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アーキテクト・イン・シネマ 〜映画に観る建築・住まい・家族〜

『博士と狂人』
  • 『博士と狂人』
  • 『博士と狂人』
  • ■発売日: Blu-ray発売中
  • ■発売・販売元:ポニーキャニオン
  • ■価格:Blu-ray ¥5,280 (税込)
  • (C)2018 Definition Delaware, LLC. All Rights Reserved.
  • 監督:P・B・シェムラン
  • 出演:メル・ギブソン
    ショーン・ペン
    ナタリー・ドーマー
    エディー・マーサン
    スティーヴ・クーガン ほか

歴史はこの2人から始まった――。

■Introduction

初版発行まで70年以上の歳月を費やし、世界最高峰と称される「オックスフォード英語大辞典」の誕生秘話を記したノンフィクション「博士と狂人 世界最高の辞書OEDの誕生秘話」を映画化。原作の映画化にあたり、真っ先に名乗りを上げたのが、マレー博士を演じるメル・ギブソン。当初は自身で監督を務めるつもりでいた彼は映画化に構想から20年以上を費やし、情熱を注いできた。対する狂人マイナーには、アカデミー賞主演男優賞を二度受賞しているショーン・ペン。そのほか、ドラマ「ゲーム・オブ・スローンズ」のナタリー・ドーマー、「シャーロック・ホームズ」シリーズのエディ・マーサンらが脇を固める。

■Story

19世紀、貧しい家に生まれ学士号を持たず、独学で言語学博士となったマレー(メル・ギブソン)。彼は、オックスフォード大学で英語辞典編集計画の中心人物だった。シェイクスピアの時代までさかのぼりすべての言葉を収録するというもはや無謀ともいえるプロジェクトに行き詰まる中、博士に大量の資料を送ってくる一人の謎の協力者が現れる。その協力者とは、なんと、殺人を犯し精神科病院に収監されていたアメリカ人、マイナー(ショーン・ペン)だった―。だが、大英帝国の威信をかけた一大事業に犯罪者が協力していることが明るみに出ると、プロジェクトは暗礁に乗り上げる。ついには、時の内務大臣ウィンストン・チャーチルや王室をも巻き込んでいくことになってしまい…。

『博士と狂人』
トリニティ・カレッジ図書館(アイルランド〜ダブリン)

世界一美しい本が収められた歴史ある図書館


                    選ばなかったみち

時は19世紀─。初版の発行まで70年を費やし、世界最高峰と称される辞書「オックスフォード英語大辞典」。メル・ギブソンとショーン・ペン主演の『博士と狂人』は、その辞書制作の裏にあった、異端の学者とある殺人者の絆を描いたドラマです。学士号を持たず、独学で言語学博士となったマレー(メル・ギブソン)が、大英帝国の威信をかけた新しい辞書作りの第一歩、辞書編集の責任者に承認される重要なシーンは、アイルランド・ダブリンにある、トリニティ・カレッジ図書館で撮影されました。

1592年にイギリスのエリザベス1世によって創設されたトリニティ・カレッジは、オスカー・ワイルドやジョナサン・スウィフト、サミュエル・ベケットなどそうそうたる文学者を輩出したアイルランド最古の大学です。英国の法定納本図書館であるこの図書館には、アイルランドおよびイギリスで発行された全ての本が納められています。構内に6つある図書館の中で最も古い建物がオールド・ライブラリー。1712年にアイルランドの建築家トーマス・バーグが設計したこの図書館では、世界で最も美しい本と称されている『ケルズの書』を見ることができます。劇中に登場したのは、長さ65mのロングルーム。高いアーチ型の天井の下、20万冊の貴重な古文書が左右対称の書庫に整然と並べられた重厚感のある空間は、厳かさに満ちています。

「スター・ウォーズ」シリーズの「ジェダイ・アーカイヴ」のモデルにもなったロングルームは一般の人も見学可能なので、マレーら先達が残した知の歴史に触れてみてはいかがでしょうか。

