クラブ・エス ウェブマガジン

Monthly FACE 〜極める人々〜

坂井保之さん(看板彫刻師)

Profile

福岡県出身。ファッション業界でコレクションブランドのデザイン、ニットデザインなどを経験。その後、イベントのPR用コスチューム等のデザインも手掛ける。2008年になると、アート活動を本格的にスタート。松濤美術館賞優秀賞をはじめ、国内外でさまざまな賞を受賞する。2016年には、工芸の木目込み人形の技法からインスピレーションを受け “キメコミアート” を生み出す。現在は、各地でワークショップやイベントを開催している。

ありのままでいいと、ふに落ちてから、作品に説得力が生まれた

イメージ

「アート」と一口にいっても、アーティストの数だけスタイルがありますが、イワミズアサコさんが生み出したのは「キメコミアート」。日本の伝統工芸である「木目込み人形」からヒントを得た技法を使い、廃材の発泡スチロールや古着、端切れなどを駆使して作られる注目のポップアートです。今回は、キメコミアートの魅力やアートを通じて伝えたい思いなどについて語っていただきました。

「子供の頃から古着をリメイクしたり、自分で洋服を作ったりしていたので、ファッションの専門学校を出たあとはコレクションブランドでデザイナーとして働いていました。ただ、私がデザイナーになったときは、ちょうどファストファッションが流行り始めたとき。どんなに自分がこだわってモノづくりをしても、消費者にはうまく伝わらないように感じてしまい、理想と現実のギャップに直面して洋服作りを楽しめなくなっていたんです。そこで、昔からずっと好きで描き続けてきた絵を使って、アート活動を本格的に始めようと決意しました」

思い立ったらすぐに行動するというイワミズさんは、勤めていた会社を退職すると、すぐにニューヨークへと渡ることに。現地に数カ月間滞在するなかで、さまざまな刺激を受け、それによって新たな気付きを得られたと振り返ります。

「最初は、ニューヨークに住んでアーティストになりたいと憧れていたんですが、さまざまな国を旅するなかで、そんなふうに背伸びするよりも、私にしかできないことをやることの方が大切なんだと気が付きました。場所がどこであったとしても、そこで表現するものを知ってもらえればいいのだと。いろんな葛藤もありましたが、ありのままでいいんだと自分のなかでふに落ちてからは、作品にも説得力が生まれるようになり、周りからの評判もよくなりました。いまは日本で作ったものが、海外で評価されるのが理想です」

イメージ

アーティストに転向してから8年後、イワミズさんのひらめきから誕生したのがキメコミアートの始まり。ファッションを学んできたイワミズさんだからこそ、生み出すことができた作品だと言えます。

「ファッションが好きな気持ちは変わらなかったので、布を使って何かを作りたいという思いはずっとありました。そんなときに、たまたま身近な道具を使って発泡スチロールに布を押し込んだところ、これは面白いなと。人に見せたら、『木目込み人形みたいだね』という声があったので、『キメコミアート』という名前を付けて発表することにしました」

自分のアートによって、人の生活と心を豊かにしたい

現在も月に1回のペースで個展を開いているため、毎日15時間ほど制作に取り掛かり、3日に1枚は新作を作り続けているのだそう。それでも、スランプに陥ったことも、作品づくりで悩んだこともないと大きな笑顔を浮かべるイワミズさん。常にポジティブでいられる秘訣(ひけつ)については、こう話します。

イメージ

「無理にやってもいいものは作れないので、とにかく楽しむこと。そして、自然に従うままに作品づくりと向き合うようにしています。なので、定期的に個展を開催するというルールは決めていますが、それ以上はあまり決めごとをしないのが私のやり方。考えすぎないようにもしています。私の場合、キメコミアートは自己流なので、失敗も成功にすることができるのもいいところかもしれませんね。もちろん、そこには責任も伴いますが、すべてを自分として受け止めています。以前より技術は上がっているものの、まだまだ自分の手法は確立できていないと感じているので、とにかく進むのみです」

アート活動を始めてから、イワミズさんが続けていることの一つはワークショップ。日々の生活のなかからさまざまなインスピレーションを受けていることもあり、今後も人との交流を大切にしたいと言います。

イメージ

「私は誰でもアーティストだと思っているので、アートが皆さんの身近にあって、それが生活を少しでも豊かにするものになればいいなと考えています。そのために、これからも子供から大人まで幅広い人に愛される作品を数多く生み出していきたいです。大事にしているのは、シンプルに楽しんでもらえて、みなさんに笑顔になってもらうこと。アートによって誰かの心を少しでもホットにできたらいいですね」

そして、この先についても、自分なりの方法でアートに取り組んでいきたいと前向きな思いを教えてくれました。

「いま、日本では年間に約33億着の洋服が捨てられている現実があります。社会貢献と言えるか分かりませんが、そんなふうに無限にある素材と向き合いながら、アートを通じて自分にしかできないことをもっと突き詰めていきたいと思っています。挑戦したいこともたくさんあるので、チャレンジ精神の気持ちでいっぱいです」

イメージ