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Monthly FACE 〜極める人々〜

原田 志保さん(インテリアコーディネーター)

Profile

インテリアコーディネーター。「Happy House(ハッピーハウス)」代表。
株式会社リクルート、編集プロダクション、株式会社ジャパンライフデザインシステムズでの勤務を経て、2002年にインテリア事業とリフォーム事業を手掛ける「Happy House」を開業。アクアリウムの専門店ペンギンビレッジのショールームオープンに伴うインテリアコーディネートをきっかけに、現在は、同社の総合的な企画や広報としても活動の場を広げる。アクアリウムとインテリア業界とのコラボ企画、ライフワークとしてのインテリアならびにリフォーム事業など多岐にわたり活躍中。

ペンギンビレッジ HP

アクアリウムの専門店「ペンギンビレッジ」の有楽町ショールーム。そこにあるのは、家具やインテリアとアクアリウムが心地よくコーディネートされた空間。一流家具・インテリアメーカーとアクアリウムとのコラボレーションという、ありそうでなかったアイデアに注目、実現させた行動派のインテリアコーディネーター・原田さんにお話を伺いました。

ペンギンビレッジ

「外」から「内」へ、人生が大きく変わった瞬間

原田 志保さん(インテリアコーディネーター)広告業界、雑誌業界、コンサルタント業など、華やかな職歴を持つ原田さん。彼女がインテリアコーディネーターになったきっかけについてうかがうと…

「“寝る暇もないほど働く”という毎日に疑問を感じて、しばらく充電期間をいただこうと決心しました。仕事を辞めたとたん、今までサボっていた家事などが、不思議と楽しくて価値あるものに感じられたんです。マーケティングに携わっていた時、『バブル以降、人々は自分の内面を磨き、暮らしを見つめ直す方向にむかう』という潮流があると察知していたのですが、まさに、自分が分析通りの道を進んでいるという…(笑)次の仕事を考えた時、選択肢は他にもあったのですが、退職後の自分自身の経験から『これからは、人が暮らしを大切にする時代』と確信して、インテリアコーディネーターの道を選びました。」

一般住宅およびマンションのリフォームを学び、「インテリアの専門スクール」でインテリアの基礎を習得。念願の独立を果たします。

「最初のお客様と巡り合えるまでは、何度も辞めようと考えました。ツテやコネがあって始めた仕事ではないので、顧客も当然ゼロ。宣伝のためのチラシを1万枚作って、ひとりでポスティングに明け暮れる毎日でした。犬に吠えられ、チラシを入れるなと注意され…。されどお客様からの反応はなし。2カ月目で『もう辞める!』と宣言したところ、『たった2カ月で?』と内装をお願いするはずだった職人の方に叱られ、最後の1枚を配り終えるまでは…と頑張り抜きました。あの一喝がなければ、今の自分はありません。」

叱咤激励してくれる存在が周りにいる環境は、原田さんの人柄の賜物。彼女の仕事ぶりはもちろん、パーソナリティに惹かれる人も多く、今では原田さんを信頼してやまない顧客を大勢抱えるインテリアコーディネーター、リフォームコーディネーターとして知られるようになりました。

現場に関わる人々の言葉を代弁する「コミュニケーター」

顧客リピート率の高さを誇る仕事ぶり。その秘密はどこにあるのでしょう?

「徹底的な顧客志向を心がけています。しかし、お客様のためになること=お客様の注文を忠実に実現することではありません。『この素材を使った場合、メンテに費用がかかる』『お客様の注文通りに施工した場合、将来的には不具合が起こる可能性がある』といったマイナス要素がある場合には、代替案を用意しながら丁寧に説明することが大切です。お客様がどう決断するか、選択肢を用意するのがコーディネーターという仕事の本質ではないでしょうか。」

さらに原田さんは、お客様のレベルにあわせたわかりやすい説明ができていない人、したくてもできない人が意外に多いと指摘します。

イメージ

「実際に現場で施工する職人さんが、プロの立場からお客様にアドバイスを伝えなくてはならない場合も生じてきます。職人さんの中には、対施主との直接的なコミュニケーションに慣れていない方も多い。そうなると、どうしても言葉足らずになるか、指摘すること自体を諦めてしまうことも。そんな時に、職人が何を伝えたいのかを察知して、代わりになってお客様に説明する役割を担うのも、コーディネーターの役目ではないでしょうか。」

