NAGOYA Archi Fes 2015 中部卒業設計展

NAGOYA Archi Fes 2015 中部卒業設計展

名称

NAGOYA Archi Fes 2015 中部卒業設計展

日程 3月11日(水)〜3月12日(木)
個別講評審査:3月11日(水)
公開審査:3月12日(木)
審査員
(公開審査)

審査員長
栗生明氏(建築家 株式会社栗生総合計画事務所代表取締役)

審査員
手塚由比氏(建築家 株式会社手塚建築研究所代表取締役)
五十嵐淳氏(建築家 株式会社五十嵐淳建築設計事務所代表)
猪熊純氏(首都大学東京助教)

総合司会 松田達氏(建築家 松田達建築設計事務所代表)
会場 吹上ホール(名古屋市中小企業振興会館)
主催 NAGOYA Archi Fes 2015 中部卒業設計展実行委員会
特別協賛 総合資格学院

中部地方で建築を学ぶ学生を対象とした卒業設計展

3月11日(水)〜12日(木)の2日間にかけて、「NAGOYA Archi Fes 2015 中部卒業設計展」が愛知県名古屋市千種区の吹上ホールを会場にして行われました。本設計展は、中部地域の学部一年生から三年生の学生が、実行委員となり企画して運営する「NAGOYA Archi Fes」の最大の企画として位置づけられる卒業設計展。中部地方の8県(愛知、岐阜、三重、静岡、長野、富山、石川、福井)で建築を学ぶ学生を対象に卒業設計を募集し、最優秀賞1点、優秀賞2点を決定します。第2回目となる本年度は72作品が集まりました。

本年度のテーマは「近未来に問う。」。今回、出展された卒業設計が、近い将来に建ちあがった場合は、どのような未来を切り開くのか。その未来像を問うものです。審査を通じて、出展者・来場者が共に新たな未来を見出すことを期待したテーマとなっています。

大会の構成として1日目は個別講評審査で「個人賞」を決定し、2日目は「巡回審査」と「公開審査」を通じて最優秀、優秀賞を決定します。

大会2日目 巡回審査・公開審査レポート

大会2日目は午前中に「巡回審査」、午後に「公開審査」が行われました。「巡回審査」では、各審査員が巡回しながら作品を審査した後、ディスカッション(非公開)を行い72作品の中から「公開審査」に進む8作品が選出されました。

巡回審査
巡回審査

ファイナル進出の8作品

ID23 金沢工業大学
青野琴子
「集まって生まれる風景」
ID26 名古屋工業大学
杉岡敬幸
「ふるまいの共生-花祭りの伝承風景を紡ぐ-」
ID40 名古屋工業大学
加藤正都
「THE INCUBATION OF BROOKLYNISM」
ID44 名城大学
新海周平
「アンダーグラウンドヤナガセ-FC岐阜スタジアム構想-」
ID45 名古屋工業大学
榊原崇文
「町に寄生する工場」
ID61 信州大学
大村公亮
「ゆらぐ街の境界」
ID72 名古屋市立大学
田中宏尚
「花の美晃園」
ID74 名古屋工業大学
小林洸至
「絶望が身体に馴染む」
公開審査
公開審査

一つの作品を巡って意見が分かれる展開に

午後からは審査会場をメインホールに移し8作品の「公開審査」が行われました。公開審査は、プレゼンテーション5分、質疑応答5分という形式。8作品のプレゼンテーション終了後は、各審査員から気になった作品についてコメントがあり、学生からの追加のアピール時間が設けられた後、投票が行われました。投票の結果、5作品に票が集まり、議論を進めた結果、最優秀候補となる3作品が絞られました。

審査員・総合司会

栗生 明氏(審査員長)
栗生 明氏
 (審査員長)
手塚 由比氏(審査員)
手塚 由比氏
(審査員)
五十嵐 淳氏(審査員)
五十嵐 淳氏
(審査員)
猪熊 純氏(審査員)
猪熊 純氏
(審査員)
松田 達氏(総合司会)
松田 達氏
(総合司会)

