トニカ北九州建築展2013

トニカ北九州建築展2013

名称

トニカ北九州建築展2013

開催日

2013年2月22日〜2月24日

会場

北九州イノベーションギャラリー KIGS

主催

北九州建築デザインコミュニティtonica

特別協賛

株式会社総合資格

個性を打ち出すtonicaの実施形態

トニカ北九州建築展2013は、2013年2月22日(金)〜24日(日)の期間、北九州イノベーションギャラリー KIGSで開催され、22日(金)には一般参加者と学生による審査、23日(土)にはクリティークによる審査・講評会が行われた。

格子状の壁面が印象的な会場
当学院は来場者に建築系書籍をプレゼント

今年で3回目を迎える本展は、北九州の建築学生有志(北九州市立大学、九州工業大学、西日本工業大学)によって組織される北九州建築デザインコミュニティtonicaによって運営されており、tonicaは、本建築展だけでなく「北九州の学生にしかできないこと」をコンセプトに、様々な活動を行っている。

今年のテーマは「何が創られたか、それが重要だ」。このテーマには、「誰が作ったかではなく、何を作ったかを見たい」という思いが込められており、過去2回の横文字のテーマとは異なり、より伝わりやすさを意識した日本語のテーマとなった。

トニカ北九州建築展の大きな特徴であるのが、すべての出展者がすべてのクリティークと作品についてやりとりのできる「一対一対話システム」。最終審査進出者だけがプレゼンテーションの機会を得る設計展が多いなか、本建築展はその点が大きく異なる。地方都市であることは大都市と比べると充足されない部分もあるが、ここではそれを逆手に取り、すべての出展者が講評を得ることのできる環境を創出している。

クリティークと出展者の距離が
近いのが本建築展の特徴
著名建築家も卒業設計だけは生涯忘れないと言う話をよく耳にする。建築のスタートラインに立つ学生が、培ったもののすべてを注ぎ込んで、学生生活の意義をかたちに残そうとそこに集約する。そんな学生生活の結晶とも言える卒業設計に対して、すべての学生が「建築の大先輩」から講評を貰える環境が地方都市である北九州にはある。

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学生の目線

開催初日である22日(金)は一般参加者と学生による審査が行われた。
様々な設計展を取材していると、学生とゲストの審査結果が全く異なる結果となる場面に遭遇することが度々ある。おそらくこれは、それぞれの目線の違いによるものだろう。
魅力的なプランであるかどうかという視点はそれぞれ共通する部分だが、ゲストは実務家という目線が加わるため、周辺環境との関係性や収益性、さらに構造的目線や運営面も考慮する傾向にある。これらへの配慮がなければ建築はただのオブジェになってしまう危険性も含んでおり、ここを深く検討している作品は評価を得ることが多いと感じる。

学生同士だけに活発に質問が飛び交う  
そこかしこで建築談義に華が咲いた

一方、学生は自身が模型やポートフォリオの制作を行っているため、それらがどれぐらいの労力や時間を費やしたものなのか、展示を見てそのプロセスを敏感に察知することができる。その点が学生とゲストでは大きく異なると感じられる。
さて、一般参加者と学生による審査で最優秀に選出されたのは、圧倒的な模型の造形力が注目を集めた、北九州市立大学の平田進太郎さんの作品「落雲荘」(斜面と向き合う富士山山小屋の提案)。

ハニカム状のグリッドが居室空間となる   
精密で圧倒的ボリュームの平田さんの模型
平田進太郎さんには賞状が手渡された
この作品は平田さん自らの体験を基に計画された。
山頂に近い標高3,000mに計画された山荘は、従来の山小屋のイメージを覆す外観と快適性を兼ね備えている。施工上の問題点など現実レベルでの課題はあるものの、圧倒的な存在感だけでなく、細部の細かな作り込みにも目を見張るものがあったこの作品が、最も多くの学生の支持を集めた。

