
さまざまな空間の完成予想図を3DCGによって視覚化する、パース制作。コンピュータを使った建築デザインで、設計やプレゼンテーションにおいて欠かせない技術の一つ。野口洋平さんが代表を務める「BROCK PARTY」は設立からわずか3年ながら、大手アパレルショップを始め、幅広いジャンルのパース制作を手掛ける業界気鋭の存在です。

「パース制作を行なう上で意識していることは、インテリアデザイナーなど『クライアントの頭の中にあるイメージ』をうまく汲み取ることです。図面がそろっていなかったり、デザインが煮詰まっていない状態で制作依頼が来ることもありますので、ラフスケッチや口頭でのイメージ説明など、少ない情報の中から最大限の理解をし、想像する力が求められます。
そんな時、柔軟に対応できるかどうかは、一人ひとりの“引き出し”の多さにかかっています。新しい建築物を積極的に見に行くほかに、建築デザインに関連する本を読むなどして、イメージのストックを増やすようにしています。図面などの情報が全てそろっていないとパースを制作しない会社もある中、少ない情報からイメージを具現化できるのが私たちの強みでもあります。」
「設計」から「建築」という一つの流れの中で、パース制作が果たす役割については、次のように話します。
「パース制作の重要な役割は、脳内のイメージを的確に視覚化すること。物件の施工を始める前にイメージをビジュアルにすることで、インテリアデザイナーが自身のデザインの良し悪しを検証する判断材料になるんです。また、デザイナーがプレゼンの際にクライアントにイメージを分かりやすく伝えるための資料としての役割もあります。
ほかにも、日本のデザイナーが海外の職人の方と作業をする時などは、言葉の代わりにパースでイメージを伝えることもあります。明確なビジュアルがある分、言葉よりもうまくコミュニケーションをとれるようです。」

デザイナーが思い描く空間を「リアル」に表現するためにも、パースを制作する上で譲れない「ひと手間」があります。
「どんなに忙しい時でも、ディテール(細部)までしっかりつくり込むこと。これが仕事をする上で譲れない部分です。たとえばですが、面と面の間にある『角』の部分をCGでつくる際には、ラインのエッジを表現するためにも現実と同じ『R状』になるようにしています。何も手を加えない状態ですと、CGは『ピン角』の状態になってしまうんですね。エッジの部分にラインがあるのとないのとでは、立体感に圧倒的な差が出ます。
パースを見た人の心を魅了するようなイメージをつくるためにも、これらは譲れないもの。一つひとつは細かいものかもしれませんが、上記のようなこだわりの積み重ねが、『BROCK PARTY』ならではのパースとなり、クライアントから支持をいただいているのだと考えています。」
写真のようにも見える、精巧につくられたパース画像。「写真のよう」であることと、「リアル」であることは似ているようで異なるものだといいます。
「パースは図面ではないので、写真のように、ち密につくることだけが正解だとは思っていません。デザイナーのイメージをうまく表現することが重要なので、『広い空間』ということを“売り”にするのであれば、奥行きをより感じられるようなつくりにするなど、『イメージならではの表現』を意識しています。」

都内の大学(建築科)を卒業後、設計事務所での勤務を経て「BROCK PARTY」の代表を務めている野口さん。建築を始めとする「空間づくり」に興味をもったきっかけは、世界的に有名なブロックの玩具でした。
「小学生の頃から『レゴブロック』が大好きで、遊びといえばブロック遊びでした。いろいろなパーツを組み合わせて自由に空間をつくれるのが、子どもながらに楽しかったんだと思います。自分の部屋が出来てからはインテリアにはまるなど、空間や立体をつくるのが昔から好きで、自然と今の仕事をするようになっていました。
なので、世に出る前の最先端の建築デザインに関われるこの仕事は、とても魅力的。著名な建築家やデザイナーの方とお仕事をご一緒させていただけることもあるので、刺激もあります。」

プライベートにおける空間づくりと、仕事としての空間づくり。この2つは、別ものでありながら、密接な繋がりがあるといいます。
「部屋のインテリアなど、プライベートでの空間づくりが『自由なもの』であるのに対して、仕事における空間づくりは『クライアントの要望に沿ったもの』という明確な違いがあります。ただ、好きなことを仕事に出来ているので、プライベートで得た空間づくりの情報やイメージなどが、『引き出し』としてストックされる利点があります。表面的には全く別ものですが、裏ではしっかりと結びついているのが面白いですね。
また、CGによるパース制作というのは、だれがつくっても同じになると思われがちですが、そんなことはありません。その人の『引き出し』や個性、感性がエッセンスとして反映され、それが一人ひとりの持ち味にもなるんです。」
クライアントからの紹介によって、新たな取引先との繋がりを広げている同社。今後の展望を次のように話します。
「まずは、今のクライアントに対して、丁寧でいい仕事をしていくことが大切だと考えています。これまでも営業はせず、いい仕事をすることで新しいクライアントを紹介していただいてきましたので、今の仕事のあり方をしっかりと守っていきたい。一方で、内容的な部分に関しては、最先端の技術を取り入れつつ、サービスを進化させていけるように心がけています。業務の幅を広げていき、多くの空間づくりに携わっていきたいです。」
「未来」という名のパースを描く、野口洋平さん。「BROCK PARTY」のスタッフと共に、将来のイメージを築き上げていきます。
(取材・文/石川裕二)