福岡デザインレビュー 2015

20年目を機に、新たな展開を目指す

会場の九州大学椎木講堂
会場の九州大学椎木講堂

2015年3月6日(土)、3月7日(日)の2日間に亘り、「福岡デザインレビュー 2015」が開催された。今年度で20回という大きな節目を迎えた本設計展は、会場を昨年度までのアイランドシティ「ぐりんぐりん」から九州大学椎木講堂に移し、テーマ「機」を掲げ新たな一歩を踏み出した。テーマ「機」には、開催20年という節目の年に、建築の原点である機能性について再度見直し、新たな転機を導く場となるという意味が込められている。

審査員・内藤廣氏
審査員・内藤廣氏

審査員は、会場・椎木講堂を設計した内藤廣氏(東京大学名誉教授)はじめ、構造家の小西泰孝氏(小西泰孝建築構造設計代表)、「ふじようちえん」で日本建築学会賞を受賞した手塚由比氏(手塚建築研究所代表取締役)、建築家の傍ら、メディアで建築批評を積極的に発信する藤村龍至氏(東洋大学講師、藤村龍至建築設計事務所主宰)、熊本出身で日本建築家協会新人賞など受賞歴を持つ、葉祥栄氏(葉デザイン事務所)、福岡に拠点を置き精力的に作品を手掛ける、九州大学・准教授の末廣香織氏の6人。また、講評会の司会進行を佐賀大学で教鞭を執る平瀬有人氏が務めた。

審査員・手塚由比氏
審査員・手塚由比氏
審査員・葉祥栄氏
審査員・葉祥栄氏
審査員・小西泰孝氏
審査員・小西泰孝氏
審査員・藤村龍至氏
審査員・藤村龍至氏
審査員・末廣香織氏
審査員・末廣香織氏
審査員・平瀬有人氏
審査員・平瀬有人氏

今年も熱いポスターセッションが展開

ポスターセッション。学生は作品について熱心に語った。
ポスターセッション。
学生は作品について熱心に語った。

グランプリを決めることではなく、レビュー(批評)を重視する本設計展の特徴は、巡回審査において、作品の横に立つ作者(学生)と審査員がその場で議論するポスターセッションにある。新しい椎木会場のステージと客席通路には、応募約360作品から選出された82作品とその作者が並び、巡回してくる審査員と議論を繰り広げた。ポスターセッションは学生にとって自分の作品と考えを披露する晴れの舞台。壇上で作品の意図を審査委員に必死に伝えようとプレゼンする学生の姿が印象的だった。

見事、賞を手にした受賞者たち
見事、賞を手にした受賞者たち

2日間に亘るポスターセッションを経て12作品が選出。決勝では12作品によるプレゼンテーションと公開審査を経て最優秀賞1作品と優秀賞2作品が選ばれた。最優秀賞は日本大学・堤昭文さんの「故郷の星憬」。2012年の九州北部豪雨災害をはじめ災害に何度か被災してきた福岡県八女市星野村を敷地とし、ふるさとへの想いとそこで住み続けることのあり方を提案した。

最優秀賞に輝いた日本大学・堤昭文さん
最優秀賞に輝いた日本大学・堤昭文さん
最優秀賞「故郷の星憬」模型
最優秀賞「故郷の星憬」模型

その他、優秀賞やクリティーク賞は下記の通り。

最優秀賞 日本大学・堤昭文 「故郷の星憬」
優秀賞 滋賀県立大学・大野宏 「敷地の上の設計室 〜見えないものを見た生活と設計の記録〜」
九州大学・小黒雄一朗 「湯桁 時を囲う」
クリティーク賞 小西泰孝賞:大阪市立大学・渡邉匠 「module 978」
手塚由比賞:立命館大学・杉森大起 「道行きの闇」
内藤廣賞:多摩美術大学・岡美里 「燃えた京島木造密集地」
藤村龍至賞:芝浦工業大学大学院・荻野克眞 「建築設計関係者との協働設計プロセスから生まれる建築 ― google Earthを利活用した見沼区周辺リニューアルプラン 官学連携まちづくり研修」
葉祥栄賞:九州工業大学・篠川慧 「マテリアルシティ」
末廣香織賞:東海大学・中津川毬江 「日常は壁一重 ― 街と家族が寄り添う少年院 ―」
JIA卒業設計選奨 九州大学・森隆太 「parametric elements」
西日本工業大学・泊裕太郎
「記憶の拾継 ― 空き家の利活用 ―」
九州大学・佐伯瑞恵 「渋谷山 螺旋寺」
九州大学・加藤樹大 「桶屋が儲かる。」
九州大学・小黒雄一郎 「湯桁 時を囲う」
九州大学・松岡彩果 「源 ― まちの社交場に住まう ―」

時代の難しさを感じさせつつも、ポジティブな提案が見られた

受賞作品発表後には、各審査員から総評が述べられたが、「価値の分かりづらい、僕らが大学を卒業した時代よりも難しい時代を今の学生は生きていると感じた」と内藤氏がコメント。それを踏まえ藤村氏が「今は時代の転機だが、一方で内藤さんが経験した1960年代に戻っているようにも感じる。今後大学院に進む中で、知識としてその時の建築も勉強して自分の立ち位置を定めで欲しい」と語った。また、手塚氏は「確かに建築を考えるのは難しい時代だが、その中でもポジティブに建築を考える人がいて良かった。特に頭だけでなく体を使って建築を考える頼もしい学生がいて希望が持てた」と述べた。日々、仕事を通して建築と向き合っている審査員も本設計展を通して、時代の複雑さ、難しさを学生たちと共有し、そこに新たな若い建築の可能性を見出したようだった。

三橋浩史学校長

閉会式で挨拶を述べる当学院天神校の三橋浩史学校長。「自分の作品、建築に対する強い思いが印象的だった。建築の魅力、重要性を啓発するために今後もサポートしたい」と述べた。

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