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Monthly FACE 〜極める人々〜

奥村仁幸さん(アクセサリーデザイナー)

Profile

1983年生まれ、北海道出身。「GOOSE BERRY」「GOOSE BERRY Luxe」のデザイナー。北海道文化服装専門学校卒業。2003年、都内のアパレル会社に就職後、デザイナーとして活動。09年にオリジナルブランドである「GOOSE BERRY」を立ち上げ、ウエディングドレスのオーダーメイドや舞台衣装などの制作を手掛けている。

GOOSE BERRY オフィシャルサイト

かわいらしいけど、スパイスがきいた服

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既製服を展開する「GOOSE BERRY(グースベリー)」、ドレスをはじめとするウエディング関連のアイテムを展開する「GOOSE BERRY Luxe(グースベリーリュクス)」という2つのブランドを手掛けている下條さん。既製服は都内のアパレルショップで販売されているほかに、ウエディングドレスはセミオーダーを含むオーダーメイド方式を採用。採寸からデザイン、縫製まですべての作業を一人で手掛けています。

イメージ 「イギリスに伝わる童謡『マザー・グースの歌』とグズベリという木の実がブランド名の由来です。『マザー・グースの歌』は子供が口ずさむような歌なのに、よく聞くと残酷なものがあったり、グズベリは丸くて緑がかったかわいらしい見た目とは裏腹に、すごい酸っぱい--そんな『かわいらしいけど、スパイスがきいた服』をつくっていきたい、という思いを込めて『GOOSE BERRY』という名前を付けました」

「GOOSE BERRY」の特徴は、服のディテールの数々が演出するアンティークなテイスト。服飾学校時代に専門的に学んだという緻密(ちみつ)な刺しゅうなど、ハンドメイドによる温かみのある服づくりが支持されています。

「実際にアンティークの素材を使っているほかに、レースを染めたり、わざと凹凸のある淡水パールを使ったり、細かい部分でアンティークらしさを表現しています。私自身そういうテイストが好きだというのもありますが、そういうものを求めるお客さまも多いですね。オーダーメイドドレスでは、花嫁さまの好きなモチーフを刺しゅうで入れたりもしていて、その人だけの"特別な一着"になるものをつくっています」

時代の主流に反したオーダーメイド

イメージ 「GOOSE BERRY Luxe」ではオーダーメイドによるドレスづくりをしているので、丈の長さやサイズはもちろん、デザインまで一人ひとりの要望に沿ったものを提供することができます。不特定多数に向けてつくられた大量生産品があふれる中、時代の主流に反したものづくりを行なう理由の一つを次のように話します。

 

イメージ 「私、149cmで背が小さいんです。マネキンと同じように着られればすごい素敵なのに、私が着るとどうしても丈が長くなってしまって……。そんな経験から、自分の服を直そうとミシンを踏み始めたのがそもそもの始まりでした。
そういうこともあって、お客さまのフィッティングをしている時には、どこを気にしているかというのが分かるんです。ご自身でそれが分かっている人もいれば、『どこか変なのに、それがどこかがわからない』という人もいます。そういう人はフィッティングをして、初めて自分の体のクセに気が付くんです。ウエストに合わせるとバストが余って、バストに合わせるとウエストが入らない、というように。
それをどうキレイに見せるかが私の仕事です。体のパーツにドレスをピッタリ収めればいいわけではなくて、丈や周囲を調整することでクセを自然に隠せるようなデザインを心掛けています」

 

特別な1着をつくる責任感

イメージ オーダーメイドドレスと既製服を中心に展開している「GOOSE BERRY」ですが、近年では演劇やオペラなどの舞台衣装も制作。下條さんは「普段とはちがう服づくりをできるのが楽しい」と話します。

「ビジュアル面に関してもそうですが、着替えや激しいアクションに対応できるように根本的な部分から工夫する必要があるんです。たとえば、早着替えをするキャストの場合は背面をファスナーにして脱ぎやすくしたり、本当は一枚しか着ていないのに重ね着しているように見せたり。殺陣(たて)などのシーンがあるキャストの衣装は、関節部分だけ動きやすいカットソー素材にするなど、実際に役者の方にヒアリングして微調整していきます。衣装は舞台上の世界をつくりあげる一つのパーツになるので、責任が重い分、やりがいもあります」

ウエディングドレスと舞台衣装。シーンこそ異なるものの、限られた日のための特別な服をつくる下條さん。自分と服との関係から、一着一着をつくることへの責任感について語ります。

イメージ 「私にとっての服は、日常にあふれる困難から心を支えてくれるもの。落ち込んでいる時に新しい服やお気に入りの服を着ると、元気になれるんです。だからこそ、結婚式や舞台での一着がどれほど特別で大切なものかというのも分かります。 ウエディングでいえば、花嫁さまが少しでもサイズに違和感を感じる場所があったり、気になる部分があるのなら、そのすべてを取り払いたい。花嫁さまが万全な気持ちで結婚式を迎えられるよう、最後のフィッティングまで妥協はしません。 ドレスを着て鏡の前に立った瞬間の、幸せそうな彼女たちの表情を見ると言葉では言い表せない気持ちになります。ドレスをつくってから何年か経って、子どもが産まれたというお便りをいただくこともあるのですが、そういったことを知らせてくださる関係でいられることを、とてもうれしく思います。これからも特別な一着をつくり続けることで、たくさんの人たちとの繋がりが生まれていけば幸せです」

「世界に一つのものづくり」を追求し、日夜ミシンに向かう下條さん。着る人全員を笑顔にさせる、幸福の一着をその手でつくりあげます。

(取材・文/石川裕二)


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