トウキョウ建築コレクション

トウキョウ建築コレクション

希少な修士学生による展覧会

2011年3月1日(火)から2011年3月6日(日)の6日間、代官山ヒルサイドテラスを舞台に、『トウキョウ建築コレクション2011』〜5th ANNIVERSARY〜が開催された。

例年、2月から3月にかけて、全国各地で多くの学生設計展が開催されるが、そのほとんどは、卒業を間近に控えた大学4年生を中心とした卒業設計展である。

本展覧会は、2007年に修士学生による修士設計・修士論文を集め、日本初の全国規模の修士設計・論文展としてスタートした。以後、一貫して「修士学生の研究をもとに、建築学における分野を超えた議論の場を作り出し、建築業界のみならず社会一般に向けて成果を発信していくこと」を目標として開催されている。

5周年となる今年は、「建築家とは何か?」というテーマを掲げ、ゲストの方々だけでなく、学生も含めた建築に携わる全ての人々を「建築家」と捉え、建築と社会との関係について再考する機会と位置づけられ、その柱として「全国修士設計展」、「全国修士論文展」、「プロジェクト展」、「連続講演会『建築家を語る』」の4つの企画が盛り込まれた。

熱く長い1日

本展覧会では、期間中に学生が出展する「全国修士設計展」、「全国修士論文展」、「プロジェクト展」の3つの企画それぞれでイベントが催され、そのトリを飾るのが「全国修士設計展」の公開審査会である。公開審査会は10時から学生によるプレゼンテーションがスタートし、巡回審査・公開審査を経て、20時の授賞式で終了する。ほぼ丸1日をかけて審査会が行われることも希少であり、大学院での二年間、建築を追求し続けた修士学生の思いが伝わってくるプログラム構成である。今年の公開審査会には、1次審査を通過した18作品がエントリーされた。

会場となったヒルサイドプラザは、座席を確保しようと多くの学生が列を成し、立ち見が出るほどの盛況で、審査の前から熱気に包まれた。プレゼンテーションでは各出展者が作品の設計趣旨を解説。巡回審査では各審査員の踏み込んだ質問に対して思いの丈をぶつける修士学生の姿があった。

そして、公開審査。
審査委員は、伊東豊雄(伊東豊雄 建築設計事務所)、大野秀敏(東京大学大学院教授)、手塚貴晴(手塚建築研究所)、長谷川逸子(長谷川逸子・建築計画工房)、古谷誠章(早稲田大学教授)、山本理顕(横浜国立大学大学院教授)、六鹿正治(日本設計代表取締役社長)の7氏。

満員の聴衆が固唾をのんで展開を見守る中、白熱した議論の末、グランプリに選出されたのは東京芸術大学 水野悠一郎さんの「空本(空間の形と姿)〜the figure and shape of the space〜」。
本の中にカットアウトを施した11冊から成るこの作品は、一見、建築物の提案には見えない。しかし、手にしてページを捲ると、そこには空間が出現し、そして変化し、空間内での移動を体感することができ、空間構成に対する創造を喚起させる。既成概念に囚われない、新しい建築のカタチとも言えるこの独自の視点と創造性が審査員に評価された。
他、各審査員の視点で「審査員賞」が設けられた。
各賞の受賞者は以下の通り。

■グランプリ
作品名:「空本(空間の形と姿)〜the figure and shape of the space〜」
受賞者:水野悠一郎さん (東京芸術大学)
■伊東豊雄賞
作品名:「Cathedral for Social Activities ―市民活動の集積が生みだす新しい公共的な建築の提案―」
受賞者:山田明子さん (東京工業大学大学院)
■大野秀敏賞
作品名:「未完の空間 ―篠原一男の射程を超えて―」
受賞者:徳田直之さん (芝浦工業大学大学院)
■手塚貴晴賞
作品名:「酪農家の家 ―さくらんぼ畑と最上川と六畳倉庫小屋―」
受賞者:小松拓郎さん (工学院大学大学院)
■長谷川逸子賞
作品名:「現代的村落共同体 ―農漁業の所有構造と結びついた地域共同体の設計―」
受賞者:中山佳子さん (横浜国立大学大学院)
■古谷誠章賞
作品名:「融即建築 ―白川静の漢字論に見られる漢字の抽象と象徴を手がかりとした空間―」
受賞者:田中了太さん (神戸大学大学院)
■山本理顕賞
作品名:「集落の学び舎 ―ベトナムの小学校建設プロジェクト―」
受賞者:山本悠介さん (東京都市大学大学院)
■六鹿正治賞
作品名:「公営住宅再考 ―縮小社会下における建替スキーム提案―」
受賞者:矢尻貴久さん (早稲田大学大学院)

「建築家」と「建築家」

トウキョウ建築コレクション 2011

審査後の講評では、各審査員からが異口同音に「既成の修士設計の枠に囚われすぎている」「抽象の世界ではなく現実と向き合うこと」「設計者としての考えを伝達できる設計力が必要」というメッセージが参加者に伝えられた。
学部生と修士学生の設計を見比べると、学生自身の設計(作品)に対する考えの深さが大きく違うことに気づく。
その違いからも、大学院生としての二年間、彼らがどれだけ濃密な時間を重ねてきたか想像できる。
自分自身の理論を構築し、作り上げられた設計。審査員の厳しい質問に怯むことなく、自身の言葉で堂々と応答する横顔は、建築学生のそれではなく、紛れもなく「建築家」の顔である。
学部生の設計展では学生を気遣いながら質問する審査員も、修士学生に対しては一人の「建築家」として相対しているからこそ、単なる労いではないメッセージを贈るのだろう。
この先輩建築家からの厳しいメッセージは、間もなく学生生活に別れを告げ、建築人として社会へ乗り出す参加者への期待が込められた、最高の贈り物であったに違いない。

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「トウキョウ建築コレクション」概要

名称

トウキョウ建築コレクション

日程

平成23年 3月1日(火)〜3月6日(日)

会場

代官山ヒルサイドテラス

審査員

伊東豊雄(伊東豊雄 建築設計事務所)
大野秀敏(東京大学大学院教授)
手塚貴晴(手塚建築研究所)
長谷川逸子(長谷川逸子・建築計画工房)
古谷誠章(早稲田大学教授)
山本理顕(横浜国立大学大学院教授)
六鹿正治(日本設計代表取締役社長)

主催

トウキョウ建築コレクション2011 実行委員会

協賛

株式会社総合資格

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