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『ベイビー・ブローカー』
  • 『ベイビー・ブローカー』
  • ■発売日:DVD&Blu-ray発売中
  • ■発売・販売元:ギャガ
  • ■価格:価格:Blu-ray 5,280(税込) DVD¥4,180(税込)
  • (C) 2022 ZIP CINEMA & CJ ENM Co., Ltd., ALL RIGHTS RESERVED
  • 監督:是枝裕和
  • 出演: ソン・ガンホ
    カン・ドンウォン
    ぺ・ドゥナ
    イ・ジウン
    イ・ジュヨン ほか
 

赤ちゃんを高く売る。それだけのはずだった。

■Introduction

『万引き家族』是枝裕和が『パラサイト 半地下の家族』ソン・ガンホを主演に迎え初めて手掛けた韓国映画。さまざまな事情で子どもを育てられない人が匿名で赤ちゃんを預けていく「赤ちゃんポスト(ベイビー・ボックス)」を巡る人々の物語を、オリジナル脚本で描く。ソン・ガンホのほか、『義兄弟 SECRET REUNION』でもソンと共演経験のあるカン・ドンウォン、是枝監督の『空気人形』に主演したペ・ドゥナ、歌姫として活躍するイ・ジウン、「梨泰院クラス」のイ・ジュヨンらが顔をそろえる。2022年・第75回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品され、エキュメニカル審査員賞を受賞、また主演のソン・ガンホが最優秀男優賞を受賞し2冠を達成した。

■Story

借金に追われながら、古びたクリーニング店を経営するサンヒョン(ソン・ガンホ)と、〈赤ちゃんポスト〉が設置されている施設で働く児童養護施設出身のドンス(カン・ドンウォン)。ある土砂降りの雨の夜、2人は若い女性ソヨン(イ・ジウン)が〈赤ちゃんポスト〉に預けた赤ん坊をこっそりと連れ去った―。実は彼らの裏の顔は、ベイビー・ブローカーだ。しかし、翌日思い直して戻ってきたソヨンは赤ん坊が居ないことに気づく。そして、成り行きから2人と共に養父母探しの旅に出ることに。一方、サンヒョンらを検挙するためずっと尾行していた刑事スジン(ぺ・ドゥナ)と後輩のイ刑事(イ・ジュヨン)は、現行犯で逮捕しようと、静かに後を追っていくが…。

『ベイビー・ブローカー』

小さな命を巡る大人たちの心の変化を描く

『そして父になる』『万引き家族』など、これまで家族を描き続けてきた是枝裕和監督が、『パラサイト 半地下の家族』のソン・ガンホをはじめ、韓国の実力派俳優たちを迎えて新たに挑んだのは、「ベイビー・ボックス(赤ちゃんポスト)」をテーマにした物語。「赤ちゃんポスト」に預けられた赤ちゃんを盗み、高く売るベイビー・ブローカーの男、サンヒョン(ソン・ガンホ)と相棒のドンス(カン・ドンウォン)は、赤ちゃんを取り戻しに来た若い女性ソヨン(イ・ジウン)に怪しまれ、なりゆきで養父母を探す旅に出ることに。

借金返済のために赤ん坊を売りたいブローカー、ある事情から赤ん坊を捨てた女、ブローカーを現行犯で逮捕しようと意気込む警察。それぞれの思惑を抱えた旅は、思わぬ同行者も加わったことで、予想外の方向へ変わっていきます。“金づる”だった赤ちゃんは、いつしか将来の幸せを願う存在へ。追うものと追われるものというサスペンスの枠組みから、家族ドラマのようになっていく過程が面白い。是枝作品を改めて振り返ってみれば、家族を新たに迎える話には『そして父になる』や『万引き家族』、『海街diary』があり、社会問題をテーマにした作品といえば『誰も知らない』や『DISTANCE』などが挙げられますが、この『ベイビー・ブローカー』はさまざまな家族を描いてきた是枝監督の集大成のような作品といえるでしょう。

是枝監督は本作を作るにあたり、児童養護施設への取材を重ねたといいます。取材の中で多く上がったのは「自分は生まれてきた良かったのか?」という不安の声。劇中、ソヨンが暗闇の中、一人一人に投げかけた言葉は、そんな不安を吹き飛ばす力強いメッセージとして、私たちにもダイレクトに響いてきます。