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Monthly FACE 〜極める人々〜

ステファン・ダントン

Profile

1964年生まれ。フランス・リヨン出身。フランスでソムリエの資格を取得後、ワインの魅力を伝えるため1992年に来日。紅茶専門店で働きながらも、日本茶に可能性を感じて2005年、東京・吉祥寺に日本茶フレーバーティー専門店「おちゃらか吉祥寺店」をオープン。フレーバーティーというスタイルで日本茶の常識を覆す。

食に興味を持ったルーツは少年時代

ここは、老舗から話題の最新店までがそろう、新旧融合した商業施設「コレド室町1」。地下1階にある「おちゃらかコレド室町店」に一歩足を踏み入れると、心癒やされる爽やかなフレーバーティーの香りが出迎えてくれます。

店内には巨峰や夏ミカンをはじめとしたフルーツなどの、さまざまなフレーバーティーが所狭しとレイアウトされています。フレーバーティーと聞くと、紅茶をイメージする方も少なくないかもしれません。でも「おちゃらか」の場合は、緑茶やほうじ茶などの日本茶がベース。そんな珍しいフレーバーティーで人々を魅了するのは、フランス出身のステファン・ダントンさんです。

ステファンさんが日本茶に魅了されたルーツは、遠く、幼い頃までさかのぼります。“食の都”として知られるフランス・リヨンで生まれたステファン少年は、農家の親戚が多いことから常においしい食材に囲まれていたそう。

「小さい頃から新鮮なフルーツや野菜ばかり食べていたんです。なので、自然と『食』に対する興味が湧いて、ゆくゆくはそういった仕事に就ければいいなと考えていました」

好きを仕事にする―。子供ながらに漠然と将来を予感していたステファン少年。アルコールを飲める年齢になると、今度はアルコールに興味を持ち、ソムリエの資格を取得。ワインの魅力を日本に広めることを目的に1992年、来日を果たします。しかし、その後に「おちゃらか」をオープンさせるまでの道のりは、決して平たんなものではありませんでした。

日本茶の魅力に気付いていない日本人が多すぎる

日本人にワインの魅力をもっともっと知ってほしい―。そんな思いを抱いていたものの、来日してすぐに勤めたのは、ワインでもなければアルコールでもない、紅茶を専門に扱うショップでした。

「ソムリエの資格を生かせるワイン関係の仕事を探していたんですが、残念ながら見つけることができず…。そんな時に、フランスで有名な紅茶専門店が日本に上陸するということで、スタッフを探している、と。ワインではありませんが、いろいろな種類の紅茶を販売しているお店だったので、ソムリエの仕事に近かったですね」

働くうちに紅茶についての知見を広めていったステファンさんは、意外にもワインと紅茶に共通点が多いことに気付くのです。

「ブドウの木とお茶の木の寿命や、出荷までの年数が5年かかることなど、挙げたら切りがないくらい、いろいろな共通点がありますが、基本的にはどちらもそれぞれの国に住んでいる人の食文化に合うように作られています。ワインもそうですが、日本茶も日本の食事に合うように作られていますよね」

ソムリエの資格を取得しようとした時と同じように、紅茶にも大いなる可能性を感じたステファンさん。それと同時に、日本の“ある習慣”に違和感を拭えずにいたのです。

「日本人は日本茶に対してとても誇りを持っているのに、その魅力に気付いていない人があまりにも多い。居酒屋では『あがりをください』と言えば無料でお茶が飲める。今でも信じがたい事実ですが、メニューに烏龍茶はあっても日本茶なない、というお店がほとんどですからね」

「無料で飲めるお茶に、価値を持たせた」

高尚な文化としての「茶道」は、ステファンさんのような外国人にはハードルが高い。フレーバーティーという形でオリジナルの日本茶を提供すれば、入口が広くなって多くの人に親しんでもらえる。しかも、無料であるはずの日本茶に価値をつけることができるはず―。そう考えたステファンさんは2005年、東京・吉祥寺に「おちゃらか吉祥寺店」をオープンさせます。

「最初はフランスなど海外に輸出しようと思っていたのですが、そのためにも、まずは日本で店舗を構えて実績を作るべきだ、と。周りの人からは『やっていけるの?』『無理でしょ、やめたら?』と言われましたが、それは日本人の発想から出てくる言葉。私は日本茶に対して固定観念がないので、フレーバーティーにするというのはすごくシンプルな発想なんです。私がワインにフレーバーを入れると聞いたら疑問に思いますけどね(笑)」

あくまでも、海外に輸出する準備段階として店舗を構えたはずでしたが、オープン後まもなく多くのメディアから注目を浴びるようになります。

「吉祥寺という場所柄もあり、日本茶のフレーバーティーという斬新な発想が、新しいものを探しているメディアにとっていいネタになったんでしょうね」

かくして、広く受け入れられた日本茶×フレーバーティーというスタイル。2014年10月には、古き良き日本の文化を残す日本橋の「コレド室町1」に本拠地を移すのです。

「目や鼻、口で味わう日本茶のフレーバーティーは、ワインと同じように楽しめる新たなドリンクとして、国内はもちろん世界中の方々に受け入れていただけると確信しています」