どんなことがあっても、新しいお菓子を探すことはやめられない

誰もが好きな食べ物といえば「お菓子」ですが、国や地域によってまったく違う味わいに出会えるのも楽しみの一つ。そんな世界の郷土菓子のとりことなっているのが、郷土菓子職人の林周作さんです。その土地のお菓子を調査するために訪れた国は50カ国以上、食したお菓子は500種類以上にも及ぶほど。今回は、郷土菓子の魅力や今後の夢について語っていただきました。
「小学生の頃から、将来は料理関係の仕事に就きたいと思っていました。人との集まりに作ったお菓子を持っていっては喜ばれた記憶も、後押ししてくれたのかもしれません。レシピ本を見ては、一人で作っていました」
その後、専門学校でフランス料理とイタリア料理を学び始めた林さん。そんななか、お菓子への思いはますます強くなっていったと言います。
「学校を卒業して半年後には郷土菓子研究社を立ち上げ、世界のお菓子を作り始めました。郷土菓子に注目するようになったきっかけは、イタリア料理を勉強していたときに、イタリアの地方には珍しいお菓子がたくさんあるのに、日本ではほとんど売っていないことに気が付いたから。おいしいものが食べられないのはもったいないですし、僕自身ももっと知りたいと思ったので、自分で調べて作り始めました」
ワーキングホリデーでフランスに渡った林さんは、ある日、驚きの挑戦を思いつきます。それは、自転車でユーラシア大陸を横断しながら、世界のお菓子を調べるというもの。思い立ったらすぐに行動する林さんは、ビザの期限を待たずして旅に出発します。

「お菓子だけではなく、子供の頃から自転車も大好きで、京都から東京に行ったり、九州まで行ったりと、日本国内でもよく長距離を走っていたんです。2012年当時は、フランスのアルザス地方に住んでいたので、そこから1年半かけて日本まで自転車で帰国する計画を立てることに。ただ、実際はいろいろと寄り道したので、2年半かかってしまいました(笑)」
旅の大きな目的は、各地のお菓子をリサーチすること。所持金のほとんどはお菓子に使っていたため、行く先々で民家を訪ねては、泊まらせてくれる場所を自分で探していたそうです。
「泊めてくださった方から地元のお菓子を教えてもらったり、お礼に和菓子を振る舞ったりしながら過ごしていました。ただ、ボスニア・ヘルツェゴビナで泊めてくれた人から盗難に遭いまして…。そこからは安宿や民泊のサービスを使ったり、日本で個人スポンサーを集めたりしてなんとか旅を続けていきました」
どんなに大変な出来事があったとしても、決してぶれることのない林さんのお菓子への熱い思い。忘れられない味は、数え切れないほどあるのだとか。

「思い出のお菓子はたくさんありすぎて選べませんが、印象的だったのはトルコとインドで食べたお菓子。それぞれの国で60種類以上は食べたと思います。興味深かったのは、イスラム教やヒンドゥー教といった宗教にまつわるお菓子があったこと。ヨーロッパや日本では出会えないようなお菓子ばかりで、強烈な甘さも衝撃でした。時にはお腹を壊してしまうこともありましたが、『いまを逃したら二度と食べられない』と思ったので、旅行中はどんなことがあってもお菓子を食べることはやめませんでした」
そして、現地の人たちからさまざまな情報を得るために、ある努力も欠かさずに行っていたという林さん。
「できるだけ、その国の言葉を勉強して相手とコミュニケーションを取るようにしていました。まずは自分がよく使うフレーズを英語にし、現地の方に翻訳してもらったら発音を教えてもらってメモするという流れ。そうすると、その国で使える“辞書”が完成するんです。それを使って、現地のお菓子屋さんからいろんなことを教えてもらいました」
ちゅうちょすることなく、ただ興味のままに進んできた
そうやって地道に集めたレシピを携えて、2016年には東京・渋谷にBinowa Cafeをオープン。とはいえ、当初は苦しい時期もあったと振り返ります。

「オープンして最初の1、2年はお客さんの数も少なかったので、つらいときもありました。でも、徐々にリピーターのお客さんが増えていき、気が付いたら多くの方に認知していただけるようになっていたんです。メディアに取り上げられたからとか、大きなきっかけがあったわけではなく、ただコツコツとお菓子を作っていただけ。それを認めてもらえたのはうれしかったです」
では、真正面からお菓子と向き合ってきた林さんを支えている原動力とは?

「それは、『興味』です。僕はちゅうちょせず、恐れることなく、ただ興味のままに進んできました。本当に、それだけですね(笑)。次は、世界一周をしようと考えていますが、海外にあるいろんな新しいお菓子をもっと知りたいです」
そんな林さんの興味は、これからもさまざまな夢へとつながっていきます。お菓子と共に描く未来予想図についても、教えてくれました。
「まず今年の目標は、1年間で合計100種類のお菓子を作ること。その次の目標は、子供向けのお店を作ることです。味やサイズ、お店の雰囲気なども含めて子供が喜ぶお店にできたらいいなと。それをきっかけに、大人になって海外へ興味を持ってもらえたらうれしいですね。あと、これはもっと先の目標になるかもしれませんが、常に100種類のお菓子が並ぶお店も作りたいと考えています。その上で、お客さんの要望にもきちんと応えられるようにがんばりたいです」
