広島8大学卒業設計展2012

広島8大学卒業設計展2012

 核兵器の投下された広島が、平和な空間の創造される場所となることを願って設立された「広島平和祈念卒業設計賞」。その賞が与えられる「広島8大学卒業設計展2012」が3月10日(土)〜12日(月)にかけ、被爆建築である旧日本銀行広島支店において開催された。

 名前のとおり、広島を中心とした8大学によって始まった本設計展だが、今年は8校に加えて6校の招待校が参加。また、昨年から始まった公開審査会に加え、シンポジウムも開催された。

参加校(8大学):
近畿大学、広島工業大学、広島国際大学、広島大学、福山大学、安田女子大学、広島女学院大学、山口大学 招待校:岡山理科大学、米子工業高等専門学校、高知工科大学、穴吹デザイン専門学校、呉工業高等専門学校、鳥取環境大学

 奇しくも、東日本大震災からちょうど1年となる3月11日に審査会は行なわれることとなった。本設計展のテーマ「平和祈念」は戦争に対するものであるが、平和を祈念するということでは災害も対象となる。平和祈念という、本設計展がかかげるテーマが持つ意味合いは、例年に増して大きなものになった。

シンポジウム「FASHION × ARCHITECTURE」

 設計展初日の10日は、「広島市まちづくり市民交流プラザ」でシンポジウムが行なわれた。

シンポジウムのタイトルは、「FASHION × ARCHITECTURE − モードとメディアは、いかに現実を動かすのか − 」。パネリストは、建築家として活躍する一方、建築系ラジオというメディアを主宰し、積極的に情報発信をしている松田達氏(東京大学先端科学技術研究センター助教)。そして、メンズファッション雑誌の編集を経て、現在インターネット・ウェブマガジン「OPENERS」の編集委員を務める梶井誠氏。建築とファッションという異なる立場の2人の話を聞こうと、会場には建築学生をはじめとした多くの人が詰めかけた。

 シンポジウムは、パネリストの自己紹介のプレゼンテーションから始り、その後、現在活躍する日本のファッションデザイナーの作品や、建築のスライドを見ながら議論が展開。「建築は、プレタポルテ(既製品)ではなく、オートクチュール」「ファッションではモードという言葉を使うが、建築では使わない」「ファッションはそのトレンドが循環するが、建築のトレンドは直線で循環することがない」など、建築とファッションを対比することで話が深まっていった。

 また、「ネットの時代は、雑誌の時代に比べて消費するスピードが速いため、大きな流れが生まれにくい」「プロジェクトがスタートしてから完成まで、長いもので5〜10年もかかる建築は、時代とシンクロしにくい」など、建築とファッションの時代性についても語られた。

 ファッションという、建築とは異なる分野と対話することで、建築の視点からだけでは気づかない多くのことが語られたシンポジウムであった。

シンポジウムの会場。前半は、スクリーンに映し出されたファッションの写真などを見ながら議論は展開された
左から松田達氏(東京大学先端科学技術研究センター助教)梶井誠氏(「OPENERS」編集委員)

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2作品に票が割れた審査会

 11日の午前中には、審査員による巡回審査が行なわれた。設計展期間中、作品が展示される旧日本銀行広島支店では、1階だけでなく金庫室であった地下にも作品が並び、静けさのなか、審査員や来場者は、じっくりと作品を鑑賞していた。

審査員は、円形、総ガラス張りの金沢21世紀美術館などを手がけ、2010年にはプリッカー賞を受賞した西沢立衛氏(横浜国立大学大学院Y-GSA教授)。建築と土木のデザインの融合をはかった豊橋駅東口駅前広場など建築都市設計分野の作品を手がける宇野求氏(東京理科大学教授)。広島を拠点として、「六甲枝垂れ」や犬島アートプロジェクト「精錬所」などを手がけた三分一博志氏の3人。異なる視点をもつ審査員がどのような評価をくだすのか、注目の審査となった。

巡回審査によって、展示74作品のなかから、2次審査(公開審査)に進む11作品が選出された。選ばれたのは下記の作品。

No. 名前 学校名 作品名
ID.01 東大典 近畿大学 「こどもと世界をつなぐかべ」
ID.04 植木優行 近畿大学 「登山住宅」
ID.05 宇治川和樹 近畿大学 「わたしは誰にも会いたくない。」
ID.19 松村紫舞 広島大学 「水辺×仮設」
ID.27 服部彩乃 広島工業大学 「家族と暮らす子供のホスピス」
ID.33 島智美 広島国際大学 「あいだ と つながり」
ID.34 中島梨佐 広島国際大学 「ツナガルイノチ」
ID.35 松田佳奈 広島国際大学 「かげとひかりのひとくさり」
ID.37 花房志帆 広島女学院大学 「すむを再生する」
ID.55 田村彰浩 山口大学 「忘却の記憶を興す」
ID.62 島本幸弘 岡山理科大学 「生きる建築」

