第12回 JIA関東甲信越支部 大学院修士設計展2014
第12回 JIA関東甲信越支部 大学院修士設計展2014
名称 |
第12回 JIA関東甲信越支部 大学院修士設計展2014 |
---|---|
日程 |
展 示:2014年3月14日(金)〜3月16日(日) 審査会:2014年3月15日(土) シンポジウム:2014年3月16日(金) |
会場 | 芝浦工業大学 豊洲キャンパス〈教室棟1階 テクノプラザ〉 |
【1日目】・ 審査会・ 審査員 |
|
【2日目】・ シンポジウム パネラー・ 司会 |
■実行委員兼司会
|
実行委員長 |
|
主催 |
公益社団法人 日本建築家協会 関東甲信越支部 |
協賛 |
株式会社総合資格/総合資格学院 |
JIA会館から会場を移し、より規模を拡大した設計展へ
日本建築家協会関東甲信越支部が主催する「第12回 JIA関東甲信越支部 大学院修士設計展2014」が、14日から16日にかけての3日間にわたり開催されました。創設から10回目まではWEB上で開催されてきた本設計展は、昨年度から一般公開を開始。そして、今年度は昨年の会場である建築家会館から芝浦工業大学へと会場を移し、より開かれた、そして多くの作品が展示される設計展として開催されました。
会場となった芝浦工業大学のテクノプラザには、昨年の27作品から12作品増えた39作品が展示されました。関東甲信越地方の各大学院から選抜された、各大学院を代表する作品だけあって、模型の完成度だけでなく、その裏付けであるリサーチまでもが非常に緻密になされており、出展者が過ごした修士課程の2年間が如何に濃密であったかが伺い知れる作品ばかりでした。
出展者全員のプレゼンから伊東豊雄氏による巡回審査へ
15日に行われた審査会では、まず出展者全員による2分間のプレゼンテーションが行われました。一般的な設計展では、ポートフォリオや模型による審査を通過した学生だけがプレゼンテーションを行うケースが多いのですが、短い時間で作品をしっかりと評価することができないデメリットも指摘されています。本設計展では、なるべく学生に自らの考えを伝える場を設けようとの考えから、今年度より全出展者によるプレゼンテーションが導入されました。限られた時間ながらも、その中でいかに自分の考えを伝えようかと、プレゼン内容を吟味したことが伝わる発表が続きました。
-
- 伊東豊雄氏
その後には、伊東豊雄氏による巡回審査が行われました。プレゼンテーションで気になった作品や、完成度の高い模型などを、時には屈んでのぞき込みながら、一点づつ丁寧に審査を行っていきました。その結果、最終審査に進む作品8点が以下の通り決定しました。
■最終審査進出作品(8作品) |
|
03 石田 卓朗さん(神奈川大学) |
![]() |
20 馬場 雅博さん(東京藝術大学) |
![]() |
23 増田 裕樹さん(東京都市大学) |
![]() |
26 星 洸佑さん(東京理科大学) |
![]() |
30 矢板 悟さん(日本大学) |
![]() |
34 高垣 麻衣花さん(法政大学) |
![]() |
38 平山 健太さん(早稲田大学) |
![]() |
39 高橋 賢治さん(東京藝術大学) |
![]() |
ベスト8選出者による最終審査がスタート
一次審査を通過した8人による最終プレゼンテーションがスタートしました。最終審査でのプレゼンテーション時間は8分、その後に審査員と実行委員による質疑応答が4分。一人あたり12分間の持ち時間とあって、一次審査とはうって変わって、膨大なリサーチや作品に仕上げるまでのプロセス、また、作品にかける想いがそれぞれの出品者から熱っぽく語られました。それに呼応するかのように、審査側からもプロの目線に立った実務レベルでの質問が投げかけられ、最終選考にふさわしいレベルの高い緊迫した審査会となりました。
神奈川大学 石田さんが最優秀賞の栄冠を勝ち取る
