NAGOYA Archi Fes 2018 中部卒業設計展

NAGOYA Archi Fes 2018 中部卒業設計展 ダイジェスト映像

NAGOYA Archi Fes 2018 中部卒業設計展

名称

NAGOYA Archi Fes 2018 中部卒業設計展

日程 一次プレゼン・企画審査:2018年3月13日(火)
ポスターセッション・公開審査・表彰:2018年3月14日(水)
作品展示:2018年3月13日(火)〜15日(木)
会場 吹上ホール(名古屋市中小企業振興会館)
審査員

【審査員長】
工藤 和美氏(建築家 / シーラカンスK&H 代表取締役 / 東洋大学教授)

【審査員】
前田 圭介氏(建築家 / UID)
早川 克美氏(情報環境デザイナー / 京都造形芸術大学教授 / F.PLUS 代表)
佐々木 勝敏氏(建築家 / 佐々木勝敏建築設計事務所)
大室 佑介氏(建築家 / 大室佑介アトリエ / 私立大室美術館館長)

総合司会 橋本 健史氏(建築家 / 403architecture [dajiba])
主催 NAGOYA Archi Fes 2018中部卒業設計展実行委員会
共催 株式会社総合資格/総合資格学院
NAGOYA Archi Fes 2018中部卒業設計展

2018年3月13日〜15日にかけて、愛知県名古屋市千種区の吹上ホール(名古屋市中小企業振興会館)にて、「NAGOYA Archi Fes 2018中部卒業設計展」が開催されました。

この設計展は、16の大学・専門学校の学生約150人で構成された、中部最大規模の建築学生団体「NagoyaArchiFes(通称NAF)」が主催する、中部地域の大学・短大・高専・専門学校の建築学生を対象とした卒業設計展です。5回目を迎える今年は、75作品がエントリーしました。

中部地域の建築界を盛り上げ、次代の建築を作り出す意欲を社会へ発信する事を目的としており、単に作品の優劣をつけるのではなく、学生・建築家・教育者を巻き込んでの批評を通じて様々な評価軸のもとで作品を見つめることで、建築という広い分野において、参加者が自己を見つめ直す機会としてほしいという想いをもって開催されています。

NAGOYA Archi Fes 2018中部卒業設計展
展示会場エントランス
NAGOYA Archi Fes 2018中部卒業設計展
展示会場の様子
NAGOYA Archi Fes 2018中部卒業設計展
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こうしたコンセプトから、本年度は、2日間の審査の間に出展者と審査員とが直接言葉を交わす機会が多く設定されました。1日目の審査では、全ての出展者が自身の作品のプレゼンの他に、「卒業設計において一番大切にしたこと」をテーマとしたプレゼン・ディスカッションを行い、2日目の審査では、1日目の審査で選ばれた10名の出展者によるポスターセッションと各審査員とのフリーセッションを経て8名のファイナリストが決定。ファイナリストによる公開審査での最終プレゼン・審査員を交えたディスカッションによって「最優秀賞」1作品と「優秀賞」2作品が選出されました。本レポートでは、白熱の公開審査の模様をお伝えします。

作品の審査
ポスターセッションの様子(1)
作品の審査
ポスターセッションの様子(2)

<審査員>

工藤 和美氏
審査員長
工藤 和美氏
前田 圭介氏
前田 圭介氏
早川 克美氏
早川 克美氏
佐々木 勝敏氏
佐々木 勝敏氏
大室 佑介氏
大室 佑介氏
橋本 健史氏
総合司会
橋本 健史氏

<公開審査レポート>

公開審査の冒頭、NagoyaArchiFes2018実行委員長 名古屋工業大学 森本創一朗さんは、「本年度の『見る 美せる 魅せられる』という大会テーマが表すように、出展者が美せる作品を、多くの人が見る中で、作品の新たな魅力を発見し、作品に魅せられるような場になるよう期待している」と開催宣言を述べました。

大会1日目の一次プレゼン、企画審査、2日目午前のポスターセッションを経て、ファイナリストに選出されたのは8作品。一人当たりプレゼン5分、質疑応答6分を持ち時間として、最後のアピールを行いました。

作品の審査
開催宣言を行うNAF2018実行委員長の森本さん
作品の審査
8名のファイナリスト

8名のファイナリストと作品は以下の通りです。

ID 11 金沢工業大学 西本 光さん

『治具のイエ』

自身が生活していた北海道札幌市、石川県金沢市、東京都杉並区の3地域を敷地として選定し、それぞれに、その土地特有の事象、モノ・コトが集積され、住む人がその土地に住むことの価値を感じながら生活できるような住宅を設計。

