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Monthly FACE 〜極める人々〜

レジェンド松下(実演販売士)

Profile

1979年生まれ、神奈川県出身。大学卒業後、実演販売士である和田守弘氏に弟子入りを果たすと、全国のデパートを調理道具の実演で回る。店頭販売のみならず、展示会やイベント、TV、通販など、さまざまな分野で活躍中。著書に『話し方より大切な「場の空気」の説得術(KADOKAWA)』

自分の輝ける場所が、ここにはある

実演販売の世界において、“伝説”と称されるレジェンド松下さん。テレビショッピングはもちろん、バラエティー番組やラジオなどにも数多く出演している人気実演販売士です。過去には、わずか1日で1億8000万円もの売り上げを上げたこともあるなど、業界をけん引している1人でもあります。

しかし“伝説”の域に達するまでの道のりには、満面の笑顔からは想像もできないほどの、知られざる苦悩があったのです。

松下さんが実演販売士を志すルーツは、今から20年も前の大学浪人時代までさかのぼります。それは、大学受験に向けて勉学に励みつつも、息抜きとして始めた横浜スタジアムでのコーヒー販売の売り子のアルバイトでした。野球観戦のお供はコーヒーではなくビールが主流。当然、ただ球場内を歩いているだけでは売れません。そこで松下さんはある作戦に打って出るのです。

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「まずは、ベイスターズ側の内野席にターゲットを絞るんです。相手チームが攻撃しているタイミングで高いところに登り、『みなさん、ちょっと聞いてくださ〜い。コーヒーを売ってるんですが、全然売れてないんです。次のベイスターズの攻撃で点が入ったらコーヒーを買ってくださ〜い』と、1000人ぐらいいる内野席に向かって大声で話しかけるんです」

買ってくれたお客さんにコーヒーと一緒に配るのが、ベイスターズの応援歌が書かれた自作の歌詞カード。応援団のいない内野席で自身が応援団としてリードすることで、観客席を盛り上げるのが狙いです。

「点数が入ると『お兄ちゃんのおかげだよ』と言ってコーヒーを買ってくれるんですよ。通常、多く売る人でも1日50杯くらいなんですが、ぼくはこのやり方で平均200杯くらい売っていました。中には、おひねりをくれるお客さんもいたので、ものすごくもうかったんです」

こういった経験もあり、実演販売士への憧れを抱いていたという松下さん。当時、実演販売のメッカとしてにぎわっていた秋葉原の地を訪れたこともあったといいます。

「秋葉原まで行ったのはいいんですが、そこで実演していた人に『弟子にしてください』とは言えませんでしたね」

理想と現実のギャップを痛感し、実演販売士を志す

売り子として多くのコーヒーを売ることで、自らの存在意義を見出していた松下さん。しかし、大学入学後に待ち受けていた就職活動で大きな挫折を味わうことになるのです。

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「本当はテレビの制作会社で働きたかったんですが、ことごとく落ちてしまったんです。その結果、それまで積み重ねた自信も完全に崩れ落ちてしまって...。当時はずいぶん苦しい思いをしましたね」

コーヒーの売り子時代とは一変、自らが輝けていない現状に対して少しずつジレンマに陥っていく松下さん。その根底には、理想と現実のギャップが大きく関係していました。

「テレビの制作会社でのクリエイティブな仕事に憧れを抱く一方で、実際には売り子など販売の仕事の方が自分には向いている―。憧れみたいなものにとらわれすぎていて、本当にやりたい仕事をやろうとしてないな、と。そういえば、売り子時代は俺も輝いていたよなって考えて、実演販売士を目指そうと思ったんです」

いったん理想を離れて現実と向き合うことで、後に天職となる実演販売士という職業に出会った松下さん。実演販売士について調べていたら、現在、取締役として勤務しているコパ・コーポレーションのことを知るのです」

あくまでも、商品が主役であれ

晴れて、プロの実演販売士としてデビューすることになった松下さん。もちろん、後に“レジェンド”と称されるようになるなんて、当時は知る由もありません。

「売り子時代とはアプローチが違いました。あの頃は面白おかしくやっていれば売れましたが、販売のプロというのは、商品のことを熟知していないと売れない。しかも、同じことを話しているのに、売れる日もあれば売れない日もある。常に売り続けるというのが非常に難しいんですよね」

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デビューからおよそ1〜2年でテレビショッピングへの出演を果たすものの、ここからが苦労の連続だったと当時を振り返ります。

「テレビショッピングの場合、時間も決まっているし出演者もいる。ある程度は売れるので、完璧な売り方をしているって勘違いしてしまうんです。後にその理由が分かりますが、この頃は突き抜けた売上をたたき出すことはできませんでしたね」

それでも、年に1回くらいは1日で1億円を超える売り上げを記録する日もあったそうですが、くすぶった状態が7〜8年ほど続いたといいます。そんな状態を打開したのは、「月曜から夜ふかし」(日本テレビ系列)に出演したことがきっかけでした。

「番組内で実演販売をしたら、MCのマツコ・デラックスさんと村上信五さん(関ジャニ∞)がリアクションを取ってくれて、それによって観客席が盛り上がる。それまではタレントさんのリアクションの部分を自分でやっちゃってたんですよ。なので、『俺の“しゃべり”で売ってる』みたいな勘違いをしていた。でも、実演販売士は商品のことを分かりやすく説明するだけでいいんだ、主役はあくまでも商品なんだ、と気が付いたんです」

実演販売士として大きな気付きを得たことで、売り上げも比例して伸びていったといいます。商品を販売することだけでなく、新商品の開発やプロデュースなども実演販売士の業務の一つ。今後は、新たな商品を開発するとともに、グローバルに活躍できる実演販売士を目指し、松下さんが歩みを止めることはありません。

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