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アーキテクト・イン・シネマ 〜映画に観る建築・住まい・家族〜

『ザ・ミスフィッツ』
  • 『ドライブ・マイ・カー インターナショナル版』
  • 『ドライブ・マイ・カー インターナショナル版』
  • ■発売日:DVD&Blu-ray 発売中
  • ■発売元:カルチュア・パブリッシャーズ
  • ■販売元:TCエンタテインメント
  • ■価格:Blu-ray ¥5,170(税込) DVD ¥4,180(税込)
  • 監督:濱口竜介
  • 出演:西島秀俊
    三浦透子 霧島れいか
    パク・ユリム ジン・デヨン ソニア・ユアン
    アン・フィテ ペリー・ディゾン 安部聡子
    岡田将生 ほか
 

(C)2021『ドライブ・マイ・カー』製作委員会

この運命から、目を逸らさない―。

■Introduction

第94回アカデミー賞 国際長編映画賞受賞、第74回カンヌ国際映画祭 脚本賞ほか4冠獲得の本作。原作は、村上春樹による同名短編小説。監督は、『寝ても覚めても』、『偶然と想像』の濱口竜介。妻を亡くした主人公の家福を演じるのは『劇場版 きのう何食べた?』『シン・ウルトラマン』の西島秀俊。家福の専属ドライバーのみさきを『天気の子』の主題歌に抜てきされ、演技だけではなく歌唱力にも定評のある三浦透子が演じる。そのほか、物語の鍵を握る俳優・高槻役に岡田将生、家福の亡き妻役に霧島れいかが顔をそろえる。撮影は、広島・東京・千葉・北海道・韓国などのスケール感のあるロケーションで実施された。

■Story

舞台俳優であり演出家の家福悠介(西島秀俊)は、脚本家として多くのドラマを手掛けている妻の音(霧島れいか)と穏やかで満ち足りた日々を送っていた。しかし、音は秘密を残してある日突然この世から居なくなってしまう。それから、2年後、広島での演劇祭に愛車で向かった家福は、ある過去を抱える寡黙な専属ドライバーのみさき(三浦透子)と出会う。さらに、音から以前紹介されたことのある俳優、高槻(岡田将生)の姿をオーディションで見つける…。悲しみと“打ち明けられることのなかった秘密”に苛まれてきた家福は、みさきと過ごしお互いの過去を明かす中であることに気付かされていく。

『ドライブ・マイ・カー』
広島市環境局中工場

空間デザインが導く環境問題への意識改革


                    広島市環境局中工場

(C)PIXTA

第74回カンヌ国際映画祭で日本映画史上初となる脚本賞受賞をはじめ、世界的に高い評価を得た『ドライブ・マイ・カー』。『寝ても覚めても』の濱口竜介監督は、原作である村上春樹の短編小説に演劇要素も加えて大胆にアレンジ。妻を失った男の喪失と希望を重層的に描き出しました。ロケの多くが広島市内で行われ、その中のひとつ、「広島市環境局中工場」は、家福(西島秀俊)の専属ドライバーとなったみさき(三浦透子)が、「どこでもいいから車を走らせてくれないか」と乞われて案内した場所です。

2004年に広島市の新たなごみ焼却工場として竣工した「広島市環境局中工場」は、「ニューヨーク近代美術館(MOMA)」や「東京国立博物館 法隆寺宝物館」などで知られる世界的建築家・谷口吉生が手掛けた建物です。平和記念公園のある吉島通りの南端にあり、谷口氏が師事した丹下健三が提唱した平和の軸線(原爆ドーム、原爆慰霊碑、平和記念資料館を同一線上に並べた都市軸)の延長線上に建てられています。

東西に分かれた工場の中央には「エコリウム」と呼ばれるガラス張りの中央通路があり、実際に稼働中の工場内部を見ることができます。特にエコリウムから見える排ガスから有毒ガスを取り除く、3つのガス吸収塔は独特の機能美を放ち、まるで現代アートのようです。一般的にごみ処理施設は、市民生活に不可欠な建物でありながらも敬遠されがちですが、これまで数々の美術館を手がけた“美術館設計の名手”谷口氏が提案したのは、ごみ処理施設をオープンにし美しく演出すること。心地よい海風が通り抜けるエコリウムや、真っ白なごみ収集車の展示など現代美術館のようなスタイリッシュな空間構成で、ごみへの取り組み方も考えさせてくれます。建物の見学は自由なので(ごみ処理に関する見学は事前予約制)、一流建築家が手掛けた工場見学をお楽しみください。

