
機内で過ごす時間が楽しみになった…、飛行機での移動につきものだった旅行者の不満を、文字通り“180度”変化させた完全水平フルフラットシートの登場。米国系航空会社として初めて国際線ビジネスクラスに水平フルフラットシートを導入したユナイテッド航空。今回のインタビューは、ユナイテッド航空で太平洋地区マーケティング統括部長として活躍されている浜岡聡一さん。仕事のみならずプライベートでも飛行機と関わりの深い浜岡さんならではの視点を交えながら、現代の飛行機に求められているものとは何かについてお話いただきました。
完全個室のスイートクラスを導入する航空会社の出現など、ここにきて“空の旅”の在り方が大きく変化しはじめました。接客サービスがホテル並みなのは当然。新たな顧客獲得のカギとなるのは“機内設備の充実”にあるといいます。
「機内設備、特にシートに対するお客様の期待が高まっています。本来の「座る」から「ゆったりとくつろげる」へ、さらに現在では「ぐっすりと眠る」が求められるようになりました。世界中を飛び回るビジネス客の利用が多い上級クラスでは、目的地に到着してすぐに仕事に取り掛かれるコンディションでありたいとの要望が多い。そのため機内では自宅と同じように快適に睡眠できるかどうかが重要となります。そんな利用客のニーズに対応するべくユナイテッド航空では、いち早く国際線のビジネスクラスで快適に睡眠できる水平フルフラットシートを導入しました。他社の最大リクライニング時でも傾斜角度のつくシートでは重力を感じて安眠できないというお客様からも水平フルフラットシートは高い評価をいただいています。」

航空各社で加熱する機内の“高級ホテル化”に対抗すべくユナイテッド航空ビジネスクラスに導入したのが、全長が約2メートル、幅は約60cmで、最大リクライニング時には水平になる新シート。
「新シート開発は、世界有数の航空機・機内製品メーカーであるB/Eエアロスペース社のデザインスタジオとデザイン会社ペンタグラムとの共同考案コンセプトを基に行いました。開発に際しては、利用頻度の高い顧客の方々に実際にシートに座って8時間過ごしていただくというテストを敢行して意見をいただきました。シートを快適に感じるか否かは座る人の体型や骨格などによって左右されます。世界中の方々にご利用いただくことを前提にしてのシート開発ということで、世界各国からテスト参加者を招くことで“快適さの標準”を追求しました。もちろん日本人の顧客の方にもテストに参加いただいています。」
ユナイテッド航空は米国内外230以上の都市に運航している世界最大級の航空会社。シートの開発に限らず“スタンダード”をどこに置くべきかという判断の難しさがついてまわると浜岡さんは言います。
「かつてフロリダやラスベガス線などのリゾート路線において、機内にオレンジ系の明るいカラーリングを加えて、旅行の雰囲気を盛り上げるなどの演出を行っている時期がありました。しかし、リゾート風にしてしまうと、その飛行機をビジネス利用の多い他路線に飛ばすことができなくなるとの判断もあり、やむを得ず廃止に至りました。利用されるお客様の特性に合わせた、よりパーソナルなサービスを心掛けたいのというのが本音ですが、利用目的、さらに性別、人種、嗜好など、様々なタイプのお客様が利用される航空会社ゆえに制限されることが多いのが悩みといえるかもしれません。」

機内を快適に過ごすためには、シート自体の座り心地の他にも重要なポイントがあるそうです。
「快適性の要素としてお客様から求められているのが“パーソナルスペース”と“プライバシー”の実現です。新シートに関しても、より広いパーソナルスペースを確保していただき、さらにはどの座席からも通路へのアクセスが容易となるよう、進行方向にむかって“前向き”と“後向き”にシートを並べる画期的な座席配置を取り入れました。また、他人の視線が気になるモニターについても、視線分析結果に基づいた位置に設置して、お客様のプライバシー確保を心がけました。」
ビジネスなどの上級クラス利用者以外にも、パーソナルスペースを重要視する傾向が広まっているといいます。そんなニーズの拡大に伴って、エコノミーよりも広いスペースを確保したビジネスとの中間クラスを導入する航空会社も増加。エコノミーよりも割高ではあるものの、のきなみ高い利用率を誇っているそうです。

ホスピタリティー溢れる接客、著名なシェフが考案した機内食、充実したエンターテインメントシステム、そして、長時間過ごしても快適なシート…そんなラグジュアリーな雰囲気を搭乗前から堪能できるような空間やサービスも続々と誕生。全てが満たされたこれからの時代、航空会社や旅客機にはいったい何が求められるのでしょうか?
「ユナイテッド航空では、より充実した機内を実現するために新たな次世代航空機発注を決定しました。新機材は、大きな窓、広い手荷物収納スペース、新しい機内照明など設備の改良がはかられています。また、環境に与える影響を考慮した”環境効率の高さ”にもご期待いただけます。」
浜岡さんの鋭い目は、地上における環境への取り組みが一般的になった今、空の環境問題にも人々の目が向いてくると読み解きます。コンチネンタル航空との合併により、今後の動向がますます注目されるユナイテッド航空。巨大航空会社の操縦桿を握るのは、浜岡さんのような時代の流れを読む者に託されています。
(取材・文/小林未佳)