お客さま、信頼できる職人、そのどちらもが「宝物」だという原田さん。両者が理解しあえる現場からでないと、納得のいく空間はできないという信念があるようです。

何かと何かを「結ぶ」チカラ、それが強みになる

イメージ 原田さんのコミュニケーション能力は、インテリアの世界とアクアリウムという異ジャンルさえも結びつけてしまうほど。

「ペンギンビレッジの方から、『アクアリウムの良さを広く知ってもらうためにはどうしたらいいのか?』というご相談をいただきました。そこで、新たに開設するショールームでは従来のように水槽を並べるのではなく、インテリアと組み合わせて見せることで『アクアリウムのある心地よい暮らし』を具体的にアピールしてはどうか?と提案させていただきました。」

今あるものを単体でアピールするのではなく、別の「価値」と「価値」を組み合わせることで、今まで見えていなかったものがわかりやすく見えてくる、あるいは新しい「価値」が生まれるというのが、原田さんの考え方です。

水槽の中に自然の生態系と同じ環境を再現することで自然本来の美しさが味わえるというペンギンビレッジのアクアリウム。そんなポリシーやスタイルにあったインテリアを集めるために原田さんは奔走します。

イメージ 「最初は、レンタルの家具などでコーディネートしていたのですが、続けようとすると予算をオーバーしてしまう。そこで、アクアリウムのコンセプトに合うはずだと思ったインテリア関連の会社のトップに、コラボレーションしないかという手紙を書いて、ダメもとで送りました。すると、驚くことに『カリモク家具』さんから連絡が来たんです。」

手紙の内容に共感した社長が連絡を取るよう直々に社内で話をしてくれたとのこと。以降も、地道な努力をチャンスに変えながら、コラボする会社とのつながりを獲得してきたといいます。

「営業さんならどこの会社でも『社長営業』くらいはしていますよね。チラシを配ることも、がむしゃらに手紙を書くことも、全てが上手くいくとは思っていません。でも、その先に誰か分かり合える人がきっといるはずと信じています。待っているだけでは何も起こらない、こちらから行動を起こし続けることが人生で一番重要な事なのではないでしょうか。」

旅先で待っている、インスピレーションの源

「内」を向いた仕事をしているからこそ、「外」へと出かける時間を大切にしたいという原田さん。年に数回の海外旅行では、「外」から眺めた日本の良さが再確認でき、また、新たな発見があるといいます。

「見知らぬ土地を旅した際は、地元の人で活気づく『市場』に出かけるようにしています。そこで感じるその土地ごとのリアルな『生活感』が、次の仕事につながる新しい発見をもたらしてくれるんです。また、市場では思いがけない『色彩の美』に出会うことがあります。その土地で収穫された色とりどりの果実が、意図せずに並べられている。その無造作の中に、驚くような美しさや新鮮な色の取り合わせを見つけると嬉しくなります。」

本来、リラックスの場である旅でも、仕事のことが頭のどこかにあるんですと笑う原田さん。滞在先のホテルでも、ついつい仕事のヒントを探してしまうそうです。

「お客様を一瞬で虜にするほど居心地の良い“ホテル”には、インテリアコーディネーターとして参考にしたいことがいっぱい詰まっています。ですから、私自身、旅をする時のホテル選びには徹底的にこだわります。価格ではなくて、ロケーション、コンセプト、ホスピタリティなどを事前にWEBサイトなどでチェック。チェックインしたら、まずは荷物を広げずに部屋の撮影タイムを始めるのがお約束(笑)。
最近出かけた中では、バリ島のウブドにある『The Yone village Villas』がお気に入りです。バリのトラディショナルな工法で作ったヴィラを始め、調度品から食事まで全て環境への配慮がなされています。周辺の水質や環境への影響を考慮して、塩素を使用したプールはありません。その代わりに、部屋の中まで“蛍”が飛んでくるようなバリの自然が味わえる。これってとても幸せですよね。」


理想の暮らしを追求するためには、住居を取り巻く環境まで丸ごと考える必要があると、バリ島滞在で改めて考えさせられたという原田さん。彼女が次に目指すのは、「人間」と「自然」をつなげことができる“コーディネーター”なのかもしれません。

The Yone Village Villas

(取材・文/小林未佳)


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