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『おらおらでひとりいぐも 特装限定版』
  • 『おらおらでひとりいぐも 特装限定版』
  • ■発売日:Blu-ray発売中
  • ■発売・販売元:バンダイナムコフィルムワークス
  • ■価格:Blu-ray ¥6,380(税込)
  • 監督:沖田修一
  • 出演: 田中裕子
    蒼井 優 東出昌大/濱田 岳 青木崇高 宮藤官九郎
    田畑智子 黒田大輔 山中 崇 岡山天音 三浦透子
    /六角精児 大方斐紗子 鷲尾真知子

 

(c)2020 「おらおらでひとりいぐも」製作委員会

ひとり暮らしの桃子さん。おらの今は、こわいものなし。

■Introduction

63歳の新人作家・若竹千佐子によるデビュー作「おらおらでひとりいぐも」の映画化。「おらおらでひとりいぐも」とは“わたしはわたしでひとりでいく”という意味。『子供はわかってあげない』『さかなのこ』の沖田修一監督が、田中裕子を15年ぶりの主演に迎え、“女性の新しい生き方”を描く。田中裕子が75歳現在の桃子さんを演じ、そのほか若き日の桃子さんを蒼井優、桃子さんの夫を東出昌大、さらに濱田岳、青木崇高、宮藤官九郎など豪華キャストが集結した。原作は、最年長で第54回文藝賞&第158回芥川賞をW受賞、2018年 年間ベストセラー単行本文芸書部門第1位、2022年 ドイツの文学賞 リベラトゥール賞を日本人として初受賞。

■Story

75歳、ひとり暮らしの桃子さん(田中裕子)。1964年、日本中に響き渡る東京オリンピックのファンファーレに押し出されるように故郷を飛び出し上京した時から55年。結婚し2人の子供を育て、これから夫と2人の平穏な日々になると思っていた矢先…突然夫に先立たれてしまう。75歳にしてひとり孤独な生活を送ることに。桃子さんの毎日は、家でお茶をすすり、図書館で本を借り、病院へ行き、46億年の歴史ノートを作る日々。そんな孤独で単調だと思っていたある日、桃子さんの“心の声=寂しさたち”が、ジャズセッションのように内から外へと沸き上がってきた!孤独の先で、桃子さんが見つけた世界とは?

『おらおらでひとりいぐも』

ひとり暮らしの老女の悲哀や喜びをユーモラスに綴る

当時63歳、作家デビュー作にして第158回芥川賞を受賞した若竹千佐子の『おらおらでひとりいぐも』を『横道世之介』『モリのいる場所』の沖田修一監督が映画化。若い頃に故郷を飛び出し上京してから55年─。夫・周造と結婚し、2人の子どもを育て、さぁこれから夫婦水入らずの暮らしを楽しもうという矢先に、夫は他界。「この先一人でどやって暮らす。こまったぁどうすんべぇ」と郊外の一軒家で途方に暮れる75歳の桃子さんの日常を見つめた作品です。

故郷の東北弁で桃子さんを茶化す3人の“寂しさ”をはじめ、若き日の自分、夫など頭の中に次々と登場する個性豊かなキャラクターたちは、活字から映像になると、さらに愉快さが増しています。襖(ふすま)が開くと突然始まる歌謡ショー、マンモスが歩く45億年前の世界、ばっちゃと遊ぶお手玉…。たとえ現実は静まり返った部屋で1人、テレビをおともにお茶をすすり、図書館と病院へ出かける代わり映えのしない毎日だとしても、桃子さんの頭の中はそれはそれはにぎやかで自由です。

桃子さんを演じる田中裕子が、老女の孤独や諦念、希望などさまざまな感情を愛嬌(あいきょう)たっぷりに演じ、寂しくも楽しい「老いの境地」を力強く表しています。「しゃべらないと黙っているのが癖になるから」「おっくうになんてなってねぇ、腰が痛いだけだ」と自分を奮い立たせて、「おらだばおめだ♪ おらだばおめだ♪」と茶の間で、楽しそうに踊る桃子さん。そんな彼女の姿に、きっと勇気づけられることでしょう。