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Monthly FACE 〜極める人々〜

Hana4(アーティスト、ネイルデザイナー)

Profile

1984年生まれ。東京都出身。調理専門学校在学中にイタリアンレストランで調理師としてキャリアをスタート。その後、ショットバーやオーセンティックバーでの経験を経て、2012年7月より「BAR AVANTI(東京・銀座)」に勤務。世界一のバーテンダーオブザイヤーを決定する、世界最大級のバーテンダーコンペティション「ワールドクラス」では、2016年にジャパンファイナルまでコマを進める。「ワールドクラス2018ジャパンファイナル」では4部門中3部門を制し、総合優勝。ドイツ・ベルリンで開催された世界大会に出場した経歴を誇る。

4回目の挑戦で得た“日本一”という称号

「総合優勝は、『BAR AVANTI』の新井加菜さんです」―。

バーテンダーオブザイヤーを決定する「ワールドクラス2018ジャパンファイナル」で、4部門中3部門を制した新井さん。日本代表としてドイツのベルリンで開催される世界大会への出場権を獲得した彼女でしたが、これまでの道のりは決して順風満帆なものではありませんでした。

「そもそもジャパンファイナルに進むためには、書類審査と二次審査を通過しないといけない。2015年に初めて出場したときは二次審査で落ちてしまったんです。いつもは店内でお客さまを前にしてカクテルを作りますが、経験も浅かったので慣れない場所で作ることに緊張してしまいました」

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しかし、彼女の挑戦はここからが始まりだったのです。ファイナルに進んだ10人のテクニックを食い入るように見て、「自分ならこうしたい」「来年はこうしよう」といったアイデアをノートに書き、その後、アイデアを形にするために専門書を読みあさり、知識を吸収する日々を送ります。

これで去年のような失敗はしない、そう意気込んで出場した「ワールドクラス2016」で念願だったファイナルにコマを進めた新井さん。しかし、その壁は彼女の前に大きく立ちはだかり、無念にもファイナリストの称号を手に入れることはできませんでした。

そして、ファイナルにすら進めなかった2017年を経て挑んだ「ワールドクラス2018」。なんとかファイナルの10人に名を連ねた彼女は、その勢いのまま、ついに日本一へと上り詰めるのです。

「2016のファイナルでは、限られた時間内に決められた数のカクテルを作れませんでした。また、プレゼン内容を丸暗記して挑んだのですが、今思えばそれでは審査員に思いは届きませんよね(笑)。なので、2018のファイナルでは、あの時の失敗は絶対に繰り返さないぞって思いで挑みました」

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“豊かな時間が過ごせる”バーテンダーという仕事

そんな彼女がバーテンダーを志したのは、「手に職を付けてみたら」という母親の一言がきっかけでした。全ての人にとって必要不可欠な「食」というジャンルに興味を持ち、高校を卒業後、調理専門学校に進学。和・洋・中などの調理方法はもちろん、栄養学や食品衛生といった食に関する理解を深めていった新井さん。この当時に経験したイタリアンレストランでの仕事が大きな転機となったのです。

「コース料理を提供しているレストランだったので、調理をするのはいつも同じ料理。調理自体は好きだったんですが、ハードな仕事で腱鞘炎になってしまったことをきっかけに、環境を変えて何か違う事をしたいなと考え始めました」

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そうしてたどり着いたのが「バーテンダー」でした。同じ「食」に関する仕事でもそれまで見てきた世界とは一変、「すべてが新鮮な毎日だった」と当時のことを振り返ります。

「カジュアルなショットバーだったんですが、お酒の種類はもちろん、作り方だって何も知りませんでした。でも、その分いろんなことを吸収できるだけでなく、いろんな方と接する機会があって。お客さまとして来店されるのは私よりも年上で、知識や経験も圧倒的に私より豊富な方たちばかりなので、お話を聞くのがとにかく楽しいんですよ。“豊かな時間”を過ごせてるなって実感していました」

失敗しても諦めずに継続したからこそ、今がある

彼女がバーテンダーとして働き始めた「ショットバー」は、一般的にカジュアルなバーのこと。一方、「オーセンティックバー」は、格式のある正統なバーのことを指します。

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ちなみに、オーセンティックとは「本物の」や「信頼の置ける」という意味を持つことから、「伝統的なバー」「格式の高いバー」などと表現されることもあるのです。

バーテンダーとしてのキャリアを重ねるうちに、「本格的にバーテンダーの道を歩みたい」と思い至った新井さん。そんなタイミングで、知り合いから紹介してもらったオーセンティックバーに身を移すと、またしても新たな世界を垣間見ることになるのです。

「同じカクテルでも、作り方から味までまったく違うことに衝撃を受けました。それ以上に驚いたのが氷の割り方。ショットバー時代は製氷機の氷を使ってたんですが、オーセンティックバーでは大きな氷を仕入れてバーテンダー自身が包丁やアイスピックなどを使って手作業で割っていくんです。氷によってもカクテルの味が変わってくるので、非常に重要な役割です。そんな氷を割る作業がとても好きです」

そうしてキャリアアップを図り、ついには「ワールドクラス2018ジャパンファイナル」で日本一に輝いた新井さん。最後に、彼女がこれまでの功績を築くにあたり糧にしてきた、キーワードともいえる“失敗”について質問してみました。

「同じ失敗を二度と繰り返さないように注意深く観察し、考察し、努力すれば、新たな発見が生まれます。失敗しても決して諦めずに継続することで少しずつ経験値が増え、その時には分からなかった事も少しずつ理解でき、自分のできる事が増えていく。そのきっかけでもある失敗は、今までの点と点がつながる楽しい時間の序章にすぎないんですよね」

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