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アーキテクト・イン・シネマ ~映画に観る建築・住まい・家族~

スパイの妻
  • スパイの妻
  • 『スパイの妻<劇場版>』
  • ■発売日:発売中
  • ■発売・販売元:アミューズソフト
  • ■価格:DVD ¥3,800+税
  • 監督:黒沢 清
  • 出演:蒼井 優
    高橋一生
    坂東龍汰 恒松祐里 みのすけ 玄理
    東出昌大 笹野高史 他
 

(C)2020 NHK, NEP, Incline, C&I

旧グッゲンハイム邸(神戸~日本)

明治時代に建てられたコロニアルスタイルの洋館


旧グッゲンハイム邸(神戸~日本)

第77回ベネチア国際映画祭で、日本人監督としては北野武の『座頭市』以来17年ぶりに銀獅子賞を獲得した黒沢清監督の『スパイの妻』。出張先の満州で偶然、国家機密を知り、事実を世に知らせようとする男と、彼を愛し、付いていこうとする妻。太平洋戦争開戦間近の1940年を舞台に、己の正義と愛を貫こうとする夫婦の姿がスリリングに描かれます。

貿易商を営む優作(高橋一生)と、聡子(蒼井優)が暮らす洋館のロケ地となったのは、神戸市・塩屋にある旧グッゲンハイム邸。1階と2階に設けられた5連アーチの開放的なベランダが特徴の、コロニアルスタイルのこの洋館は、1908年(明治41年)ごろにイギリス人建築家アレクサンダー・ネルソン・ハンセルの設計で建てられたと考えられています。建物の名前は、当時の住人であったアメリカ人の貿易商・グッゲンハイム氏から名付けられたものですが、なんと2020年6月、グッゲンハイム氏の実際の邸宅は北隣の家で、この家を建てたのはジャコブ・ライオンス氏だったことが判明。しかし建物は、現在も長年親しまれてきた「旧グッゲンハイム邸」の名称で呼ばれています。館内は、マントルピースやアールヌーボー調の階段などクラシックながらも、ペールブルーの建具や大きな窓が明るい雰囲気を演出。劇中ではステンドグラスになっていた2階のベランダからは、塩屋の海が広がる気持ちのよい景色が楽しめます。

日本では洋館のような建築価値が高い建物でも、維持管理費や相続の問題などから取り壊される例も少なくありませんが、塩屋のランドマークであるこの建物を残すべく、塩屋在住の森本一家が建物を購入。自ら修理をしながら、現在、音楽会やウエディングなどイベント・スペースとして開放しているほか、月に一度、無料で見学会も開催しています。神戸に住む外国人の夏の別荘地として栄えたという塩屋の町には、いくつか現存している洋館もあるので、そぞろ歩きもおすすめです。

太平洋戦争前夜。
愛と正義に賭けたふたりがたどり着くのは、幸福か、陰謀か―。

■Introduction

2020年6月にNHK BS8Kで放送された同名ドラマの、スクリーンサイズや色調を新たにした劇場版。『トウキョウソナタ』などの黒沢清が監督を務め、第77回ベネチア国際映画祭コンペティション部門で銀獅子賞(最優秀監督賞)を受賞した。主演は日本アカデミー賞をはじめ、数々の受賞歴を誇る実力派女優・蒼井優。その夫役を高橋一生が演じる。その他、東出昌大や笹野高史など、個性豊かな俳優陣が脇を固める。

■Story

1940年、少しずつ戦争の足音が日本に近付いてきたころ。聡子(蒼井優)は神戸で貿易商を営む優作(高橋一生)と共に洒脱(しゃだつ)な洋館で暮らしていた。ある日、優作は物資を求めて赴いた満州で偶然、恐ろしい国家機密を知り、正義のため、ことのいきさつを世に知らしめようとする。聡子は反逆者と疑われる夫を信じ、スパイの妻とののしられようとも、その身が破滅することも厭わず、ただ愛する夫と共に生きることを心に誓う。太平洋戦争開戦間近の日本で、夫婦の運命は時代の荒波に飲まれていく…。

