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Monthly FACE 〜極める人々〜

森谷勇介さん(立体造形クリエイター)

Profile

1988年生まれ、神奈川県出身。東京デザイナー学院を卒業後、2013年まで都内の造形会社に勤務。テレビ番組などで使用される模型やジオラマ・人形などの小道具制作を手掛ける。作家としての活動は08年からで、12年からは精力的に展示会などに参加。現在、作家活動と並行して、引き続きテレビ番組の模型制作などを行なっている。

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うまく、もっとうまく。

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「作品が出来上がると、写真を撮るんです。その時に、以前と比べて、自分が成長しているかどうかがすぐにわかる。うまく、もっとうまく――そう考えながら作品づくりをしています」

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こう話すのは、立体造形クリエイターの森谷勇介さん。今年の春に、模型・ジオラマ制作などを行う会社を退社し、現在はフリーランスとして活動。引き続きテレビで使われる小道具用の模型や人形制作などを手掛けながら、作家としてアート作品の発表も行っています。代表作は、童話『白雪姫』に登場する毒リンゴをモチーフにした「ポイズンアップル」。上下に残ったリンゴの果肉から歯や牙が生えているというもので、近年はさまざまな展示会に出品。7月に名古屋で開かれた個展「Breathe In(ブリーズイン)」も好評で、今後の活躍が期待される25歳の気鋭のクリエイターです。

そんな森谷さんが立体造形に興味を持ち始めたのは、高校生の頃。当時のことを、こう振り返ります。

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「文化祭でポップコーンを売ることになり、映画館風の内装をつくろう、となったんです。映画館といえば、ポップコーンのイメージがあるじゃないですか。それで、ワーナー・ブラザーズの作品に出てくるトゥイーティーという黄色い鳥のキャラクターの人形をつくることになって。スーパーストアでダンボールをもらってきて、ハリボテみたいな感じで1メートルほどの大きさのものをつくって…そうこうしている内に楽しくなってきて、立体に興味を持つようになりました」

やりたいことなんだから、やらなきゃ。

小さい頃から、ものづくりが好きだったという森谷さん。幼稚園の頃は、スケッチブックをすぐにラクガキでいっぱいにしてしまうほど、絵を描くのが好きだったと言います。高校生当時も変わらず絵が好きで「絵も描きたいし、立体もやりたい」と、デザイン・アート系の専門学校に進学。在学中は立体造形を中心に学び、卒業後はテレビ番組や映画内で使われる模型・ジオラマ・小道具などを制作する造形会社に就職します。

入社後は朝から終電まで仕事をする生活でしたが、そんな状況下でも、森谷さんは作家としての作品づくりも積極的に行います。多忙な時間の合間を縫い、睡眠時間を削り、自分の作品をつくる――2012年には「毎月、展示会に参加する」という目標を立て、それを実現。12月には、自身初となる個展を開きました。

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「『自分がやりたいことなんだから、やらなきゃ』って。会社の仕事を終えてから、朝の5時くらいまで自分の作品づくりをやって、家に帰ってシャワーを浴びて、ちょっと寝てまた仕事して…。会社から自転車で10分ほどの所に住んでいたので、時間を気にせずに作業することが出来て。あとは、意外と寝なくても大丈夫だったんですよね。忙しい時は徹夜することも結構あったので、そうじゃない時に睡眠時間を削れば時間をつくれるよな、と。

去年は作家としての自分を売り込む年にしようと決めていたので、それでモチベーションを上げていました。何より、展示会に参加するのが楽しかったんです。TwitterやFacebookで展示の感想を目にしたり、作品を購入して部屋に飾ってもらえるのもうれしいですしね」

請負制作と作品制作の両輪で走る

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今春からフリーランスになり、精力的な作家活動を続ける森谷さん。その一方で、「請負の仕事も続けていきたい」と話します。

「仕事としての制作も、作家としての制作も、どちらも好きなんです。請負の制作では、毎回雰囲気のちがうものをつくれるので勉強にもなりますし、新しく開発された素材の知識を得る機会がある。そこで培った技術や経験を作家としてのものづくりに還元出来るんです。クライアントとの打ち合わせや、スケジュール・予算のやりとりの感覚を忘れないのも大切ですしね」

物事をプラスにとらえるポジティブさとストイックさの源にあるのは、将来への思い。今後の展望を、次のように話します。

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「7月に名古屋で開いた個展のように、東京以外でも展示をする機会が増えてきたので、まずはいろいろな土地で自分の作品を見てもらえるようになれば。全国で、人とのつながりが増えればいいなと思っていて。そうなると、会場まで作品を長距離輸送する必要が出てくるので、作品の耐久性をもっと上げるにはどう工夫するのがいいかなど、制作する度に改良すべき点がないかを考えています。 ゆくゆくは、全国で展示会を開ければ。あとは、今は数十センチメートルの作品が多いんですが、何十メートルという大きいものもつくってみたいんです。それこそ、そういう大きい作品を展示出来る美術館のような、幅広い層が訪れる場所で、多くの方に自分の作品を見てもらえればうれしいですね」

森谷さんのものづくりのテーマは『Breathe In, Breathe out.(深呼吸)』。森谷さんにとって「造形」という表現行為が、生きるために必要不可欠な呼吸のようなものであることを意味しています。冒頭で触れた個展「Breathe In」は、名古屋での活動の始まりである同展示を今後につなげていくために“息を吸い込んだ状態”で、「長い距離を泳ぐ前に思いっきり息を吸ってためるイメージ」と話す森谷さん。思い描く未来へと向かって、大きく、深く、息を吸い込みます。

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