
世界中の人々の心をとらえて離さないリゾート、「ハワイ」。楽園と呼ばれる場所には、日本、アメリカ本国、アジア、ヨーロッパから観光客が押し寄せます。今回インタビューに応じてくださったのは、全米屈指のリゾートとして愛され続けるハワイ・ワイキキに建つ大型高級リゾートホテルでF&B Sales Managerとして活躍されている広瀬さんです。
ホテルを支える仕事は、総支配人を筆頭に、客室部門、レストラン部門など、さらには、フロント、ベルなど多岐にわたります。その中で、少し耳慣れない“F&B Sales Manager”とは、どのような役割を担っているのでしょうか?
「日本およびアジア地区のお客様に対するレストランとバンケットの営業が主な仕事です。社員旅行、コンベンション等でのミーティング・宴会の企画からアテンドまでを行います。さらには、レストラン、バンケット等のセットメニューの監修を行っています。
お客様に直接営業をするのではなく、あいだに旅行会社をはさんでの営業となるため、レストランやバンケットで問題があった場合には、その場で私どもにご意見をいただくことは少なく、旅行会社さまにクレームが届くことがほとんど。その場合、レストランとお客様、旅行会社の間に入り、ご説明やお詫び、フォローアップに当たるのも仕事となります。」
ハワイといえども英語圏。ときにはお客様の“通訳”となることもあるといいます。1229の客室、2つの直営メインダイニングを持ち、独立した会議・宴会スペースを併設する巨大ホテルで、1人何役もこなすバイタリティには感嘆させられます。

奇しくも現在八面六臂の働きで飛び回る広瀬さんをさらに忙しくさせる、レストランの改装プロジェクトが進行中しているといいます。
「ホテルの3階にあたる部分を大規模にリノベーション。2つのレストランを完全リニューアルさせ、隣接した空間にクラブラウンジ、プールバーを新たにオープンさせる予定です。
改装が予定されている「チャオメン」は、イタリアンと中華を融合させた料理を提供するレストランで、全米自動車協会(AAA)のレストラン格付け4ダイヤモンドをはじめ、毎年多くの賞を受賞するなど、内外からの評価が高いレストランです。あえて、そのブランドを手放すのは、チャレンジだという意見もあります。しかし、近隣のホテルダイニングの改装ラッシュや、ワイキキのレストランの低迷という厳しい現状をみるにつけ、さらには新たな食体験を楽しみにしているお客様を飽きさせないために、あえてチャレンジを選ぶべきだということで改装に踏み切りました。」
まさに大きな“チャレンジ”となる今回の改装で、レストランはどのような空間に生まれ変わるのでしょうか?
「朝食・昼食を提供していた「テラスグリル」は、朝食・昼食に加えて、ディナータイムに最高級ステーキと新鮮なシーフードをお楽しみいただける「SHOR(ショア)」へ、「チャオメン」は、アジアン・フュージョン・キュイジーヌを堪能いただける「Japengo(ジャペンゴ)」へリニューアルいたします。改装にあたって考慮されたのが“お客様はハワイに何を求めて遊びにいらしているのか?”という点です。私どもが考えた末に至ったのは、リゾートらしい雰囲気、そして、他のホテルやリゾートでは“決して得られない体験”を求めているという結論です。
そういった考えから「SHOR」は、地元ならではの食材を使用することはもちろん、テラス席を用意して、ワイキキビーチを眺めながら食事をしていただける最高の空間を目指しています。「Japengo」は、お寿司といった和食、ベトナム料理、タイ料理、さらにはそれらを融合させた、他では味わえない新ジャンルの料理を提供できる場所となります。また、新婚旅行など記念日での利用が多いことから、開放感あふれる空間に加えて、プライベートルームやカップルブースなども準備しています。さらに、ハワイの空気を感じていただくためにビーチを見渡せるオープンエアのバーを隣接させます。
」

