旧グッゲンハイム邸(神戸~日本)
明治時代に建てられたコロニアルスタイルの洋館

第77回ベネチア国際映画祭で、日本人監督としては北野武の『座頭市』以来17年ぶりに銀獅子賞を獲得した黒沢清監督の『スパイの妻』。出張先の満州で偶然、国家機密を知り、事実を世に知らせようとする男と、彼を愛し、付いていこうとする妻。太平洋戦争開戦間近の1940年を舞台に、己の正義と愛を貫こうとする夫婦の姿がスリリングに描かれます。
貿易商を営む優作(高橋一生)と、聡子(蒼井優)が暮らす洋館のロケ地となったのは、神戸市・塩屋にある旧グッゲンハイム邸。1階と2階に設けられた5連アーチの開放的なベランダが特徴の、コロニアルスタイルのこの洋館は、1908年(明治41年)ごろにイギリス人建築家アレクサンダー・ネルソン・ハンセルの設計で建てられたと考えられています。建物の名前は、当時の住人であったアメリカ人の貿易商・グッゲンハイム氏から名付けられたものですが、なんと2020年6月、グッゲンハイム氏の実際の邸宅は北隣の家で、この家を建てたのはジャコブ・ライオンス氏だったことが判明。しかし建物は、現在も長年親しまれてきた「旧グッゲンハイム邸」の名称で呼ばれています。館内は、マントルピースやアールヌーボー調の階段などクラシックながらも、ペールブルーの建具や大きな窓が明るい雰囲気を演出。劇中ではステンドグラスになっていた2階のベランダからは、塩屋の海が広がる気持ちのよい景色が楽しめます。
日本では洋館のような建築価値が高い建物でも、維持管理費や相続の問題などから取り壊される例も少なくありませんが、塩屋のランドマークであるこの建物を残すべく、塩屋在住の森本一家が建物を購入。自ら修理をしながら、現在、音楽会やウエディングなどイベント・スペースとして開放しているほか、月に一度、無料で見学会も開催しています。神戸に住む外国人の夏の別荘地として栄えたという塩屋の町には、いくつか現存している洋館もあるので、そぞろ歩きもおすすめです。
太平洋戦争前夜。
愛と正義に賭けたふたりがたどり着くのは、幸福か、陰謀か―。
2020年6月にNHK BS8Kで放送された同名ドラマの、スクリーンサイズや色調を新たにした劇場版。『トウキョウソナタ』などの黒沢清が監督を務め、第77回ベネチア国際映画祭コンペティション部門で銀獅子賞(最優秀監督賞)を受賞した。主演は日本アカデミー賞をはじめ、数々の受賞歴を誇る実力派女優・蒼井優。その夫役を高橋一生が演じる。その他、東出昌大や笹野高史など、個性豊かな俳優陣が脇を固める。
■Story1940年、少しずつ戦争の足音が日本に近付いてきたころ。聡子(蒼井優)は神戸で貿易商を営む優作(高橋一生)と共に洒脱(しゃだつ)な洋館で暮らしていた。ある日、優作は物資を求めて赴いた満州で偶然、恐ろしい国家機密を知り、正義のため、ことのいきさつを世に知らしめようとする。聡子は反逆者と疑われる夫を信じ、スパイの妻とののしられようとも、その身が破滅することも厭わず、ただ愛する夫と共に生きることを心に誓う。太平洋戦争開戦間近の日本で、夫婦の運命は時代の荒波に飲まれていく…。