最終審査終了後、最終選考が行われ各受賞者が決定しました。
最優秀賞の栄冠に輝いたのは、実家の近くである神奈川県の子安浜における提案を行った、石田卓朗さん(神奈川大学)の作品。優秀賞には、高垣麻衣花さん(法政大学)、平山健太さん(早稲田大学)がそれぞれ選ばれました。
表彰式で審査員の伊東豊雄氏からは、「予想していたよりも、現実の問題点やリアルな可能性を取り扱った作品が多く、私も非常に刺激を受けました。最終選考に選ばれなかった学生の作品でも、情熱を感じることができるものはいくつもありました。デザインからのアプローチやリサーチからのアプローチなど、手法はいろいろあって良いと思いますが、とにかく“建築”をつくって欲しい。」と建設業界の将来を担う若者に激励の言葉が述べられました。
また、表彰式では本イベントをサポートする当学院学院長の岸隆司から受賞者に副賞が贈呈され、「皆さんがここで得た経験は何物にも代え難い貴重な財産になるでしょう。これまで積み上げてきたものを糧に、建築の世界でこれから大きく羽ばたいていって欲しい。」と全ての出展者にエールが贈られました。
最優秀賞 | 「「実家」としての住宅計画 ―子安浜における木造住宅密集地区の住環境改善―」 実家近くの子安浜を敷地に選定した小規模コミュニティの計画。今後さらに顕在化するであろう高齢化に起因する社会的な問題について、丁寧なリサーチと居住者の視点に立ったプラン、また、実現可能と思わせる提案であることが評価されての受賞となりました。 ■伊東豊雄氏 「これからは、東京ではなく地方を建築でどう元気にできるかがカギだと思います。現在、地方は過疎が進行していますが、田舎を想い盆暮れだけでも帰省する人々がいるのはまだ救いだと想っています。そのような状況の現代において、数軒程度の小さなこの規模のコミュニティの提案は、本当に実現可能ではないかと思えます。今後の日本を救う提案になる可能性を秘めていると思います。」
|
---|---|
No.03 ![]() |
|
優秀賞 | 「庁舎建築・再考 ―商店街と共につくる町―」 東京都北区十条の商店街を舞台とした高垣さんの提案。庁舎の機能を分解し、商店街の中に落とし込むことによって、庁舎をとけ込む様に存在させる手法が評価されての受賞。 ■伊東豊雄氏 「もっと町に合う組み立て方があるように思えるが、視点は共感できます。いつの間にか町と庁舎を行き来する感じが良いですね。」
|
---|---|
No.34 ![]() |
|
優秀賞 | 「渡り鳥を介した国際交流」 千葉県手賀沼一帯を敷地とした平山さんの提案。 ■伊東豊雄氏 「人間と動物、建築と動物という関わりを考え直す視点がとても良いと思います。人間も自然の一部であるわけですから。私も仕事などで東南アジアへ行く機会が最近は多いですが、あちらへ行くとそれらの関係性が非常に良いと感じます。」
|
---|---|
No.38 ![]() |
|
|
表彰式の後には、参加者および関係者が一堂に会し懇親会が催されました。ここに至るまでの努力を労い、近況や今後の進路を報告し合う学生や、関係者から作品についてより詳細な講評をもらう姿が見られ、会場のそこかしこで建築談義に花が咲きました。

【2日目】〜シンポジウム「修士設計の位置」 〜
2日目(3月16日)はシンポジウム「修士設計の位置」が同会場にて開催されました。
パネラーは今村 雅樹氏(日本大学 教授)、鵜沢 隆氏(筑波大学 教授)、小川 次郎氏(日本工業大学 教授)、木下 庸子氏(工学院大学 教授)、堀越 英嗣氏(芝浦工業大学 教授)の5名を迎えつつ、実行委員長の石田 敏明氏(前橋工科大学 教授)、実行委員兼司会の石原 健也氏(千葉工業大学 教授)と共に討論会は進行しました。
-
- 今村 雅樹氏
日本大学 教授
(パネラー)
-
- 鵜沢 隆氏
筑波大学 教授
(パネラー)
-
- 小川 次郎氏
日本工業大学 教授
(パネラー)
-
- 木下 庸子氏
