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Monthly FACE 〜極める人々〜

Hana4(アーティスト、ネイルデザイナー)

Profile

1984年生まれ。千葉県出身。高校を卒業後に製鉄所に就職するも半年で退職。その後、英会話教材の営業を経て、弱冠20歳の時に東京駅の路上で靴磨きをスタート。その後、品川駅に場所を移し、22歳の時に靴磨き職人として独立。2017年にロンドンで開催された「ワールドチャンピオンシップ オブ シューシャイニング」では初代王者に輝き、名実共に世界一の靴磨き職人としての地位を確立する。

手っ取り早くお金を得るために始めた靴磨き

2017年にロンドンで開催された「ワールドチャンピオンシップ オブ シューシャイニング」で初代王者に輝いた長谷川さん。名実共に“世界一の靴磨き職人”としてのポジションを確立した彼ですが、デビューは決して華々しくはなく、むしろ、泥くさささえ感じるものでした。

「20歳の頃、お金もないのに仕事を辞めたので、手っ取り早く稼げるという理由で日雇いのアルバイトを始めました。しばらくはコンスタントに稼げてたんですが、仕事が入らない日が4〜5日続いて…。日雇い以外に手っ取り早く稼げる仕事はなんだろうって考えたら、靴磨きがピンと来て『これだ!』って(笑)」

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全財産の数千円を握り締めて向かったのは、近所にある100円ショップ。なけなしの生活費から、靴磨きに必要そうなブラシやワックスを購入します。

「その翌日、友達を誘って東京駅に行きました。8時半から22時くらいまで路上で靴磨きをして、2人で7000円くらい稼げたんですよ。当時の日雇いのアルバイトも日給7000円くらいだったので、『これはいい商売だぞ』って(笑)。その日以降も路上で靴磨きをしてました」

しかし、当時、長谷川さんが求めていたのは安定した収入です。もともと独立志向があった彼は、その夢をかなえるために、靴磨きをスタートしてから1カ月の時を経てアパレルショップへの内定を勝ち取るのです。

「23歳には起業しようと思っていました。高卒なので、周りの同級生が大学に通ってる間に差をつけ、みんなが卒業した頃に社長になってたらかっこいいじゃないですか(笑)。洋服が好きだったのでアパレル業界で働きたいなって。3年の間にお金をためていいスーツも買って、23歳には起業しようかな、と」

下手くそながらに感じていた、靴磨きの可能性

そうして、アパレルショップの販売員として、新たなキャリアをスタート。しかし、路上での靴磨きは辞めず、週に5日は販売員として、週に1日は靴磨き職人として、ダブルワーク生活を送ります。なぜ安定した収入を得られるにもかかわらず、販売員に一本化しなかったのかー。そこには、ある理由がありました。

「靴磨きに可能性を感じたんです。というのも、世の中の靴磨き職人っていったら、自分よりもずっと年上のおじいちゃんやおばあちゃんしかいなかったんですよ。年を考えたら、いつまでできるんだろうって。一方、靴磨きの需要はなくならない。当時、靴磨きの専門店なんかほとんどなかったですし、若手の職人もいない。ブルーオーシャンだな、と」

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暑い日も寒い日も、週に1度の靴磨きを辞めなかった長谷川さん。しかし、技術としてはほぼ素人同然…。ある日、お客さんが発した一言で、ハッとさせられる事件に見舞われるのです。

「お客さんに『下手だから他の靴磨き職人の技を見に行った方がいい』と言われました。そこで、有名な職人の靴を磨く様子をこっそり見にいったら、遠くからでも分かるくらい光ってるんですよ。似たようなワックスを買って磨いたら、感動するくらいピッカピカになって。この頃から靴磨きの面白さにハマっちゃいましたね」

靴磨きの技術はもちろん、毎週、決まった曜日に靴磨きをしたり東京駅から品川駅に場所を移したりしたことで、多くの固定客を獲得。靴磨きをスタートして2年が経った22歳の時、ついに靴磨き職人として独立を果たすのです。

業界の異端として、常識を覆し続ける

独立とはいえ、この時点ではまだ路上にいる靴磨き職人。店舗を構えたのは、それから2年後の24歳の時でした。すると、常識では考えられないコンセプトで、これまでの靴磨きの概念をいくつも覆すことになるのです。

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「靴磨きに対する世の中のイメージとは真逆を狙ったんですよ。普通、路上なら人通りの多い駅前の広場などでやるんですが、明確な目的があればどこであろうが来てくれる。だから、駅からの距離とかは気にせず、南青山っていう住所であればどこでもいいやって。あとは値段ですね。当時、路上なら相場は500円、高級ホテルでも1200円だったんです。なので、どこよりも高い1500円を最低料金に設定しました」

現在、長谷川さんが代表を務める「ブリフトアッシュ」では、1足につき4000円が最低価格。当時の路上の靴磨き相場の8倍にも及ぶ金額です。

「じわじわ値段を上げてると、それが業界内でも当たり前になってくるんですよ。最近では、『4000円でも安い』って言われたりもします。おこがましいんですが、靴磨きの相場は僕が上げてるんですよ(笑)」

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常に常識を覆し、業界の“異端”として走り続ける長谷川さん。現在では、全国の大手百貨店から声が掛かり、靴磨きなどのイベントに参加することも少なくありません。そんな彼の目的は、靴磨きの価値を高め、靴磨き職人の地位を向上させること。

「靴磨きって本来はプロフェッショナルの仕事なんですよ。でも残念ながら、まだそう見られないこともある。これを解決するためには、靴磨きの価値を高めてマーケットを広げていかなければいけないんです。そうなれば、職人が稼げる状況が出来上がり、職人の地位が向上する。将来的には、小学校の卒表アルバムなどで、『将来は靴磨き職人になりたい』って書く子供が2〜3人いるような世の中を作っていきたいですね」

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