー企業と交流が行われた