最優秀を決める議論の中心となったのは、投票の時点で最も得点が高かったID40(「THE INCUBATION OF BROOKLYNISM」:加藤正都さん)。グリッドのフレームに出し入れ可能なコンテナをはめ込むことで、流動的なプログラムを実現する提案です。しかし、この作品を巡っては、プログラムの面白さを評価する意見がある一方で、「形やディティールに対して執着が足りない」という意見も挙がり、審査員の意見が分かれました。

公開審査
公開審査
公開審査
公開審査

猪熊氏:私は作品に、その人ならではの提案があるかを見ました。その点で言えば、ID40は、現代の流動性を背景として説明した上で意図的にコンテナを選択している。その意味で自分の「クリエイティビティはここだ」というポイントを出せていると感じます。一方で、ID45には点数を入れませんでしたが、その理由は染色工場のリノベーションの計画でありながら、カフェやパーキングなどありきたりとも言えるプログラムを提案している点。もっと染色工場を活かした提案をすれば良かったのではと感じました。

五十嵐氏:ID40については、私は良さがイマイチわかりません。形やディティールに対するこだわりが見られず、ただ、フレームにコンテナを差し込んだだけに見える。これで設計をしていると言えるのかは疑問。

栗生氏:ID40については実際に立ち上がった時の素晴らしさがイメージできない。建築家としては、「形」のシルエットは自分自身が考えてしかるべきで、そこに自分自身のテイストが出ていないと、ただ手離れのいい建築だけになり、作り手の肌触りが感じられない建物になる恐れがある。どういう風にコンテナを積み上げていけばインパクトがあるのか、そこが勝負所。私は、自身の生身のものを前提に自分で考えた風景を提案している作品を推しました。

白熱した議論が行われるも結論は出ず、再度、最優秀作品を決める投票が行われました。
そこで票を集めたのが、ID26(「ふるまいの共生-花祭りの伝承風景を紡ぐ-」:杉岡敬幸さん)。
花祭りの準備を行う集会所と地域の人々が気軽に立ち寄れる文化施設を併設した計画です。
建物の中心には11の地区が集まり花祭りを行う土間があり、その土間から放射上に伸びる通路で各地区が花祭りの準備を行う計画です。大屋根のシルエットが特徴的な作品で、審査員からは、屋根裏などに生まれる空間の豊かさなど建物としての魅力や、形をしっかりと作者が決めている点、地域のコンテンツをうまく一つにまとめている点などに評価の声が挙がりました。再投票の結果、最多の得点を獲得したID26に反対意見はなく、ID26が最優秀賞に決定しました。

公開審査
公開審査

優秀賞には、最終盤まで議論の中心となったID40、昔ながらの工場をリノベーションすることで新しい町の復興の形を提案したID45が選ばれました。ID45は、模型の作りこみや丁寧なリサーチが評価されました。

審査員総評

審査後、各審査員から本設計展に対する総評が語られました。

猪熊氏
設計展全体を通して、作品はしっかりと設計されていると感じた。建てない建築家がいる昨今、この設計展では「今、何ができるか」ということを真剣に考え設計している点は良いと感じた。

五十嵐氏
形を与えるという行為は、すごく恥ずかしく勇気のいる行為。これだけ膨大な建築があれば、自分が計画した建物に類似する建物もある。しかし、その中でも形を与えていかなくてはいけない。最後に3点を入れたID26については、そういう観点では一番勇気があった。ID40については、加藤君ならではの形の与え方や、形に対する執着が見えなかった。ID45については、かなりリアルに想像しながら設計したのが伝わり、それは設計を好きじゃなきゃできない。そういう意味でも評価した。
最近、設計が好きじゃない人が増えているように感じる。自分が、何に驚き、何に感動し、何に惹かれたのか。純粋な部分をもう一度考えた上でプログラムなどを語って欲しい。

手塚氏
全体的に模型、図面が小さいと感じた。卒業設計は、学んできた建築の世界全てを見せるもの。全精力を尽くして取り組んで欲しい。実務で建物が建つ際にはデザインの上手い下手はもちろんあるが、それに加えて情熱を持って取り組む姿勢が周囲の人間を動かすこともある。そういう意味でも情熱を持って取り組んでいって欲しい。

