広島8大学卒業設計展2014

広島8大学卒業設計展2014

名称

広島8大学卒業設計展2014

日程 作品展示 2014年3月14日(金)〜3月17日(月)
審査会 2014年3月14日(金)
会場 広島工業大学 五日市キャンパス3号館 3F製図室
審査員
  • 武井誠氏(TNA)
  • 竹山聖氏(設計組織アモルフ/京都大学准教授)
  • 吉村靖孝氏(吉村靖孝建築設計事務所/明治大学特任教授)
司会・
進行
  • 倉方俊輔氏(大阪市立大学大学院准教授)
主催

広島8大学卒業設計展実行委員会

特別協賛

株式会社総合資格

さらなる盛り上がりを見せる中国地方最大の卒業設計展

3月14日(土)〜17日(月)の3日間にかけて、「広島8大学卒業設計展2014」が開催されました。この設計展は、中国地方の8大学(近畿大学工学部、広島工業大学、広島国際大学、広島女学院大学、広島大学、福山大学、安田女子大学、山口大学)が中心となり、毎年この時期に開催されている卒業設計展です。今年は上記の8大学に加え、招待校として6校(穴吹デザイン専門学校、岡山理科大学、岡山県立大学、呉工業高等専門学校、鳥取環境大学、米子工業高等専門学校)が加わり、合計14校、総数72作品の出展となりました。
この設計展は、例年、広島市の中心部に位置する「旧日本銀行広島支店」を会場として開催されてきましたが、今年は同建物の修復工事のため、急遽、会場を広島工業大学・五日市キャンパスへと変更。広島市の中心部からややはなれた場所での開催となりましたが、それでも大勢の学生らが詰めかけ、活気のある大会となりました。

広島工業大学・五日市キャンパスは、広島市の南西部、小高い丘の上にある。
会場となった3F製図室からの光景。広島市街や瀬戸内海を見下ろすことのできる、風光明媚な環境。

製図室を舞台に繰り広げられた審査員3人による巡回審査

今回、審査員として招かれたのは、武井誠氏、竹山聖氏、吉村靖孝氏の3人。さらに司会として招かれた倉方俊輔氏を加え、4人での進行となりました。
12時からはじまった一次審査は、3人の審査員による巡回審査。これにより上位10作品を選出。今回の会場は、普段は製図室として使われている教室のため、展示にも製図用の机が使われていたりと、製図室ならではの光景が見られました。  一次審査の結果、以下の10作品が選出されました。

■上位10作品

名前 学校名 作品名
一ノ瀬貴之さん 広島大学 「形式と細部から -removing the arbitrariness- 普遍性と地域性に焦点をあてる。」
矢野晋平さん 近畿大学 「農園島 -中洲・巡る・学ぶ- 中洲に子供たちの農林業体験場を計画する」
庭田尚一郎さん 広島大学 「ケンチクホウセンカ 自立した循環を引き継ぐ建築は鳳仙花のように」
關和也さん 広島大学 「導かれるカタチ 景観と力学的合理性の二つの視点から形態創生」
青戸貞治さん 近畿大学 「技紡ぐ里 たたら製鉄継承のためのプログラムの提案」
中島大輔さん 広島工業大学 「人々の行為を浮かび上がらせる建築 〜建築内ランドスケープ〜 まるで屋内化された公園のような建築」
右近康介さん 広島工業大学 「ヒューマンな余白 河沿いに建つ住居群の協調建替え。」
手銭光明さん 近畿大学 「縮小都市 -駅の上・重なる都市- 広島県に循環する小さな都市を開発する」
小松泰介さん 広島工業大学 「市街地の立体公園 ビルと公園の希薄な関係を改善する。」
中村健太さん 近畿大学 「TRANS ARCHITECTURE -変容する景観- 海に浮かぶ建築」
武井誠氏
竹山聖氏
吉村靖孝氏
司会を務めた倉方俊輔氏

一次通過の上位10人は全員が男性
近年では珍しい光景となった二次審査

14時30分より、本格的な審査会となる二次審査がスタート。
冒頭、この設計展の発起人である広島大学准教授の岡河貢氏より、開会の挨拶がありました。広島は丹下健三の代表作「広島平和記念資料館」をはじめ、戦後の近代建築の夢を実現する場所であり、学生たちにもその夢をぜひ実現して欲しいこと、さらに今年参加してくれた審査員の方々へのお礼の言葉、また毎年作品集を制作している総合資格学院への感謝の言葉などが語られました。
挨拶に引き続き、選出された10人全員によるプレゼンテーションがスタート。今回、一次審査を通過した10名は、全員が男性という、近年の女子の強さが目立つ設計展においては、珍しい結果となりました。各参加者のプレゼンの持ち時間は5分間。竹山氏から「設計者としての力量、完成度、センス等々、全体的にクォリティの高い力作ぞろい」と評されるなど、レベルの高い熱戦が繰り広げられました。

本設計展の発起人である岡河貢氏
立ち見が出るほど大勢の観客が詰めかけた会場

長時間におよぶ議論の末についに優勝者が決定!!

