『ドライブ・マイ・カー』
広島市環境局中工場
空間デザインが導く環境問題への意識改革

(C)PIXTA
第74回カンヌ国際映画祭で日本映画史上初となる脚本賞受賞をはじめ、世界的に高い評価を得た『ドライブ・マイ・カー』。『寝ても覚めても』の濱口竜介監督は、原作である村上春樹の短編小説に演劇要素も加えて大胆にアレンジ。妻を失った男の喪失と希望を重層的に描き出しました。ロケの多くが広島市内で行われ、その中のひとつ、「広島市環境局中工場」は、家福(西島秀俊)の専属ドライバーとなったみさき(三浦透子)が、「どこでもいいから車を走らせてくれないか」と乞われて案内した場所です。
2004年に広島市の新たなごみ焼却工場として竣工した「広島市環境局中工場」は、「ニューヨーク近代美術館(MOMA)」や「東京国立博物館 法隆寺宝物館」などで知られる世界的建築家・谷口吉生が手掛けた建物です。平和記念公園のある吉島通りの南端にあり、谷口氏が師事した丹下健三が提唱した平和の軸線(原爆ドーム、原爆慰霊碑、平和記念資料館を同一線上に並べた都市軸)の延長線上に建てられています。
東西に分かれた工場の中央には「エコリウム」と呼ばれるガラス張りの中央通路があり、実際に稼働中の工場内部を見ることができます。特にエコリウムから見える排ガスから有毒ガスを取り除く、3つのガス吸収塔は独特の機能美を放ち、まるで現代アートのようです。一般的にごみ処理施設は、市民生活に不可欠な建物でありながらも敬遠されがちですが、これまで数々の美術館を手がけた“美術館設計の名手”谷口氏が提案したのは、ごみ処理施設をオープンにし美しく演出すること。心地よい海風が通り抜けるエコリウムや、真っ白なごみ収集車の展示など現代美術館のようなスタイリッシュな空間構成で、ごみへの取り組み方も考えさせてくれます。建物の見学は自由なので(ごみ処理に関する見学は事前予約制)、一流建築家が手掛けた工場見学をお楽しみください。