 午後15:00にはいよいよ公開審査がスタート。2次審査に進んだ11作品のプレゼンテーションが行なわれ、その後、広島平和祈念卒業設計賞を含む優秀作品3作品を選出するための講評および質疑応答が行なわれた。

 選ばれた11作品は、島に動物園を計画する作品(ID.34「ツナガルイノチ」)や、窓や建物の間に布状の壁を設け、光や風、人の存在を感じるように意図した作品(ID.37「すむを再生する」)など、ユニークな作品が選出された。1次審査(巡回審査)の重み付けも点数に入れて、議論・投票を数回行なった結果、ID.19 松村さんの「水辺×仮設」、ID.35 松田さんの「かげとひかりのひとくさり」2作品が審査員の票を集めた。

松村さんの作品は、広島の京橋川沿いに、仮設の建物とピロティを設けた高層住宅を計画したもの。洪水がきて下層部分の仮設が流されても、すぐに再生する町を意図した。一方、松田さんの作品は、歌川広重の「東海道五十三次」の浮世絵から、自分のイマジネーションでイラストを起こし、それをレイヤーにして建築をおこした作品。

敷地や機能の説明もしていない松田さんの作品に対しては、「他の作品とアプローチが違う」(西沢立衛氏)や「セクシーさやエロスを持った作品」(宇野求氏)という声があがった。松村さんの作品も「低層部を変わった形にしたタワーマンションにすることで上層部も変わっていくおもしろさがあるのでは」(西沢立衛氏)と評価された。

敷地を設定し、震災という現実的問題を想定した松村さんの作品、対する松田さんは、敷地は設定せず、広重の絵とそれに触発された自分のイマジネーションをもとに計画した作品。まったく異なる性格の両作品を比較することは難しいが、グランプリを決めなくてはならない。宇野氏と三分一氏の得票では決まらず、最後の西沢氏の評価に委ねられることになった。「(震災から1年を経て)今、みんなで何かをやろうとしていることが、形になっている」(西沢氏)という点が汲み取られ、「広島平和祈念卒業設計賞」は松村さんに贈られることとなった。

その後、各審査員が個人で選ぶ審査員賞および今年から始まった一般賞の発表があった。受賞作品は下記の作品。

受賞名 No. 名前 学校名 作品名
広島平和祈念卒業設計賞 ID.19 松村紫舞 広島大学 「水辺×仮設」
優秀賞 ID.01 東大典 近畿大学 「こどもと世界をつなぐかべ」
優秀賞 ID.35 松田佳奈 広島国際大学 「かげとひかりのひとくさり」
優秀賞 ID.05 宇治川和樹 近畿大学 「わたしは誰にも会いたくない。」
西沢立衛賞 ID.33 島智美 広島国際大学 「あいだ と つながり」
宇野求賞 ID.34 中島梨佐 広島国際大学 「ツナガルイノチ」
三分一博志賞 ID.01 ※三分一博志賞は、優秀賞と同時受賞
展示作品を真剣に見てまわる学生たち。旧日本銀行広島支店は、被爆建築として重要文化財に指定され、一般公開されている
左から審査員の三分一博志氏、西沢立衛氏、宇野求氏、そして司会の松田達氏

学生がプレゼンテーションするそばで、模型を覗き込む西沢立衛氏

グランプリを獲得した松村紫舞さんのプレゼン
グランプリを獲得した松村さんの模型。高層住宅の下層部分は、ピロティになっている
 

得票で2位になった松田さんの作品
松田さんの模型。広重の浮世絵からおこしたイラストが模型のレイヤーとなっている
 

受賞者には、当学院学院長・岸隆司から副賞が贈られた

「いくつかの建築の重要な議論がされた」と、岡川貢氏(広島大学准教授)が審査会後の挨拶で述べたように、今年の設計展は個性的な作品が多く、議論も熱を帯びた。また、当学院学院長・岸隆司が挨拶で述べたように、来場した人々は濃密な時間を共有できただろう。今年の設計展が実行委員や出展者にとって貴重な経験になり、彼らのこれからの糧になったに違いない。

審査会後の挨拶で、当学院学院長・岸隆司が「(本設計展が)中国・四国を代表する設計展になった」と感想を述べた
2日目の夜には、レストランで懇親会が行なわれた

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「広島8大学卒業設計展2012」概要

名称 広島8大学卒業設計展2012
日程 2012年3月10日(土)〜12日(月)
会場 旧日本銀行広島支店
主催 広島8大学卒業設計展実行委員会 arc-kids
Webサイト

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