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実務家の目線

いよいよ23日(土)は、クリティーク4名による審査・講評会である。
前日の審査によって気づくところがあったのか、模型やポートフォリオを持ち帰り、修正を加えて再展示する学生の姿も見られた。こんな場面からも、学生の卒業設計に対する思い入れが伝わってくる。

●クリティーク

井手健一郎氏(rhythm design主宰)

金野千恵氏(建築設計コンノ主宰)

古森弘一氏(古森弘一建築設計事務所主宰)

大室佑介氏(atelier Ichiku 主宰)

●コーディネータ

福田展淳氏(北九州市立大学教授)

まずは、一次審査からスタート。出展者一人あたりプレゼンテーション1分、質疑2分が持ち時間である。限られた時間で自身の思考を伝えるために、各出展者は要点をまとめた手帳を片手にクリティークが巡回してくるのを待つ。クリティークは4つのフェーズに分けられた時間割のなかで、順番に全展示作品を審査していった。

井手氏と学生の質疑応答  
身振り手振りで熱っぽく伝える古森氏
熱心に模型を観察する金野氏  
プレゼンボードに見入る大室氏

一次審査終了後、クリティークによる最終審査進出者選定が行われ、最終審査に進む5作品が発表された後に、各クリティークから講評が述べられた。

  • 001 小畑 俊洋  さん(九州産業大学) 「隙間と住処」
  • 004 澤田 豊   さん(九州産業大学) 「一人っ子の大家族」
  • 009 前畑 亘紀  さん(九州産業大学) 「土居振舞(つちふるまい)」
  • 012 江渕 翔   さん(九州産業大学) 「ふるさとの顕在」
  • 013 山内 彩友美 さん(九州大学)   「ちいさなむらとおおきながっきゅう」
真剣な眼差しで講評に聞き入る最終審査進出者  
井手 健一郎氏による講評

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構評

●井手健一郎氏

想像していたよりレベルが高く、プレゼンもそうだがコンセプトなどの中身もしっかりしていると感じた。しかし、周囲や他者との関係性までしっかり考えている作品。つまり、本当に建てようとする目線で考えられていたのは、数点しかなかった。社会に出て設計に関わって行こうとするならば、その目線が必ず必要になります。

●金野千絵氏

卒業設計は自分を思い返しても本当に大変だったと思います。ご苦労様でした。皆さんに伝えた いのは、自分自身の中で完結するのではなく、誰がどうやって作るのか等まで目線を広げて考えていって欲しいということ。今回は、都市や周囲との繋がりを考えているかを重視して選考しました。

●古森弘一氏

なぜこの建築を建てるのか?この点を考えているかどうかが大きな差になっていると感じました。  こんな時代ですから、建てないという選択肢も多くあります。なぜこの建築がそこに必要なのかという目線で、もう一度、自分の卒業設計を見つめ直してみてください。

●大室佑介氏

 私の選考基準は、純粋に建築をどれだけ楽しんでいるかという点でした。模型やプレゼンボード を見れば、どれだけ楽しんでのめり込んでいたかがよく分かりますね。好きであることが重要な 要素の一つだと思います。

最終審査は、初めにクリティークそれぞれが推薦する2作品が発表された。
ここで、012、013が3票ずつを集め、まず頭一つ抜け出す展開となる。 その後、プレゼンテーション3分+質疑7分で行われ、各出展者は一次審査では伝えきれなかった考えを発表し、クリティークからの質疑にも臆せずに答えていった。さすがに最終選考に残るだけあって、どの学生も自分の考えをしっかりと持っているのが分かる。しっかりとクリティークを見据え、自分の言葉で考えを伝えようとする姿がとても印象的だった。

山内さんによるプレゼンテーション
質疑に答える江渕さん
質疑をする金野氏
このプレゼンテーションを踏まえた上で、クリティークによる再投票が行われたが、クリティークの評価は動かず。その結果、012、013が同票のままとなったため、コーディネーターの福田氏の発案により、最も推薦する作品を4人のクリティークからそれぞれ選出することになった。 その結果、奇しくもこの二作品が二票ずつの同票となり、三度真っ二つに割れる展開に。