工学院大学 教授
(パネラー)
-
- 堀越 英嗣氏
芝浦工業大学 教授
(パネラー)
-
- 石田 敏明氏
前橋工科大学 教授
(実行委員長)
-
- 石原 健也氏
千葉工業大学 教授
(実行委員兼司会)
シンポジウムの構成は、前半に各大学院での修士教育プログラムと、設計展への出展実績を紹介、後半は昨日の修士設計審査会受賞作品の感想と、これからの修士設計の在り方について議論していく形でした。
まず前半の修士教育プログラムについてですが、各校特色のあるものでした。
カリキュラムに沿った形で修士教育を行っている大学もあるのに対し、学生の興味や個性を尊重する方針をとっている研究室もあります。中には「英語による設計演習を行なう」、「建築・地域空間の企画・設計を、学科内での専門領域の垣根を越えて共同で行う(PBL)」といった紹介もあり、各大学の修士教育に対するスタンスが色濃く反映されており興味深いものがあります。
この特色ある教育プログラムの発表に対して、共通点を挙げるとすれば「社会とのつがなり」を教育に取り入れている点でしょうか。
「今はあまり使われていない農地や、自然が残された林などの土地を調査し、その土地の使い方の提案や、人を呼び込むアイデアを考える」「地域にくりだし、建築物の保存・再生を実地で学ぶ」など様々ですが、社会と密着した学習といった点では近いと感じました。そういった教育の一環として、地域との連携によるワークショップ等を通して学ぶことも多いようです。
また、修士課程は1級建築士の受験資格が得ることが可能なカリキュラムであるか、といった点も話にあがりました。各校とも工夫してカリキュラムを作成しており、受験資格の取得に向けた体制は整えているようですが、実際はインターンシップに学生が時間を割く余裕があまりなく、修了時に実務経験2年の受験資格を満たすことがなかなかできず、インターンシップを選択した学生も、やっと1年の実務経験を取得しているのが現状のようです。
後半は、修士設計審査会の受賞作品について、パネラーの感想を述べていました。
「想像の中でも、リアルな社会性がある」「ゲーム感覚ではなく、現実的に問題を定義、解決法を模索している」などといった意見と共に、設計展から汲み取れる学生たちの最近の傾向や思考についても言及していました。
そういった中、今後の修士設計の在り方の考える上で「研究テーマの定め方」が注目されました。2年間の修士課程で自分のテーマを、「どうやって見つけるか」ということが、今後も修士設計のポイントになっていくではないか、ということです。
パネラーからは「パーソナルな関係の中から微差を取り上げ、テーマに関連付ける学生が増えている」「歴史をもう一度しっかり学び、広い視野をもって新しい取り組みについて考えてほしい」などといった意見があがっていました。
また「面白いテーマを考えてくる学生は多い。その面白い思考をどう成果に結びつけるか、そのために教員ができることは何か」といった点を模索しているということも述べていました。それぞれ特色はありますが、学生の意見を尊重し支援するといった姿勢は、どの大学も一緒のようです。
もうひとつ付け加えるなら、こういった修士設計を通じて得られた経験は、就職活動で大きなアピールポイントになるという点です。「社会に役立つであろうテーマを自ら定め、形にすることは希望先の企業で高評価されることが多い」ということも再確認されました。
最後に修士設計審査会 最優秀賞受賞者の石田 卓郎さん(神奈川大学)への質疑応答、昨日プレゼンテーションができなかった学生の作品紹介を経て、3時間半に渡る熱い討論会は幕を閉じました。
学部に比べると、修士設計の発表の場は数えるほどしかない現状、学生の意欲向上、社会にでるための地力養成の場として、改めて修士設計展の意義が各大学教員からも重要視されていました。当学院としても、未来の建設業界を担うであろう若者が切磋琢磨するこの貴重な場を、継続的にサポートし続けていきます。