ID 24 愛知工業大学 木村 優介さん

『浜マルシェ 〜地域循環型市場の創出〜』

経済性を追求する巨大市場によってパッケージ化され、ブラックボックス化している水産業の現状に対して、かつての漁村である神奈川県の子安浜を敷地として選定し、生産から処理までの工程を見える化し、食育の場となるような新しい市場のプロトタイプを計画。

ID 29 名城大学 長谷川 滉一郎さん

『高架座賛歌-都市虚構空間:高架下の再解釈とそこの使用人と一般歩行者の交錯による劇場化-』

名古屋市の若宮高架下を敷地として選定し、広場と回廊を配置していくことで数タイプのステージをつなげた劇場群を作る提案。一般の人々を引き込む操作によって、アングラな雰囲気をもった発展途上の多様な表現活動が発信される拠点となる。

ID 36 信州大学 斉藤 知真さん

『6話の狩猟物語』

長野県天龍村を敷地として選定し、中山間地域を悩ます獣害や野生動物との共生について、来訪者に伝え、考えてもらうための施設を提案。狩猟の場から、解体処理までの流れを実際に見るとともに、レストラン、入浴・宿泊施設等での体験を通して、命について考える。

ID 51 名城大学 竹中 智美さん

『みんぱくレシピ-まちに開いた民泊空間による地域ストックの再生-』

名古屋市中村区名駅5丁目の一地区を敷地として選定し、まちにある空き家や空き家予備軍を改修レシピを用いて民泊用の共用部へと改修していく提案。まちの各部にできた空間はやがて架構で結ばれ、街全体で機能を補い合う民泊街となる。

ID 64 信州大学 有田 一貴さん

『彼らの「いつも」のツムギカタ-障がい者の認知補助を主題とした協同型就労施設の設計-』

長野市の街中を敷地として選定し、ハンディキャップを持つ方が働くための施設を提案。斜めの操作を取り入れることで、彼らにとって使いやすい空間を作ると同時に、施設内に挿入された市民の利用スペースと空間的なつながりを生じさせ、互いの認知を促し、交流する場となる。

ID 67 名古屋工業大学 伊藤 誉さん

『終始のまなび』

大阪池田小学校での凄惨な事件を背景に持つ池田市において、安全性の観点から子どもたちに、小中一貫の閉じられた学習環境を強いる考え方に異を唱え、まちの環境そのものが学校となるような学びの別荘を提案。校舎の中では得られない他者や実体験を通した学びの場を創出する。

ID 68 愛知工業大学 石井 秀明さん

『継承される土繋壁(フォークロア)〜地場産業と地域住民の共生方法〜』

常滑焼の生産地として窯業で栄えた愛知県常滑市瀬木町を敷地として選定し、地域に根差した街づくりをめざし、そのための施設として土壁を用いた常滑焼の工場を提案。この建築は地域住民によって更新されることにより、その行為自体がこの地域の文化を継承する一助となる。

既に数度のプレゼンやディスカッションを重ねていることもあってか、審査員からは、作品自体の趣旨やねらいを問う質問はもちろん、「この建築はこんな使い方もできると思うがどうか?」「設定したターゲット以外の利用者も想定できるのではないか?」など、出展者の作品に対する考えの深さを問う質問も多く見られたのが印象的でした。

波乱のディスカッション、最優秀賞の行方は…

各ファイナリストによるプレゼンと質疑応答の後、受賞作品を決定すべく、審査員を交えたディスカッションがスタート。各審査員による追加の質問と気になる作品へのコメントの後に、5名の審査員による1人1票ずつの記名投票が行われ、5人全員が別の作品を推す波乱の展開となりました。各審査員による推薦理由の発表やファイナリストから「作品で一番大切にした点」について、追加の発表も行われましたが、各審査員が作品ごとのそれぞれ異なった良さを評価している中で、限られた時間内に議論を収束させていくことは困難との判断から、審査員一人につき、3点・2点・1点と差をつけて3作品に投票していく形式で再投票が行われました。

その結果、ID67名古屋工業大学 伊藤 誉さんの『終始のまなび』が計10点、ID64信州大学 有田 一貴さんの『彼らの「いつも」のツムギカタ-障がい者の認知補助を主題とした協同型就労施設の設計-』が計7点と、それぞれ4人の審査員からの票を獲得し、他作品から頭一つ抜けた形となりました。両作品ともに、社会的な問題に正面から向き合って計画されており、建築としての検討もきちんとなされていると高く評価されており、特にID67については、池田小学校の凄惨な事件を背景として新しい形の学校建築を提案することで、モニュメント的な価値のある建築になりうるという点でも注目を集めました。

結果として、悲しい過去をもつ地域において、建築の力で未来に希望を抱かせるような計画となっており、社会的にもメッセージ性のある作品であると、すべての審査員が同意して、最優秀賞はID67に決定しました。また、最後まで最優秀作品と甲乙つけがたいと評価されていたID64が優秀賞の1作品目に決定し、ディスカッションは残る一枠の優秀賞をめぐる議論へと進んでいきました。