思いもよらぬ展開に、さらに各クリティークから、それぞれの作品に対する評価が述べられ、質疑が行われた。

金野氏:(012・江渕さんに対して)まだまだ挑んで欲しいポイントがある。この状態でも建築は建ってしまうが、それでも建ってしまうからこそ、その可能性を評価したいと思います。

古森氏:そもそも対象人数がそれぞれ違う。山内さんは村全体、江渕くんは限られた数人。ただ対象が1人だとしてもこの建築によって圧倒的に幸せになる人がいるということを伝えられれば、江渕くんは勝てると思います。山内さんは、このままもっと追及していってほしい。

大室氏:(山内さんに質問)少し意地悪な質問になりますが、建具が大きく開いているということは部分的に閉じられるところがあるはずです。このことに関してはどう考えていますか。

山内さん:完全に開放することり、閉じられた一部分のなかで開いているほうが、柔らかいつながりができより居心地がよいものになると思っています。

井手氏:(012・江渕さんに対して)敷地に対する思い入れが強く、この建築に対する熱意が非常に大きいのも分かるし評価できる。実際、この建築に命をかけてでも建てたい、というところまでの気持ちがあるのは江渕くん。 ただ、私が評価したいのは客観視できているかというところ。あくまで自分の熱意とは別のところで客観視して問題に向き合う、敷地に向き合うことが重要だと思う。
そういう意味では山内さんのほうが、敷地の調査・問題点の抽出ができている。
2つの作品ともに素晴らしいのには変わりないが、2人を評価する項目が全く違うので優劣がつけられない。

江渕さん:(客観視できていないということでしたが)私自身は、この場所が大好きだし、とことん向き合ってきたので、つきつめることはできたと思っている。

金野氏:(012山内さんに対して)この建築は、こういった建築をつくろうと決めてから始めたのか、この敷地を見てこの結果に行き着いたのかどちらですか。

山内さん:敷地が先です。実際敷地行ったのは2回。もともと論文を書く上でこの敷地と出会った。1回は論文を書く上での調査。もう1回は地元のお祭りに参加しました。

福田氏(コーディネーター):なかなか決まりませんね。最優秀2人ではダメでしょうか。 ちなみに昨日の学生投票の結果はどうだったんですか。

昨日の学生投票。 ここでも二人は7票で同票であった。
ここでコーディネーターの福田氏は、次のように提案をした。

福田氏:2人ともに優れているところがあり、またその優れているところは2人ともに全く違う。
私たちはそれをともに評価したい。クリティークの皆さんいかがでしょうか。

クリティーク一同誰も異を唱える者はいない

福田氏:それでは最優秀2人ということで決定です。

こうして、希に見る白熱した展開となった最終審査は幕を閉じた。

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村内の通りを解放し、学校として活用する山内さんの計画。限界集落・高齢化による過疎など今の日本が直面するテーマに切り込んだ作品。綿密な調査も評価された。

自分自身の故郷を敷地に選定。その熱い思いとヒューマンスケールで、現実に建つ計画が評価された。メンテナンスを住民が行っていく設定となっている。

その後、表彰式ならびに閉会式が開催され、クリティークを代表して地元出身の古森氏からは、「九州から外に発信していく場ができていることはほんとに素晴らしいことです。
受賞した・選考に残った方もそうじゃない方も、そもそも今日このイベントに参加し、意見を交換したことが非常に重要です。外に飛び出して、どんどん言葉を探していってください。
皆さんはこれからの建築を担っていく人材です。ここで終わるのではなく、今日得たものを更に磨いて自分の建築に落とし込んでいってください。私たちクリティークとともに頑張っていきましょう。」と、同じ建築人としての目線で、近い将来には社会へ飛び出す学生に、心のこもったメッセージが伝えられた。

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