自然や動物に触れていた幼少期が、今でも役に立っている
映画『シン・ゴジラ』のキャラクターデザインをはじめ、映画『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』のデザインワークスや「ジブリの大博覧会・王蟲の世界」の雛形制作・造形監修などを手掛けたことでも知られる造形家の竹谷隆之さん。その原点は、生まれ故郷である北海道の積丹(しゃこたん)半島にある小さな漁村にいた頃にまでさかのぼります。
「僕が子どもの時に、ちょうど「ウルトラマン」や「仮面ライダー」といった作品が出始めたので、それに影響を受けて粘土細工やプラモデルを作り始めました。そのまま楽しい方を選んで進んで来たら今に至るという感じなので、当時の延長線上に今があると言えるかもしれないですね」

創作活動を続ける中では、幼少期に豊かな自然に囲まれて育った経験が生かされていることが多いと話す竹谷さん。
「自分にとって、一番のベースとなっているのは田舎での体験。父は漁師でしたが、魚を獲るだけではなく、山で狩猟もしていたので、小さい頃から手伝いをする過程でいろんな生き物を観察してきました。時には目を覆いたくなるようなこともありましたが、美術というのはこの世にあるものは何でも平等に見なければいけない世界ですから。それは『将来、美術の道に進もう』と考えてしていたことではありませんが、自然や動物に触れていた経験が今でも頭に残り、役に立っていると感じています」
高校生になり、親元を離れて札幌の学校に通い始めた竹谷さんは、美術部に入ったことで大きなターニングポイントを迎えることとなります。
「卒業後の進路として、東京にある美術の専門学校を顧問の先生から勧められ、半ば流されるような形で入学しました。漠然と絵を描いたりできたらいいなと思ってはいましたが、当時の僕は社会にどんな仕事があるのかもまったく知らないような状態だったので。専門学校でも何をしようかなと考えていた時、同級生だったイラストレーターの寺田克也が『立体を作った方がいいよ』といつも言ってくれました。そこで、自分が好きなことをしてもいいんだと。それからは、色んな本を買ったり、友達に教えてもらったりしながら、ほとんど独学で立体物を作るようになりました。本当に、人との出会いは貴重だなと感じています」
自分の作品から「好きなことをしてもいいんだ」と感じて欲しい
専門学校に通い始めて2年がたった頃、まだ在学中だったにもかかわらず、模型屋に飾ってあった竹谷さんの作品を見た人から仕事の依頼が舞い込むことに。仕事を始めると、必要なのは技術だけではないことに気付かされたといいます。

「それまでは、人とコミュニケーションを取るのが苦手な方でしたが、仕事で関わる人たちときちんとコミュニケーションを取れなければ成立しないということを知りました。自然と変わっていくことができましたが、そこは仕事で鍛えられたのかなと。コミュニケーションの中でも、『相手が何を求めているのか』という部分に重きを置くように意識しています」
そして、依頼された仕事を遂行する上で、もうひとつ大事にしていることがあると付け加えます。
「それは、僕がやりたいことをするのではなく、物事を客観的に見ることです。たとえば、映画であれば、完成という到達点にたどり着くために、『もし自分が監督やプロデューサーだったら……』という俯瞰した視点で考えることも。そのときに、自分よりも他のチームの方が適任だと思えば、素直な意見もきちんと伝えるようにしています。あとは、これくらいはできるだろうという相手の予測を良い意味で裏切って期待に応えられたらいいなと。そういったことは、これからも心掛けていきたいです」
体力的なきつさを感じたことはあっても、辞めたいと思ったことは今まで一度もないという竹谷さん。最近、仕事に対するやりがいを改めて感じる出来事があったと笑みを浮かべます。

「昨年末に、妖怪をテーマにした展示会を開いたんですが、そこに近所の子どもたちが遊びに来てくれました。僕のファンだと言ってくれる子がいたり、自分で作ったゴジラの背びれを見せてくれる子がいたり。子どもたちが喜んでくれたのは、本当にうれしかったです。たとえ彼らが美術の道に進まなくても、僕の作品を見たことがきっかけとなって『自分の好きなことをしてもいいんだ』と感じてもらえたら、僕もやってよかったなと思えるので」
独自の世界観で人々を魅了する竹谷さん。最後に、これからの世代に向けて伝えたいことを教えてくれました。
「こういう時代なので、僕は好きな方にどんどん行くべきだと思っています。自分が好きな方向に進んでいくことに、間違いはないはずなので。とはいえ、やりたいことがまだないという人もいるかもしれません。その場合は、『こっちのほうが面白そう』というのを繰り返していけば、きっとその先に好きなものが見つかるんじゃないかなと。それから、これはどんな仕事にも通じることですが、大事なのはまず観察すること。例えば、どんな工程かなとか、何の素材かなとか、この生き物の関節はどうしてこうなっているのかなとか、何でも観察して分析すると、その先に理解があり、そして表現することができます。それはとても面白いことなので、みなさんにもぜひ知って欲しいです」
