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Monthly FACE 〜極める人々〜

川西洋之さん(ガラスペン職人)

Profile

1974年生まれ、東京都出身。20歳の時に、世界へ旅に出ようと決意する。1995年から2001年はカナダに滞在。バンクーバーを訪れた際にホウケイ酸ガラス細工と出会う。その後、オーストラリア、オセアニアで2年、南米で2年、アジアで1年間を過ごす。海外での10年を超える放浪生活を経て、日本に帰国。ガラス制作を独学で始めると、2009年には「川西硝子」を立ち上げる。現在は、北海道・羊蹄山麓の工房にて制作活動中。

昨日よりもよいものを作りたいと毎日考えている

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「メイドインジャパン」といえば、日本が世界に誇るさまざまな製品のことを指していますが、つけペンの一種であるガラスペンもその一つ。ペン先から柄に至るまですべて手仕事で行われ、見た目の美しさと実用性を兼ね備えていることから高い人気を集めています。中でも、多くの人をとりこにする作品を生み出し続けているのは、ガラスペン職人の川西洋之さん。今回は、ガラス細工を始めたきっかけや魅力について語っていただきました。

「実は、学生時代は介護職を目指していて、内定も決まり、就職をする直前まで進んでいたんです。でも、そんなときに“海外で生活する”という15歳頃からの夢をかなえたいという気持ちが高まり、『かなえるなら定職に就く前の今しかない!』と思い、海外へと旅に出ることに決めました」

その後、10年以上にわたって世界中を旅することになった川西さんですが、カナダに滞在している際、バンクーバーでホウケイ酸ガラス細工と出会い、運命が動き始めることに。初めてガラス細工を目にした時の印象を振り返ります。

「まずは、今までに見たことのない不思議な世界観に驚きました。所狭しとガラス細工が並んでいる中でも、ひときわ異質で、透明でゆがみのない作品が目に留まり、できるものなら自分でも作ってみたいなと。ただし、その段階では『将来的にガラス制作に携わろう』というほど具体的な芽生えはまだなかったと思います」

とはいえ、帰国した後、独学でガラス制作を開始。あえて独学という方法を選んだ理由については、こう話します。

「もともとは職人として一つのものを作り続ける道ではなく、アートとして作品を作ろうと考えたのが始まりでした。そして、『アートならば必要以上に他人から教えてもらわない方がよいのでは?』と勝手に思い込んでいたのかもしれません。なので、当時は独学でやっているという意識すら自分の中にはなかったですね。どうしても必要な基礎的なことなどは、人から色々と教えてもらいましたが、ガラスペンの制作を始めてからはすべて独学と言っても過言ではないと思います」

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自らの手法を確立するまでは4〜5年ほどの時間を要したそうですが、結果的には実用性が低いと思われがちなガラスペンの概念を覆し、滑らかな書き心地と、約300〜500字の連続筆記を可能にしました。それでも、常に進化し続ける姿勢を崩さない川西さん。

「自分なりの手法を見つけてからも、現在に至るまで、実用品としての質をさらに高められるように、試行錯誤を繰り返しています。その中で大切にしているのは、昨日よりもよいものを作りたいという思いです」

そして、さまざまな苦労を感じる中でも、前を向いていられた秘訣(ひけつ)について、教えてくれました。

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「自分の作り方がある程度、確立されるまでは、すべてが失敗と成功の繰り返しでした。そんな中、すべての困難を乗り越える突破口となっていたのは、初心を忘れないということ。いつの日かこれが自分の信念にもなるかもしれませんが、まだ15年ですから。日々、一生懸命です」

そんな謙虚さが川西さんのストロングポイントでもありますが、長い海外生活で学んだことも今の仕事で生かされていると言います。

「例えば、海外の展示会などに出展することに対してためらうことはありませんし、そういった場面でも物おじせずにいられるのは、海外で暮らしてきたおかげだと思います」

見た目では分からなくても手作業にこだわり続けたい

いまでは国内外に多くのファンを持つ川西さんですが、「川西硝子」にしかない魅力を支えているのは惜しみない努力。

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「最も重要で大変なのは、ペン先の溝入れ作業。溝をいかに作り出すかというところは、一番、苦労しました。今でも、少しでもよくならないかと常に意識していますが、私としては、その部分に最大のこだわりを持って作っています。溝の本数や入れ方、バランス、兼ね合いなど、今の形になるまではかなり試行錯誤しました。手業で均等にし、実用品としての質も保った溝を入れる事に時間をかけています」

現在、一般的には、 ガラスペンの肝となるペン先の溝がすでに出来上がっている、工業製の溝入りガラス棒を使う方が主流。にもかかわらず、例え見た目では分からなくとも、工業製品に頼ることなく手作業にこだわっているところに、川西さんの職人魂を感じます。では、仕事でやりがいを感じる瞬間とは?

「出来上がったガラスペンを試筆するのですが、書いた瞬間に『これはいい!』と手応えがある時です。まさに、“その瞬間”という感覚ですね。この時に感じた手応えを後のスタンダードにしていくという終わりのない挑戦もやりがいを感じる部分です。それ以外では、15年前に作ったガラスペンの修理を依頼された時にも、何とも言えない喜びを感じました」

そんな川西さんは、ガラス制作を通して今後、伝えたい思いがあるのだと言います。

「繰り返しにはなりますが、まずは少しでもよいものを一本でも多く生み出したい。日本発祥のガラスペンというもののよさをもっと世界の人々にも知ってもらいたいと思っています。そして、ガラスペンを通して、あえてアナログにこだわり手書きという一手間をかける気持ちの大切さを伝えることができればとても嬉しいです」