「第11回 JIA関東甲信越支部 大学院修士設計展2013」

「第11回 JIA関東甲信越支部 大学院修士設計展2013」

名称

「第11回 JIA関東甲信越支部 大学院修士設計展2013」

開催日 展覧会:展示 2013年3月15日(金)〜3月17日(日)
審査会:2013年3月16日(土)
会場

建築家会館

審査員・司会

審査委員

  • 槇文彦氏(槇総合計画事務所)
主催

日本建築家協会関東甲信越支部
大学院修士設計展実行委員会

特別協賛

株式会社総合資格

Webを飛び出し、今年から一般展示がスタートした
関東最大規模の修士設計展

日本建築家協会関東甲信越支部が主催する「第11回 JIA関東甲信越支部 大学院修士設計展2013」が、15日から17日にかけての3日間、渋谷区神宮前の「建築家会館」で開催されました。同設計展は2003年の開始以来、過去10回にわたりWeb上でのみ公開されてきた大学院生による設計展。11回目を迎える今年から、より開かれた設計展をめざし、一般展示および審査会が開催されることとなりました。

会場には、関東甲信越地方の各大学院から選抜された27作品を一同に展示。それぞれの大学院を代表する作品だけに、いずれ劣らぬ完成度の高さ。修士課程での2年間の研究成果が込められた、ハイレベルな設計展となりました。

槇文彦氏による巡回審査は関係者のみで厳かに実施

一点一点を丁寧に鑑賞する槇文彦氏

16日には建築家の槇文彦氏を審査員に招き、審査会が行われました。一次審査では、巡回審査により、27作品の中から上位6作品を選出。当初は、巡回中、槇氏と出展者との質疑応答が予定されていましたが、静かな環境で、ゆっくり落ち着いて審査してもらおうということで、関係者のみによる厳かな審査となりました。

巡回審査に参加したのは、槇氏を筆頭に、実行委員会の石田敏明氏(前橋工科大学教授/実行委員長)、若色峰郎氏(日本大学名誉教授)、古市徹雄氏(千葉工業大学教授)、石原健也氏(千葉工業大学准教授)、下吹越武人氏(法政大学准教授)の6名。先程まで賑わっていた会場から一転し、静まり返った空間のなかで、展示作品の一点一点を丁寧に鑑賞する槇氏の姿勢が印象的でした。

左から順に、若色氏、古市氏、石田氏、槇氏、下吹越氏、石原氏

選抜された6人により繰り広げられた
修士設計ならではのハイレベルなプレゼン

一次審査を通過したのは、下記の6作品

No. 名前 学校名 作品名
03 猪野梓さん 慶應義塾大学院 「SEIJO ECO HOUSING PROJECT -デザインルールを用いた長期的な住宅地開発手法の提案-」
11 金子知弘さん 前橋工科大学院 「矛盾する建築 重ね合わせ現象を生む空間のケーススタディ」
13 古俣尚志さん 工学院大学院 「空間深化研究 -継起的空間による縮築化-」
15 占部将悟さん 東京電機大学院 「Gradational Eoundary -柔らかな境界の重層構成を用いた都市から室までの提案-」
20 川上祥志さん 千葉工業大学院 「MANHATTAN GREEN 2409」
25 河西孝平さん 東京工業大学院 「谷川浜復興計画 農林漁業の融合による漁村集落の地域再生モデル」

二次審査は場所をサロンに移し、一次を通過した6人による公開プレゼンテーションからスタート。プレゼンの持ち時間は10分間と、通常の学生設計展より長めの設定。研究の内容が大学生よりも緻密かつスケールの大きなものが多いため、これでもまだ全容を説明するには足らないと思われたほどです。各参加者ともプレゼンには工夫を凝らし、コンピュータによるシミュレーションや、3DCGを用いるなど、修士設計ならではのハイレベルなプレゼンが展開されました。

プレゼンの後は、各参加者に対し、5分間の質疑応答タイム。槇文彦氏を筆頭に、実行委員会のメンバーたちから矢継ぎ早に質問が繰り出されました。大学生の設計展では、途中で萎縮し、まともな返答ができなくなる人が出るのですが、やはり修士設計ともあり、繰り出される質問に対し、堂々と受け答えのできた参加者が多かったという印象でした。

栄冠に輝いたのは東京工業大学院の河西さんの作品

プレゼン終了後、審査時間をはさみ、いよいよ各賞の発表となりました。

見事、最優秀賞に輝いたのは、津波の被害を受けた宮城県石巻市の漁村の復興をテーマに扱った、河西孝平さん(東京工業大学院)の作品。

さらに優秀賞には、金子知弘さん(前橋工科大学院)、川上祥志さん(千葉工業大学院)、猪野梓さん(慶應義塾大学院)、佳作には古俣尚志さん(工学院大学院)、占部将悟さん(東京電機大学院)の作品がそれぞれ選ばれました。

審査終了後、槇文彦氏から「これからの時代は主流のない時代であり、自分が何かを考え出さなければならない時代です。自分でよく考え、行動し、そこから何かを見つけ出すことが必要になります。どこまで考えたものを作り出せるか、自分の行動を信じ、活動していってください」と、次世代の建築界を担う参加者たちに激励の言葉が述べられました。

