ジャンルをまたぎながらも、常に「光」を軸に置いた仕事をしている

東京とパリを拠点に数多くの国際的なプロジェクトを手掛け、高く評価されている照明デザイナーの石井リーサ明理さん。一口に「照明デザイナー」と言っても、種類や規模は幅広く、ときにはジャンルを超えた仕事をすることもあるそうです。
「私が代表を務めるI.C.O.N.では、日本や欧州をはじめ世界各地のデザイン・プロジェクトに参加しています。私共の特徴は、バラエティーに富んださまざまな種類のプロジェクトに取り組んでいる点です。規模は小さなオブジェから都市全体まで、期間は3カ月から10年計画のものまであります。照明デザイナーの中には、細分化した専門性を持った方も多くいますが、私が主に手掛けているのは、都市照明計画、建築ライトアップ、インテリア照明、美術館照明、イベント照明、舞台照明、光のアート作品制作、光のオブジェやプロダクトデザインなど。ジャンルをまたぎつつも、常に『光』を軸に置いた仕事をしています」

“日本の照明デザインのパイオニア”と呼ばれる石井幹子氏を母に持つ石井さんですが、もともとは照明デザイナーになるつもりはまったくなかったと明かします。
「中学生の頃は『イベント・プロデューサー』という肩書きに憧れていましたし、高校でも興味があったのは美術。その後、大学院に進学した際には、クリエイションの実技を磨くために、アメリカのカリフォルニアとフランスのパリでデザイン学校に留学しました」
そんな中、転機が訪れたのは「光の都市」の異名を持つパリでのこと。
「パリで活躍する照明デザイナーの下でインターン研修をさせていただいたとき、その方の光に対する熱意や当時の日本にはなかった先端的な論理、アーティスティックなアプローチなどに触れ、光の素晴らしさに魅せられることに。そして、私が興味を持っていた絵画、建築、舞台、映画、写真などの分野が『光』というキーワードを中心に集約しているように思えたのです。そのときに、『光を使ったクリエイションをする人』である照明デザイナーになりたいと考えるようになりました」
日本とニューヨークで修行した後、フランスの照明デザイン事務所からチーフ・デザイナーに抜てきされ、パリへと渡ることになった石井さん。その際、母であり先輩でもある幹子氏からの教えが、常に頭の中にあったのだとか。
「デザイン力の前に、職業人として一人前になるための礼儀作法や商習慣、事務処理能力などを叩き込まれましたが、海外でもそれはとても役に立ちました。あと、母から言い渡されたのは、週1日休むことと毎日3食きちんと食べること。それは照明デザイナーとして成功する秘訣(ひけつ)とかではなく、その基礎になる体をまずは管理できなければいけないという教訓でした。照明デザインやライトアップという言葉すら知られていなかった時代に新たな道を切り開いた母の苦労は大変なものだったと思いますが、いつでも自分を律し、前向きに進み続ける気力とエネルギーはいつも参考になっています」
専門外のことも学び、常に教養を高めるようにしている
どんなプロジェクトでも1度は大変な局面に遭遇するそうですが、その中でも大事にしているのは、できると信じて諦めないこと。石井さんの飽くなき探求心と強い意志が、大きなチャンスを引き寄せることとなります。

「独立してすぐの頃、パリでは仕事がなく、コンペや入札に出しても落ちてばかりで心が折れそうになっていました。そんな中、足を運んだのは、フランスで開催された美術館の建築コンペで優勝された日本人建築家・坂茂氏の展覧会。そこで、『夜ライトアップしたらさぞ美しいだろう』と瞬間的に思い、ネットで坂氏の事務所を調べて、無謀にも電話してみることにしました。すると、なんと世界中を飛び回っているご本人と電話でお話しでき、すぐにお目にかかれたんです。私の案も気に入っていただけたので、晴れてフランスの国家的プロジェクト『ポンピドー・センター・メス』のライトアップを担当させていただくことになりました。紆余(うよ)曲折ありましたが、夜景写真が開館広告ポスターに採用されるなど、私の照明デザインは高く評価され、アメリカで賞も頂きました」
海外で活躍し続ける石井さんですが、その陰には惜しみない努力と心掛けていることがあるといいます。
「日本では控えめにしていることがよいとされることもありますが、海外では『意見のない人=つまらない人』と見なされてしまうため、私は自分の専門外のことでも、常に気を配って学び、教養を高め、いつでも意見が言えるように日頃から鍛錬しています」

どのような作品で私たちを楽しませてくれるのか、今後の石井さんの活動に期待が高まるところ。最後に挑戦したいことを伺いました。
「村おこしのような形で、社会に貢献できるライトアップをしたいと思っています。観光客の訪問で潤うだけではなく、その実現のために地域の産業や雇用なども向上する仕組みを作ることができれば素晴らしいなと。砂漠の中にある廃虚になった遺跡や山奥の朽ちかけた寺院に、ライトアップで2度目の“生”をもたらすようなロマンチックなプロジェクトもしてみたいですね。その上で、ライトアップによる恩恵を地域全体に浴せられるような光のエコシステムを作れたら本望です」
