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Monthly FACE 〜極める人々〜

金子麻也さん(カメラマン)

Profile

1978年生まれ、埼玉県出身。『Begin』『Oggi』などのファッション誌を始め、雑誌・WEB・各種広告などで人物を中心としたスチール撮影を手掛ける。

自分だけに撮れる写真

俳優・ファッションモデルからスポーツ選手まで、幅広いジャンルの著名人を撮影している金子麻也さん。2010年9月にフリーランスのカメラマンとなってからも、多方面に及ぶスチール撮影を手掛けるなど活躍しています。

イメージ 「雑誌、広告、インターネット……、現在、写真は様々な用途に使われています。そこからさらに、ファッション・美容・グルメなどのジャンルに分かれていくのですが、写真を撮影する時に一貫して心がけているのは『自分にしか撮れない写真を撮ること』です。 仕事として写真を撮る場合、広告主や雑誌編集者などのクライアントから『こんな写真を撮って欲しい』という要望があります。相手が希望する写真を撮るのはもちろんですが、僕は必ず『こういう写真もどうですか?』と提案をします。クライアントには見えていない景色の存在を伝えてこそ、プロの仕事。ヘアメイクやスタイリストなど、その道のプロが最大限力を合わせることで良い写真が撮れるんです。」

写真撮影を生業とする人が大勢いる中で、「金子麻也」というプロカメラマンが存在する意義について、次のように話します。

「自分がいいと思える世界観を、周りの人に評価されることが重要だと考えています。クライアントに言われたものを撮るだけなら、僕じゃなくてもいいわけですから。だからこそ、撮影現場では“自分ならではの提案”をするんです。それがプロのクリエイションだと思っています。」

どんな経験も、未来の自分の“プラス”になる

イメージ 金子さんがカメラマンになろうと決意したのは、23歳の頃。それまで「写真にはまったく興味がなかった」という金子さんが「写真の道」を歩み始めた理由について話します。

「僕、プロ野球の選手になりたかったんです。幼稚園の頃から野球をしていて、高校3年間を終えても、まだ、やり足りなかった。その後は体育に特化した専門学校に進学しましたが、プロになれる人間は次元が違うと感じました。専門学校の先生には、『就職どうするんだ』なんて言われましたけど、それまでずっとプロ野球選手になれると思って生きてきたものですから、何にも浮かばなかったんですね。結局、3年ほどのフリーター期間を経て、カメラマンになろうと決めたんです。
カメラマンになりたかった理由は、女性にモテると思ったから(笑) というのは本音半分、ウソ半分なんですけど、野球ばかりしてきて、勉強なんて全然してこなかったので、とにかく手に職をつけたかったんです。写真を選んだ理由は、なかなか会えない人と出会う機会があるのが面白いと思ったからです。今思うと、父親がフィルムメーカーに勤めていたこともあり、写真が身近な存在だったというのも大きいかもしれません。 」

イメージ 「カメラマンとアシスタント」という、“師弟関係”を経て独立することが多い、カメラマン業界。約6年に及ぶアシスタント時代を振り返ります。

「建築業界にも“師弟関係”があると思いますが、カメラマン業界にもあるんです。僕の場合は、静物(商品など)撮影、人物撮影をそれぞれ別の会社で3年近く学んだこともあり、6年間のアシスタント時代を経験しました。
朝早い、重い機材を持ち運ばなければいけないなど、華やかなイメージとは異なる仕事内容にカメラマンへの道を諦めてしまう人も多いですが、中には2年ほどでアシスタントを卒業する人もいます。僕自身つらいこともありましたが、そんな世界で6年間もアシスタントを続けられたのは、根拠のない自信があったから。とにかく自分を信じていたんです。それに、アシスタント期間が短いことが必ずしもいいとは限りません。カメラマンになることが目標じゃなくて、カメラマンとして一生食べていくことが目標。あせらず学びながら、毎日1歩ずつでも成長していくことが重要だと考えて過ごしていました。無駄なことなんて、ありません。全ての経験が、未来の自分にとってはプラスになるんです。恥をかき、困難に立ち向かい、修羅場をくぐり抜けてこそ、人間としての深みを増していけるものだと思っています。 」

ファインダーから覗く未来

イメージ 現在は、カメラマンとして多数の著名人などを撮影している金子さん。感覚的な表現力が求められる仕事の中で、「センス」について独自の理論を展開します。

「センスというのは、空間づくり。カメラマンが中心となる撮影現場において、モデルなど被写体の表情を引き出すための雰囲気をつくりあげるということです。現場の雰囲気というのは、確実に写真に出ます。もっと極端に言えば、カメラマンの性格や生き方、パワーが映り込むんです。技術だけではなく、カメラマンの人柄を含む全てがセンスなのだと思います。
そういう意味では、経験が物を言わせる職業とも言えます。人と違った写真を撮るには、普通は右に行くようなところを左に行かないといけない。たとえそれが正解じゃないとわかっていても、行くことに意味があると思っています。人は経験なしには成長できないので、何事も経験が大事。失敗した分だけ、成長していけばいいんです。 」

イメージ 仕事の一番の魅力は、お客さまの反応。“最高の1枚”が、次の仕事の自信へとつながります。

写真の仕上がりを見て喜んでもらえることが、何よりのやりがい。仕事を通して多くの人と出会えるのも魅力の一つです。それらがあるからこそ、ずっと写真を撮って生きていこうと思えるんです。ただ、満足したらそこで止まってしまうので、何歳になっても常に向上心を持ってやっていきたいですね。極めるって、そういうことだと思うんです。将来的には、僕の写真を一目見て、『あ、金子麻也だ』と言われるくらいになれれば。自分には、それができると信じています。

ファインダーから覗いた世界に映るのは、未来の自分。青写真が現実となるよう、「日々」という名のシャッターを押し続けていきます。

(取材・文/石川裕二)


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