表彰式では総合資格学院 学院長の岸より副賞が贈呈され、「修士設計展はこれまでの学生生活の集大成として、また自らの力量を試す場として、非常に重要なイベントです。この体験を糧として、今後は世界に向けて、夢あふれる、安心で安全、快適な建築作品を送り出していってください」と、参加者全員にエールが送られました。

河西さん(左)と総合資格学院 学院長の岸
総評を述べる槇文彦氏
最優秀賞 「谷川浜復興計画 農林漁業の融合による漁村集落の地域再生モデル」

津波により甚大な被害を被った宮城県石巻市谷川浜(やがわはま)の復興プロジェクト。漁業が主な産業だった同地域だが、同時に農業による半自給自足的な生産活動も行われてきたことに着目した河西さんは、現行の復興計画案を踏襲しつつ、農業および林業の再生も含めた新たな漁村集落の再生モデルを提案する。2年間にわたる同地でのボランティア活動と2ヶ月間の漁師体験を経て、詳細なフィールドワークを行ってきた河西さんは、「聞き書き」の手法により、漁村集落特有の生活を作り出していた77のパターンを抽出。この結果、浜の生活は漁業、農業、林業を循環するように展開されていたことを発見。現行の復興計画案の高台移転や防潮堤の建設などで追加されるパターンでは、この連携が崩れてしまうため、彼が独自に考案した17のパターンをさらに追加することにより、有機的な連携の再構築をめざす。「海見櫓」「番屋リビング」「獅子振舞台」など、新たに考案されたパターンは、河西さんの現地での実体験をもとにしたもの。自分の行動を信じ、活動を通じて建築的な解答を導き出した河西さんの姿勢に、審査員の槇氏から高い評価を受けた作品。

河西孝平さん
(東京工業大学院)

優秀賞 「矛盾する建築 重ね合わせ現象を生む空間のケーススタディ」

人間が内包する矛盾や葛藤が、芸術活動にとっては重要であるという認識から、自ら「矛盾する建築」をめざしたという金子さんは、モダニズム建築の純粋主義を批判したロバート・ヴェンチューリの著作『建築の多様性と対立性』をもとに思想を展開。建築の多様性と対立性は「重ね合わせ」の現象に表れるというヴェンチューリの言葉をヒントに、逆に「重ね合わせ」の手法を用いることで、矛盾を孕んだ建築を生み出す方法を提案する。自ら「合成型」「変化型」「心象型」と名付けた「重ね合わせ」の手法を用いた3つのアーキタイプを考案し、それをもとに3種類の建築を計画した作品。

金子知弘さん
(前橋工科大学院)

優秀賞 「MANHATTAN GREEN 2409」

今後400年間ですべての建築が作り替えられると予測されているマンハッタン。400年後を想定し、かつて原住民が暮らしていた頃のように、緑が生い茂る大地の復活をめざした作品。川上さんは、自らの海外留学経験をもとに、マンハッタンをプロトタイプとし、環境・緑化などを優先した都市計画を提案。現在、分断された状態で点在するマンハッタンの緑部を、新たにグリーン・コリダー、グリーン・スパイン、グリーン・ストリート、グリーン・リボンの4つの線として整理・統合し、これらを平面的、立体的に交差させることにより、マンハッタンの緑部を人々に身近なものとして現出させる。さらにこれら4つの線が集中的に交差する緑化ポテンシャルの高い敷地に、この都市を象徴する建築物を計画。表層を芝や苔で覆われたこの建築物は、マンハッタンの地に山のように立ち上がり、立体緑地公園として機能する。

川上祥志さん
(千葉工業大学院)

優秀賞 「SEIJO ECO HOUSING PROJECT -デザインルールを用いた長期的な住宅地開発手法の提案-」

近年の住宅開発において、「豊かさ」ということを考えた場合、「豊かな街並みの形成」と「個々の住空間の豊かさ」の両立ができていないことが問題であると捉えた猪野さん。この問題を解決するべく、街づくりのデザインルールを設定し、このルールを共有することで「街並み」と「個々の住空間」の豊かさの両立を図る。敷地として選んだのは世田谷区成城。もともと広々とした屋敷が立ち並ぶ豊かな街並みであったが、近年は人口の流入に伴い、敷地が細分化され、緑地も減少し、個性的な住宅も減っているという。この地域に「隣接する住戸同士のヴォイド空間を連結させる」という新たなデザインルールを導入。ヴォイド空間が広がることにより、緑化ポテンシャルが上昇し、自律的な作用で緑が発生し、高木が立ち上がる可能性を高める。コンピュータを用い、2010年から2060年までの緑化予想図を10年おきにシミュレートするなど、実験的な試みが見られた作品。

猪野梓さん
(慶應義塾大学院)

佳作

「空間深化研究 -継起的空間による縮築化-」

古俣尚志さん
(工学院大学院)

佳作

「Gradational Eoundary -柔らかな境界の重層構成を用いた都市から室までの提案-」

占部将悟さん
(東京電機大学院)

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