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ホテルローヤル
  • ホテルローヤル
  • 『ホテルローヤル』
  • ■発売日:発売中
  • ■発売元:ハピネットファントム・スタジオ
  • ■販売元:ハピネット・メディアマーケティング
  • ■価格:DVD ¥4,800+税 Blu-ray ¥5,800+税
  • 監督:武 正晴
  • 出演:波瑠
    松山 ケンイチ
    余 貴美子 原 扶貴子 伊藤沙莉
    岡山 天音 友近 夏川 結衣 安田 顕 他
 

(C)桜木紫乃/集英社 (C)2020映画「ホテルローヤル」製作委員会

体も心も裸になる瞬間

直木賞を受賞した桜木紫乃の自伝的小説を、『嘘八百』やドラマ「全裸監督」の武正晴監督が映画化。北海道・釧路湿原に建つラブホテル「ホテルローヤル」を舞台に、訪れる人々や従業員と経営者家族、それぞれの人間模様が経営者の娘である雅代(波留)を主軸にして描かれます。

ラブホテル―。そこは非日常のひとときを楽しむための場所としてさまざまな工夫が施されており、中世の古城や豪華客船、アジアンテイストなど、遊び心に満ちた外観もさることながら、鏡張りの壁や回転ベッド、部屋の中に設置されたプールやウォータースライダーなど内装も実に個性的。もはやホテルというよりアミューズメントパークのようです。著者の桜木氏の家業だったホテルを緻密に再現した「ホテルローヤル」も赤い壁紙、ロココ調の家具、ベッドの向かいに置かれたスケルトンのお風呂など、日常にはないヴィヴィッドな色使いの空間が、訪れる人々を非日常の世界へといざないます。

子供や親の世話に追われる中年の夫婦、訳ありの女子高生と教師、ヌード写真の撮影をするカップル…。2時間、3800円のなかで紡がれる人間模様を、従業員と共に換気ダクトを通じ無表情で聞いている雅代。しかし、「私はいつも見ているだけ」という日常が、ある事件から一変。傍観者ではなく当事者として自分の人生と向き合うことになります。美大受験に失敗し、仕方なく家業を手伝う毎日にどこか居心地の悪さを感じていた彼女が、ある男性に抱いている淡い恋心や、両親が建てたホテルへの思いなど、胸の中にくすぶり続けていた感情を爆発させる切ない姿を、カメラは静かにとらえます。体の解放だけでなく、心も裸にしてしまう、秘密のベールに包まれた「ホテルローヤル」のひとときをご堪能ください。

孤独を抱える人々は「非日常」を求め、扉を開く― ■Introduction

原作は桜木紫乃の直木賞受賞作。『百円の恋』や『嘘八百』の武正晴が監督を務め、7編の連作の、現代と過去を交錯させ一つの物語として映像化。誰にも言えない秘密や孤独を抱えた人々が訪れる場所、ホテルローヤルを舞台に、切ない人間模様と人生の哀歓を描く。主人公であるホテル経営者の一人娘・雅代役を演じるのは、波瑠。共演には松山ケンイチ、安田顕、余貴美子、原扶貴子、夏川結衣、伊藤沙莉、岡山天音ら、実力派俳優陣が名を連ねる。

■Story

北海道、釧路湿原を望む高台のラブホテル。雅代(波瑠)は美大受験に失敗し、居心地の悪さを感じながら、家業であるこのホテルを手伝うことに。アダルトグッズ会社の営業・宮川(松山ケンイチ)への恋心を秘めつつ黙々と仕事をこなす日々。かい性のない父・大吉(安田顕)に代わり、半ば諦めるように継いだホテルには、「非日常」を求めてさまざまな人が訪れる。そんななか、一室で心中事件が起こり、ホテルはマスコミの標的に。さらに大吉が病に倒れ、雅代はホテルと、そして「自分の人生」に初めて向き合っていく。

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