候補として挙がったのは、ID 36 信州大学 斉藤 知真さんの『6話の狩猟物語』とID 11 金沢工業大学 西本 光さんの『治具のイエ』の2作品。獣害を解決するための大胆なコンセプトの施設を提案し、支持を集めたID36に対して、ID11は審査員の前田氏から、「建築として形に落とし込むことに並々ならずこだわっている姿勢を評価したい」と推薦の声が上がりました。

「対照的で、とがった2案」と評された2作品でしたが、議論の中で「『建築のつよさ』という観点から見るとID11がよりよく見える」という意見があり、ID36の斉藤さん本人から、「この作品が獣害を解決するためのベストな形だとは思っていないので、これからも作りなおしていきたい」というコメントもあって、優秀賞2作品目はID11に決定しました。最後まで議論を盛り上げたID36に対しては、審査員長の工藤氏より「伸びしろの部分を評価したい」と、個人賞が贈られることになりました。こうして、大いに白熱した公開審査は幕を閉じました。

この後、工藤氏以外の審査員5名が、公開審査前に全作品の中から選定していた各個人賞の発表も行われました。個人賞の受賞者と作品、各審査員のコメントは以下の通りです。

工藤賞

ID 36 信州大学 斉藤 知真さん

『6話の狩猟物語』

工藤氏:課題に向き合おうとする斉藤さんの信念をとても高く評価しています。建築として評価するにはまだまだ伸びしろが大きいと思うので、今後のその点にも期待して賞を贈ります。

前田賞

ID 04 大同大学 北川 遼馬さん

『0 レ trick -1000年の智-』

前田氏:1000年という壮大な時間軸をテーマにして、設計した建築がやがて朽ちることによって、光が入り、種が芽吹いて、新しい場所が生まれてくるという発想に、作品のおもしろさを感じました。

早川賞

ID 17 大同大学 山下 陽輝さん

『FREE ADDRESS CITY 単身者空間分散型居住モデル』

早川氏:空間の中で、活動や営みが感じられるかどうかを評価の基準にしました。この作品からは少し先の未来の社会や生活をイメージすることができ、新しい社会構造が生まれるのではないかという期待を感じられました。

佐々木賞

ID 09 名城大学 山本 帆波南さん

『町に咲く産業の塔』

佐々木氏:敷地設定や内部空間が魅力的で、100年、200年たっても観光客が訪れるような場所としたらこれだと感じました。建築としては伸びしろも多いと思うので、その部分に期待も込めて賞を贈ります。

大室賞

ID 45 椙山女学園大学 横山 理紗さん

『卆寿の家 住み繋ぐということ』

大室氏:この作品のリサーチの方法や、設計の手法は、一生続けていくことができるものだと思います。建築を続けていくモチベーションにもなると思いますし、そういったものを卒業設計として完成させたということは非常に意味があるのではないかと感じました。

橋本賞

ID 22 金沢工業大学 高橋 仙実さん

『ウチウラ再紡』

橋本氏:地域ならではの豊かさを継承するために、自分自身が大切だと感じていて、そのままにしておきたいと思っている場所に対して、設計者として向き合い、提案して、形を作っていくということに取り組んだ姿勢に最大限の賛辞を贈りたいと思います。

また、来場者による一般投票で決定するシート賞と模型賞には、以下の2作品が選ばれました。

シート賞

ID 58 信州大学 齋藤 裕さん

『MoSA,Omachi』

模型賞

ID 16 名古屋工業大学 稲垣 好美さん

『本のやどり木-大高に根付くまちの図書館-』

そして、本大会を共催する総合資格学院が選定する総合資格学院賞には、ファイナリスの中からID 51 名城大学 竹中 智美さんの『みんぱくレシピ-まちに開いた民泊空間による地域ストックの再生-』が選ばれました。

(株)総合資格中部本部 竹谷より
総合資格学院賞の授与
審査員長の工藤氏より最優秀賞の授与

公開審査の最後に、審査員長の工藤和美氏から学生たちに、「卒業設計を学生生活の集大成とは考えず、これを作り上げて初めて次のスタートラインに立ったと考えてほしいと思っています。ディスカッションを繰り返す中で自身の案が磨かれていくのが感じられたと思うので、この二日間からたくさんの宿題を持ち帰って、自分自身のその先へ伸びて行って欲しいと思います」と、エールが送られました。 表彰式後の懇親会で見られた、学生たちが審査員の先生方と、自身の卒業設計の持つ可能性について笑顔で意見を交わす姿は、この二日間の経験が、学生たちの次の一歩へとつながっていくことを確かに感じさせるものでした。

公開審査
公開審査
授賞式
授賞式

集合写真