デンマーク国立銀行(コペンハーゲン〜デンマーク)
北欧デザイン界の巨匠ヤコブセンの美学が詰まった遺作

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コペンハーゲン警察の緊急通報指令室のオペレーターであるアスガーは、女性からの1本の電話が今まさに誘拐事件の真っ最中であることに気づく―。視覚情報がなく、電話からの声と音だけで誘拐事件の顛末(てんまつ)を描いた本作は、その設定と予想を超える展開で第91回アカデミー賞外国語映画賞選出をはじめ、世界中で話題をさらった作品です。舞台は警察署内の緊急通報指令室のみというワンシチュエーション映画ゆえ、劇中ではコペンハーゲンの街並みは登場しませんが、デンマークを代表する建築家兼デザイナーのアルネ・ヤコブセンが手掛けたデンマーク国立銀行は、ぜひ見ておきたいスポットです。
エッグチェアやセブンチェアで知られる北欧デザイン界の巨匠アルネ・ヤコブセン。彼は集合住宅や劇場、庁舎など多くの建物に関わりましたが、なかでも「デンマーク国立銀行」は彼の遺作であり最高傑作ともいわれています。大理石とガラスのカーテンウォールという2つの顔を持つ無機質な外観の内部からは、トータルデザインにこだわったヤコブセンの美学が感じられます。
6層の吹き抜けをつなぐスケルトンの階段と、中央に置かれた6脚のスワンチェア。無駄をそぎ落としたエントランスはとてもモダンですが、ホールやラウンジには植物の鉢をつり下げたガラスケースを配するなど、温かみのある演出が施されています。さらに、外からでは分かりませんが、2つの中庭には、池や石などが日本庭園のように配置されています。また、彼の代表作の一つであるウォールクロック「バンカーズ」は、デンマーク国立銀行のためにデザインされたもの。このほか、家具や水栓器具に至るまですべてに目が配られているのです。残念ながらヤコブセンはこの建物の完成を見ることなく世を去りましたが、彼の集大成ともいわれる建物の美しさは、変わることなく現在も人々を魅了し続けています。
犯人は、音の中に、潜んでいる
■Introduction「電話からの声と音だけで、誘拐事件を解決する」というシンプルな設定ながらも、予測不可能な展開で第34回サンダンス映画祭において観客賞(ワールド・シネマ・ドラマ部門)を受賞したデンマーク製のサスペンス。本作が長編映画監督デビュー作となるグスタフ・モーラーが、「音声というのは、誰一人として同じイメージを思い浮かべることがない」ということから着想を得て製作された作品。主演は『Across the Waters(原題)』のヤコブ・セーダーグレンが務める。
■Story緊急通報指令室のオペレーターであるアスガー・ホルム(ヤコブ・セーダーグレン)は、ある事件をきっかけに警察官としての一線を退き、交通事故による緊急搬送を遠隔手配するなど、ささいな事件に応対する日々が続いていた。そんなある日、一本の通報を受ける。それは今まさに誘拐されているという女性自身からの通報だった。彼に与えられた事件解決の手段は「電話」だけ。車の発車音、女性のおびえる声、犯人の息遣い…。微かに聞こえる音だけを手掛かりに、“見えない”事件を解決することはできるのか。