栗生氏
このような設計展は非常に審査をしていて楽しい。ただ、今回の設計展については、説明が不十分であると感じた。また、皆さんに「建築家」として何が一番足りていないかと言えば「覚悟」という点だと思う。大事なのは、ビジョンをまとめて「命」をかけてやること。どの提案も、実現の可能性があることを前提にそれを実現するためのリアリティ、勇気、説得するための技術などを磨いて言って欲しい。

最優秀賞
杉岡敬幸 名古屋工業大学

ID26
名古屋工業大学
杉岡敬幸
「ふるまいの共生-花祭りの伝承風景を紡ぐ-」

愛知県奥三河地区東栄町で町民の心の支えであった「花祭り」は町民の人口の減少や若者の意識の低下により、消滅の危機にさらされている。そこで、この計画では、町内11地区に伝わる花祭りの地区ごとのアイデンティティを育みながら、相互扶助の関係を生み出すような祭りの準備を行う集会所と町民との日常的な接点を生み出す文化施設を計画する。
プランでは、建物の中心に祭りを行う土間を作り、放射上に各地区の花宿に軸線を引く。軸線上で祭りの準備を行い毎年、各地区が中心に移動することで他地区との関係性が変容し、自地区のアイデンティティとその変容を7年のサイクルで感じることができる。そして7年目には全ての地区で中央の土間を利用し花祭りを行う。

「ふるまいの共生-花祭りの伝承風景を紡ぐ-」
「ふるまいの共生-花祭りの伝承風景を紡ぐ-」

猪熊氏:地域的なコンテンツをひとつの建築にまとめるという点ではうまく解いている。

栗生氏:日常のアメニティと非日常のトランスをうまく解決している。

五十嵐氏:図書館などの文化施設を入れるのではなく、祭りだけの施設にしたほうがこのような地域の町おこしとしてはリアリティがあったのではないか。

優秀賞
加藤正都 名古屋工業大学

ID40
名古屋工業大学
加藤正都
「THE INCUBATION OF BROOKLYNISM」

敷地となるニューヨーク州ブルックリンは、旧造船所や港など物流を行うポテンシャルを持っている。余剰問題コンテナを建築に転化させることで成長し続けるブルックリンの変化や人間の消費のスピードに呼応しながら流動するシステムを持つ建築を提案する。

「THE INCUBATION OF BROOKLYNISM」
「THE INCUBATION OF BROOKLYNISM」

猪熊氏:建築は動かず変わらないものという大前提がある中で、流動が激しい社会で取り出して捨てられるというところが提案できている。また、メタボリズムと違い、既存のものを利用している点が実現しやすいかもしれないと感じた。
一方でインフラをデザインしただけで、建築家としてのアイデアやクリエイティビティはいらなくなる世界をデザインしているとも言え、何を設計したのかという部分が問題になってくると言える。形を決定する意図が見えてくるとよかった。入れ替え可能という意味で全部が置き換わるにしても、プロポーションは、ある絶対性があるなどの説明があると良かった。

優秀賞
榊原崇文 名古屋工業大学

ID45
名古屋工業大学
榊原崇文
「町に寄生する工場」

かつての町の痕跡を残しながら、町の復興の核となる建物を計画する提案。敷地は、愛知県津島市。この町でかつて栄えた毛織物産業も今は廃れ、町の周辺に散らばるのみとなっている。そこでその中の一角にセットバックした空間や街路を組み込み、工場や住居を集めパブリックなスペースに変換していく。町の痕跡を残しつつ、活性化を図るために減築の過程で既存のものを残し、新しいものを挿入していく。

「町に寄生する工場」
「町に寄生する工場」

五十嵐氏:かなりリアルに想像しながら細かな部分まで設計したのが伝わり、それは設計を好きじゃなきゃできない。そいういう意味で評価した。

猪熊氏:この提案に関してはプログラムが重要。その観点で見るとカフェやパーキングではなく染色工場にふさわしい特殊施設などがあると良かった。

授賞式
授賞式
授賞式
授賞式
授賞式
授賞式
懇談会
懇談会
集合写真

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