せんだいデザインリーグ2012 卒業設計日本一決定戦

-
大雪のせんだいメディアテーク。
3月4日(日)から3月11日(日)にかけて、大学生による卒業設計日本一を決める、日本最大の卒業設計イベント「せんだいデザインリーグ2012」が開催されました。舞台となった会場は例年通り、「せんだいメディアテーク」。公開審査が行われた3月5日はあいにくの大雪となりましたが、それでも会場には全国各地から多くの建築学生がつめかけ、寒さを吹き飛ばすほどの熱気に包まれました。
昨年は会期中に東日本大震災が発生し、多大な被害を受けた本大会。震災直後は、次回の開催も危ぶまれたほどですが、仙台建築都市学生会議のメンバーをはじめ、多くの学生や関係者たちの尽力により、今年も無事に開催することができました。あの震災からちょうど1年が経ち、またデザインリーグのスタートからちょうど10回目となる記念の年でもあり、あらゆる面で意義深い大会となりました。
-
審査員長を務める伊東豊雄氏。
この大会に込める思いは、審査員長である伊東豊雄氏にもひとかたならぬものがあるようで、大会パンフレットの冒頭には、参加者たちを挑発する、次のようなメッセージが記されています。
「(前略)しかしメディアテークも被災したのですが、本当に被災したのは応募作品の思想だったのではないかと想う気持ちを拭うことができませんでした。何故なら私は、近年の卒業設計展に疑問を持ち続けていたからです。 その疑問はプレゼンテーションの華やかさに比して内容の貧しさに因っています。卒業設計に限らず、大学の設計課題では常にデザインのコンセプト、設計思想を問われます。だからほとんどの応募作品にはそれなりのコンセプトが述べられています。しかし問われているのはコンセプトのリアリティ、つまり思想の切実さです。どうも私には多くの提案に見られるコンセプトは単にコンセプトのためのコンセプトでしかなく、やむにやまれぬ感情から発せられたものは稀有に感じられてならないのです。 今年の卒業設計には大震災をテーマにした作品が数多く寄せられるに違いありません。しかしそれらがどれ程被災地の人々の心の底にまで響く提案であるのか、会場が仙台であるだけにそのリアリティが問われることになるでしょう。真に心の奥底に響く作品の多いことを期待してやみません。」
(『せんだいデザインリーグ2012 卒業設計日本一決定戦 公式パンフレット』より)
-
会場にはTVカメラの姿も。
今年の大会の応募総数は631作品。あらかじめ3月3日(土)に行われた予選を通過した上位100作品の中から、さらに3月5日(月)午前のセミファイナル(巡回審査)で、10作品を選びます。会場には所狭しと展示作品が並び、また全国から多くの建築学生がつめかけたため、広い会場にもかかわらず、大混雑の様相。その隙間を縫うようにして、審査員たちは会場内をめぐり、採点を行いました。
セミファイナルを通過した上位10作品
- 劉棟さん(京都工芸繊維大学) 「『栖』〜石庫門建築から考える中国現代都市の住処〜」
- 西倉美祝さん(東京大学) 「明日の世界都市」
- 松井一哲さん(東北大学) 「記憶の器」
- 三浦和徳さん(東北大学) 「ドキュメンテッド・アルカディア」
- 伊藤幹さん(東北大学) 「不在のポートレート」
- 塩原裕樹さん(大阪市立大学) 「VITA-LEVEE」
- 今泉絵里花さん(東北大学) 「神々の遊舞」
- 山縣吾朗さん(東京都市大学) 「都市の水琴窟」
- 海野玄陽さん、坂本和繁さん、吉川由さん(早稲田大学) 「技つなぐ森」
- 張昊さん(筑波大学) 「インサイドスペース オブ キャッスルシティ」
午後からは、会場を東北大学の川内萩ホールへと移動し、いよいよファイナル(公開審査)の開催。今年はファイナルに残った10作品のうち、やはり震災をテーマにした作品が4作品と多く、それに加えて中国人留学生による中国を舞台にしたメガプロジェクトが2作品と、特徴のある決勝戦となりました。また、東北大学から4人が選ばれるなど、被災地である東北勢の健闘が光りました。
-
ファイナルの会場となった東北大学百周年記念会館川内萩ホール。
-
ファイナリストを待ちわびる来場者。
ファイナルは、まず10人全員によるプレゼンテーションから。決められた制限時間内に、自らの作品のテーマ、コンセプト、調査・研究の成果、そして思索の末にたどりついた自らの作品の全容を解説していきます。せんだいデザインリーグでは、メディアテークから作品を搬送し、舞台上にセッティングしてプレゼンを行うため、実物の模型を交えながら審査員との質疑応答が行われます。やはり10選に残るだけに、いずれの作品も考え抜かれた内容であり、各参加者による堂々としたプレゼンテーションが披露されました。
-
午前中に選出された10作品を、ファイナルの会場に運びセッティング。
-
福岡デザインレビュー実行委員会から送られたという、仙台を励ますメッセージ入りの横断幕。
-
日本一に輝いた、今泉さんのプレゼン
審査員たちから高い評価を受けたのは、やはり震災をテーマにした作品。最終的には、今泉絵里花さん(東北大学)と松井一哲さん(東北大学)の2人の作品に票が集中しました。
両者の作品に共通しているのは、敷地として実在の被災地を選び、ボランティアやフィールドワークを通じてその土地に何度も足を運び、被災者から直接話を聞き取る作業を重ね、さらに建築として実現可能性の高い提案であるという点です。両者ともに、大会パンフレットで伊東審査員長が書いていた「コンセプトのリアリティ」「思想の切実さ」「被災地の人々の心の底にまで響く提案」ということを、自らの意思で結実させていった作品だったといえるでしょう。
最終的に両者を分けたのは、個人の住宅を提案した松井さんに対し、地域住民のための施設を提案した今泉さんのほうが「公共性」という点で、審査員たちから評価が得られたということです。しかし、両者ともきわめてレベルの高い作品であり、両者を分けたのは本当にわずかな差だったといえるでしょう。まさに10周年という記念すべき大会にふさわしい結果だったといえます。