10人のプレゼンテーションに続き、最終審査へ。
それぞれの参加者の個性が光るプレゼン大会となりましたが、吉村氏からの「広島は原爆という人為的な災害を除くと、実はきわめて自然災害の少ない、抽象的な建築が立ち上がりやすい環境」であるということや、また竹山氏からの「男性の建築家は超越的な視点で設計し、女性の建築家は身体的な視点で設計すると言われているが、今回は全員が男性ということもあり、超越的な視点からの作品が1位にふさわしいのではないか」等々の議論が続き、最終的に、最も抽象性が高く、超越的な視点からの設計が行われたということで、中村健太さん(近畿大学)の作品が最優秀賞に輝きました。また、2位には青戸貞治さん(近畿大学)、3位に中島大輔さん(広島工業大学)、4位に一ノ瀬貴之さん(広島大学)という結果となりました。本大会はJIA全国学生卒業設計コンクールの予選も兼ねており、上位3名はこの後、全国大会へと進みます。

広島平和祈念卒業設計賞(最優秀賞)&
武井誠賞(同時受賞)
「TRANS ARCHITECTURE -変容する景観- 海に浮かぶ建築」

中村さんの作品は、広島県呉市の海洋上に浮かぶ、可動型の建築。もともと呉は、海軍工廠や造船所などで栄えた、海とのつながりの深い場所であったが、現在の人々の生活は海と縁遠いものになっている。そこで人々と海との関係性を取り戻すために、カフェ、レストラン、ギャラリー、ホテル、教会などの機能を備えた複合施設を、海の上に浮かべることを考えた中村さん。船の往来の激しい呉湾の状況に配慮し、航路を塞いでしまわないよう、それぞれの施設がバラバラに移動し、常に配置を変えることにより、景観が変わり続ける非日常性を体験できる空間となる。竹山氏からは「離合集散のポエティックさが良い」、吉村氏からは「地上の建築が持つ不自由さからの解放感がある」など、高く評価された作品。最も強く推した武井氏からは個人賞が贈られた。

中村健太さん
(近畿大学)

2位(優秀賞) 「技紡ぐ里 たたら製鉄継承のためのプログラムの提案」

青戸さんが敷地に選んだ島根県仁多郡奥出雲町は、山陰地方の奥深く、現在の日本で唯一「たたら製鉄」が行われている地域。「たたら製鉄」とは、日本古来より伝わる製鉄の技法で、「玉鋼(たまはがね)」という、日本刀の原料となる高純度の鋼を生み出すための製鋼法。青戸さんの提案は、この技術を後世に継承し、さらにこの地域特有の生活文化を維持していくための、資料館を併設した「たたら製鉄」の体験施設。建物のデザインは登り窯をイメージし、斜面にそって点在する各施設をコールテン鋼の屋根でつなぐ。吉村氏からは「基本的な設計力が高く、細かいスケールで形状がうまく考えられている」と評された。

青戸貞治さん
(近畿大学)

3位(優秀賞) 「人々の行為を浮かび上がらせる建築 〜建築内ランドスケープ〜 まるで屋内化された公園のような建築」

中島さんが敷地に選んだのは「広島市民球場跡地」。広島の繁華街から至近であるため、きわめて利便性が高いが、同時に世界遺産である原爆ドームと隣接しているため、この土地の今後の活用法に関しては、市民の間で議論となっている。中島さんは、この土地を広島市民の集いの場とするために、市民が創作活動を発表するための複合施設とすることを提案する。建物は原爆ドームの高さに合わせ、低層の大きく広がったボリュームとし、四方を開口して様々な方向からのアクセスを可能にするなど、外との連続性を意識した形状となっている。建物の正面は、広島平和記念資料館と原爆ドームとを結ぶ軸線上に置き、その二つの存在をしっかりと受け止める。竹山氏からは「設計がうまく、平面、断面の流れが、音楽のように心地よく感じる」と評された。

中島大輔さん
(広島工業大学)

4位(優秀賞)&吉村靖孝賞(同時受賞) 「形式と細部から -removing the arbitrariness- 普遍性と地域性に焦点をあてる。」

一ノ瀬さんが敷地に選んだのは、かつて海軍兵学校があったことで有名な、広島湾に浮かぶ江田島。現在はカキの養殖が主要な産業となっており、むき身カキの生産量で日本一を誇る島だが、高齢化を含め、様々な問題が進行しつつある。一ノ瀬さんの提案は、カキ産業の労働集約および、それ以外の産業の振興のための複合施設の提案。養殖や加工など、カキの処理に関する工程を一貫化して効率化すると同時に、直販所やギャラリースペースなど、地域との調和を考慮した施設も配置する。合理的精神(モダニズム)の普遍性と、江田島ならではの特殊な地域性の両立をめざしたという本作。吉村氏から「一見同じような小屋が並んでいるように見えるが、それぞれの施設の機能ごとに建材を変えるなど、作り方が丁寧」と評された。

一ノ瀬貴之さん
(広島大学)

竹山聖賞 「導かれるカタチ 景観と力学的合理性の二つの視点から形態創生」

構造系の研究室に所属する關さんの作品は、耐震性の問題の克服をめざし、独自に考案したシェル構造の複合福祉施設。敷地は、温泉地として名高い大分県別府市。關さんは、まず別府を取り巻く山々の形状から初期形状を抽出し、そこからひずみエネルギーが最小となる形状へと構造を最適化。型枠の部材を直線面で構成するなど、施工にも配慮している。普段は、一般向け入浴施設、温泉治療施設、老人向けデイサービス、食堂などを兼ね備えた複合福祉施設だが、災害時には避難所として機能する。構造のみならず、建築計画においても高く評価された作品。

關和也さん
(広島大学)

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