
言葉の通じない東京で、偶然同じホテルに居合わせたアメリカ人男女のほろ苦い心の交流を、透明感あふれる映像で描いた本作。舞台となったホテルは新宿パークタワーの上部を占めるパークハイアット東京です。
巨匠・丹下健三氏が設計し、94年に完成したこの都内有数の超高層ビルは、三段構造の屋上をはじめ随所にデザインされたガラスのピラミッドが特徴的です。同時期に竣工した東京都庁とどことなく呼応するデザインも、丹下氏の壮大な都市構想をうかがわせます。
47階のプールや幻想的なバー、客室から眼下を見下ろすシーンでは、ネオンと騒音にあふれる雑踏の上空にぽっかりと浮かぶ水槽の中にいるような感覚に誘われます。目の前にそびえるのは、東京のどこかフェイクで通俗的な雰囲気を象徴しているかのような“和製エンパイアステート”NTTドコモ代々木ビル。西新宿の摩天楼が、異国視点から見た東京の姿を鮮やかに描き出しています。

監督は『ヴァージン・スーサイズ』で、多感な少女の季節を瑞々しく描いたソフィア・コッポラ。本作では東京を舞台に”現代版『ローマの休日』”とも呼べる淡く切ない大人のラブストーリーを繊細に描き、見事アカデミー賞を受賞、その才能を証明した。主演は『チャーリーズ・エンジェル』『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』のビル・マーレイと、『真珠の耳飾の少女』『バーバー』のスカーレット・ヨハンソン。
■StoryウィスキーのCM撮影のため来日したハリウッドスターのボブ(ビル・マーレイ)。今ひとつうまくいっていない妻から逃れる口実と200万ドルのギャラのため、なんとなく仕事を引き受けて東京へやってきた。しかし言葉が通じないため、次第に疎外感を強めていく…。
フォトグラファーの夫に付き添って来日した新婚のシャーロット(スカーレット・ヨハンソン)。
しかし、夫は仕事に明け暮れるばかりで、行くあてもない彼女はホテルの部屋に取り残されてしまう…。「自分の居場所がない」同じように心に空洞を抱えた二人が、同じホテルで偶然出会った。急速にうちとけた二人は、トーキョーの街の目も眩むようなネオンと雑踏の中に繰り出していく…。