ホテルとしての営業を行いながら、大規模な改装工事を敢行するにはご苦労も多いはず。その点についてもお話をうかがってみました。
「せっかくハワイにいらしたのに、工事が邪魔をしてゲストがリラックスできないという事態が起きては、リゾートホテルとしては致命的。そこで、お客様には事前のアナウンスを徹底しています。全ての客室には客室総支配人からのレターを置き、旅行会社には状況のご説明を逐一行うことで、お客様にアナウンスが行き届くようにしています。また、工事は、お客様が外出される確率が最も高い時間帯(午前9時〜午後4時)に行い、騒音が激しい作業はゆっくり食事をしていただくために、ランチの時間帯を避けた午後2時過ぎに集中させています。
工事期間中に滞在のゲストに対して、カクテル&ププ、フリーハワイアンエンターテイメントを楽しめる無料イベントを不定期に開催するなど、ゲストへのケアは万全のよう。しかし、それだけでは不十分だと広瀬さん。
「当ホテルのレストランを、ウェディングや新婚旅行など記念日としての利用される方、さらには、旅行の想い出の地として愛着を感じられている方も少なくありません。“想い出の場所”が姿を変えてしまうのは、とても残念なことだと予想できます。WEBサイトでの情報発信や旅行会社を通じたアナウンスで、新たなレストランに生まれ変わること、それがどのような魅力に溢れているかを地道に浸透させていくことで、昔ながらのお客様に、新たな想い出を作りに新レストランへ足を運んでいただければと考えています。そのための営業は今後の課題でもありますね。」

レストランの改装と言う一大プロジェクトにおける広瀬さんの役割についてもお話をうかがってみました。
「新レストランがハイアットの看板を背負って立つような存在となるよう陰で支えることです。そのためには、レストランスタッフにお客様の声を伝えることが使命であると考えています。メールを通じたゲストのアンケート結果や旅行会社の行うお客様アンケート、さらには私どもに届くクレームなどを、レストラン側に率直に伝え、どうすべきか一緒に考えることで、よりよいレストランへと成長させていければ良いですね。」
あまりに率直なお客様の声を聞くことは、時にキツイ作業になることは想像に難くありません。さらに、それを従業員に徹底させることは、難しい行為だといえます。それをこなしていけるのは、広瀬さんの人柄があってのことなのかもしれません。
「人から頼まれることが余りにも多く、自分は甘く見られているのではないか?と悩んだ時に、ある人から言われた言葉が心に残っています。“頼られる人間であることは自信を持っていいことだ”“それがサービス業では一番大切なことでもある”と。以来、自分の仕事におけるコミュニケーション能力に自信が持てるようになりましたね。」
F&B Sales Managerという職種を専任で置いているホテルは、意外な事にハワイでも数少ないそうです。周囲にお手本となる存在が多くない状況で、広瀬さんが目指すF&B Sales Managerの在り方とは、どんなものなのでしょうか?
「自分らしい“TAI(広瀬さん)にしかできないスタイルがある“と周囲に認められるにはまだまだだと思っています。日本人であること、アジア人であることから生まれる気持ちや考え方は、ここハワイでは充分な武器になります。それを頼りに”らしさ“を追求しながら、今後も努力していきたいですね。」
最後に、広瀬さんが仕事において他の人よりも誇れると感じているところはと聞くと、「質問に対する解答の速さ、スピーディーな代替案のご提案など、求められるものへの迅速な対応でしょうか」との言葉。お客様との間に旅行会社が入る営業スタイルのため、何か質問や相談をされて普通のスピードで回答していては、結果的にお客様を待たせてしまうことになるというのです。「決断は早く、レスも素早く、お客様をお待たせしないよう意識しています」ただでさえ忙しい広瀬さん、彼のバイタリティこそが、お客様へのホスピタリティの源であり、巨大ホテルを支えるチカラであると確信できたインタビューでした。
(取材・文/小林未佳)