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Monthly FACE 〜極める人々〜

佐々木勝之 佐々木活字店

Profile

1975年生まれ、東京都出身。創業1917年「佐々木活字店」の4代目として、活字の鋳造から組版・活版、印刷まで手掛ける。建築系の専門学校を卒業後、建設業勤務を経た2011年、実家の後を継ぐ。同年、新宿区の地域文化財登録を受けている。2017年、同社創業100周年イベントとして「佐々木活字展」開催。

合目的な進化を遂げてきた活字と活版

イメージ「活版印刷の特長は、文字の輪郭がシャープで読みやすいことです。小さな文字でも案外、読み取れます。ですから、電話帳や辞書などが得意分野でしたよね。加えるとしたら、全体のミリ単位のデザインを、人間の手で行っていることでしょうか。文字の隙間や空白にも、専用の金属片を用います。ですから、文字列のように見えても、全体としては絵画のようなイメージです。隙間をもデザインしています」

活版の印刷物に独特の風合いを感じる人は少なくないでしょう。しかし、佐々木さんの考え方は異なります。活字が風合いを出すのではなく、活字の集まった絵画的な作品から風合いを感じるのではないか。いわく、「風合いは感じるものであって、出すものじゃない」。活字単体は、あくまで文字にすぎないということですね。

イメージ 「ですから、活字の商業的なメリットを押し出すとしたら、輪郭のシャープさになります。パソコンにはない特長で、字が目にポーンと飛び込んできますよね。印刷面にデコボコができるのはあくまで副産物、むしろデコボコによってシャープさを失わせてしまうでしょう。それに、書籍のような両面印刷では、デコボコがつかないようにしています。ただ、ニーズとしてデコボコがあるのだとしたら、注文には応じますよ。本心からすると、シャープさが描く1枚の絵画を手に入れていただきたいですけどね」

佐々木さんによると、活字はパソコンのフォントのように「統一書体」でそろえられていないのだとか。活字のメーカーが営業に来て部分的に入れ替えたり、職人の好みで文字を変えてみたり、そうした積み重ねが多少なりとも繰り返されてきたそうです。もちろん、「良かれ」と考えた末の工夫でしょう。どこまでも読みやすさを追求したグラフィック、それが活版印刷です。

「活字の中で文字を動かすことはできません。はんこの中の文字が動かせないのと一緒です。本来、こうした文字列の微妙な揺れも活字表現の持ち味なのですが、デザイン重視で厳密にそろえるとしたら、活字を文字単位で調節しながら組む必要があります。パソコンによるデザインと比較されるようになると、『そろえられない』とは言っていられませんよね。現代に合わせた活版の姿があるのだと思います」

製図と建築物、活版と印刷物

「ちょうど高校を卒業する頃、活版印刷の需要が“途絶えた”と言っていいほど激減しました」。佐々木さんは、バブル崩壊の前後を振り返って、そう話します。父親から「後を継がなくていい」とも言われたそうです。そこで、興味のあった建築系の専門学校へ進学しました。子どものときから、折り込み広告に入ってくる見取り図を眺めるのが大好きだったのです。そして、就職氷河期の中、ゼネコンに就職しました。

イメージ「その後、祖父の危篤を機に、あらためて家業について考えさせられましたよね。周囲から『このまま活字の文化が消えてしまうのはもったいない』という声も寄せられていました。そして、偶然かもしれませんが、製図と建築物の関係は、活版と印刷物の関係に良く似ていたのです。単に活字を並べるのではなく、全体の枠組みの中、どうミリ単位で配置していくのか。つまり“設計”です」

なんとか、消えかかっている文化を自分なりに残せないか。佐々木さんは、家業への思いを次第に強くしていきます。とはいえ、何一つ学んだことのない世界です。同店では活字の鋳造もしているため、金属の扱い方から習得していく必要があります。鋳造機の調整を誤ると、文字が上下左右にズレかねません。その先にまだ、活版や印刷技術の習得が待っています。

「現在、活字の在庫は約700万字あります。在庫の本数は活版のバリエーションに直結します。加えて、当社の強みは、活字を鋳造できることです。とはいえ、鋳造機の熱によって機械が消耗してくるんですよ。ですから、問題なく稼働している鋳造機は半分強の7台で、修理したくても、メーカーの担当部署自体がなくなっているような状況です。活版印刷は9割9分機械頼み、残していくのは大変、難しいです」

なお、活字には「家内制手工業」のような側面があり、その意味でも規格統一されていないのだとか。同じ字の母型でも、製造元によって深さがマチマチだったりします。しかし、そうした職人の軌跡を顕彰したいと考えた佐々木さんは、創業100周年記念に「佐々木活字展」を開催しました。オープンイベントながらも、社史のような位置づけで、文化を保存することができたと自負しているそうです。

時代の分断を越えたリモデルへ向けて

イメージ「今後も活版印刷にはこだわっていこうと思っています。そのために必要なことは、間口を広げていくことでしょう。一般の方からすると、活版印刷は知っていても、なかなか入ってこられない世界なので、とにかく“わかりやすく”したいです。例えばパソコンの画面上でデザインしたものを、当社の活版で仕上げるような取り組みですよね。システム的には可能なのですが、デザインされたフォントの活字を、当社が有していないということも起こりえます」

昔の活版職人は「いかに効率良く組み上げていくか」が信条だったようです。一方、現代のデザイナーは、どちらかというと「時間をかけてでも美しいものを」なのかもしれません。この両者はときに相反しますが、うまく融合できれば、それもまた「現代に合わせた活版の姿」なのでしょう。効率ではパソコンにかないませんから、活版の信条は変わりつつあります。

イメージ「過去の印刷物と比較して、『こんなものを活版とはいえない』という方はいらっしゃるでしょうね。とくに活版は1度、途絶えてしまった文化ですから、その時点でイメージが固着されています。もし、シームレスで変化し続けていたら、もっとやれることは多かったのかなと。ですから、あらためて仕切り直しですよね。『これが活版印刷なのだ』という情報発信に努めているところです」

最後に、資格についても尋ねてみましょう。活版に資格があったとしたら、業界内における活字の差は生じなかったし、いまより規格統一されていたかもしれない。それが、佐々木さんの資格に対する考え方です。その一方、「無理なものは無理」が通りやすく、新しいものを生まれにくくしているのも規格です。そう考えると、厳しい環境ながらも、活版ならではの未来があるのではないか。活版の持ち味は、さまざまな要素を1つに組み上げられること。そう信じて、いろいろな意見とぶつかりながら日々、鍛錬しているとのことでした。

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