■日本一 | |
作品名: | 「神々の遊舞(あそび)」 |
受賞者: | 今泉絵里花さん(東北大学) |
宮城県石巻市雄勝町に600年続く国の重要無形文化財「雄勝法印神楽」。津波により甚大な被害を受けたこの地でいったい何ができるのか、以前のような活気ある風景を取り戻すためにはどうすればよいのかという思いから、雄勝の人々を結び付けていた「雄勝法印神楽」にたどり着いたという今泉さん。この地で600年間、度重なる津波の被害を乗り越えながら、代々受け継がれてきた伝統の舞を中心に据えることで、人々の精神の拠り所となる新たな場所を創造するプロジェクト。京都の「流れ橋」にならい、津波に対してあえて逆らわない構造とし、津波が起こるたびに床は流れるが、橋脚部は残る。残された橋脚の上に新たに床を架けることで、容易に復旧が可能。津波の記憶は橋脚部に刻まれ、次の世代へと受け継がれていく。



■日本二 | |
作品名: | 「記憶の器」 |
受賞者: | 松井一哲さん(東北大学) |
被災者の心の中にだけ存在する、かつて住んでいた「家」の記憶。松井さんは、時間とともに風化し、消えていく運命にあるその家を模型化することで「記憶の器」を作り、それをもとに未来の建築へつなげていく新しい手法を提言する。岩手県山田町で、津波により実際に家屋を失った高齢被災者との対話を重ねながら、かつての生活の記憶を引き出し、そこに建築家として新たな提案を重ねることで、その人にとって本当に住み心地のいい家を考えていく。4つの模型は松井さんが最初に提案したプロトタイプの模型から、対話を重ねるごとに新たな提案を重ねていった過程を表している。


■日本三 | |
作品名: | 「技つなぐ森」 |
受賞者: | 高海野玄陽さん、坂本和繁さん、吉川由さん(早稲田大学) |
育林の技術が500年間受け継がれてきた奈良県吉野町。しかし、現在は後継者不足など様々な問題により、林業自体が衰退しつつある。吉野林業を再興するために、後継者を育成し、さらに素材としての木、および林業に対する人々の認識を転換するための拠点作りを行う。



■特別賞 | |
作品名: | 「明日の世界都市」 |
受賞者: | 西倉美祝さん(東京大学) |
世界的な企業が持つ同一価値基準を、建築として社会に還元しようとするプロジェクト。「ユニクロ」をモデルに、地縁とは異なる新たな公共性を創造する。

■特別賞 | |
作品名: | 「VITA-LEVEE」 |
受賞者: | 塩原裕樹さん(大阪市立大学) |
震災により土地の半分が削り取られた小さな集落の復興プロジェクト。津波の記憶を残しつつ、その浸水ライン上に防潮堤の機能を兼ね備えた総合的なインフラを築く。

■特別賞 | |
作品名: | 「インサイドスペース オブ キャッスルシティ」 |
受賞者: | 張昊さん(筑波大学) |
中国のメガ学園都市構想。650ヘクタールという広大な土地に、10の大学を併設し、9万人の学生を収容する巨大な学園都市を建設する。
「せんだいデザインリーグ2012 卒業設計日本一決定戦」概要
名称 | せんだいデザインリーグ2012 卒業設計日本一決定戦 全国修士設計展 |
---|---|
日程 |
作品展示 2012年3月4日(日)〜3月11日(日) 公開審査 2012年3月5日(月) |
会場 |
作品展示 せんだいメディアテーク 公開審査 東北大学百周年記念会館川内萩ホール |
審査員・司会 |
審査員
司会
|
主催 | 仙台建築都市学生会議 |
特別協賛 | 株式会社総合資格 |
後援 |
|
Webサイト |