
12月21日から公開される映画『ワイルド7』のメガホンを取った羽住英一郎さん。アクション映画初主演となる瑛太さんを始め、椎名桔平さん、中井貴一さんなど、豪華キャストが集結した今冬の話題作です。「“迫力”と“感動”のスーパーアクション・エンターテイメント」と銘打たれた同作の制作裏話を始め、撮影現場の中心となる「監督」としての職業哲学を語ります。
望月三起也さん原作の同名コミックを映画化した『ワイルド7』。原作の連載開始から40年以上が経った今も、アクション漫画界の不朽の名作として支持されています。物語は、“超法規的存在”の警察官として任命された選りすぐりの元犯罪者7人(ワイルド7)が、日本の安全をおびやかすテロリストなどの凶悪犯を「退治」する――というもの。
見どころは、バイクや銃撃戦などのアクションシーン。5月に開かれた発表会見では、瑛太さんが羽住さんについて「深田恭子さんを後ろに乗せてのバイクシーンで、かなりスピードを出しているつもりでしたが、監督から『もっとスピードを出せ』と言われるなど、“ドS”っぷりを発揮していました」と話すなど、作品づくりへの妥協しない姿勢を感じられるエピソードが飛び出しました。
「俳優を始め、スタッフ全員の『汗』『気合い』『根性』を感じられる作品づくりを心がけています。アクションシーンなど、スタントよりも本人による演技のほうがお客さまに伝わりやすいと思うんです。同様の理由で、CGよりもアナログな表現にこだわってもいます。とは言っても、CGも人がつくるもの。CGスタッフが寝ないでつくりあげた努力の結晶になっています」
迫力のアクションシーンが満載の同作。中でも、特に注目してほしいシーンがあると話します。
「一押しは、バイクシーンのそう快感。きれいなオフィスビルの階段をバイクで駆け上がったり、たくさんの人であふれる駅の構内をバイクが全速力で走り抜けるなど、現実ではあり得ないシチュエーションによるバイクの魅せ方をすることができました。アクション映画としてはもちろんですが、人間ドラマとしての側面もあるので幅広い層に楽しんでもらえると思います。」

同作は、今年3月から5月にかけて北九州市を中心に撮影。東日本大震災によるメンタル面への影響もありました。
「九州でロケをしていたため、余震や計画停電など物理的な影響はありませんでしたが、家族や親戚が東京・東北に住んでいるスタッフが何人もいました。今なら『それでも映画をつくることが大事』というような発言をできるかもしれませんが、当時は精神的なダメージがとにかく大きかった。それぞれ、思う部分はあったと思います。でも、みんな表には出さずに内に秘めながらやっていました。プロですね。」
不安定な状況の中でも現場をまとめ、『ワイルド7』をスタッフと共につくりあげた羽住さん。「監督」として、“いい現場”をつくるポイントを次のように話します。
「やはり、みんなが力を出せるような空間をつくることが大切です。監督というのは、良くも悪くも中心人物。そんな人が権力に任せて怒ってばかりいたら、周りが萎縮(いしゅく)して、“監督を怒らせないための現場”が自然とつくられてしまうんです。
映画やドラマは、本当に多くの人によってつくられています。監督一人では、何もできません。先ほどお話しした、ビルや駅でのバイクシーンなども、それができるようにロケの交渉をした人のお陰で実現できたわけですし。全員で力を合わせて120%の力を出すことで、いい作品を生み出せるんです
。」

監督を務めた『THE LAST MESSAGE 海猿』が500万人以上の観客を動員、2010年公開の邦画実写映画において興行収入第1位を記録するなど、数々の映画やドラマを手掛けている羽住さん。作品を「人に伝える」という点において、一番大切にしていることがあります。
「それは、わかりやすくあることです。そうでないと、見る側が楽しめませんから。例えば、いかにも説明的な台詞やシーンがあることで、見ている人は『この内容、覚えておかないといけないんだな』と察してしまう。作品の世界にうまく入り込めていない、つまり楽しめていないんです。なので、説明くさくならないように話をつくり込むようにと、いつも格闘しています。最も大切で、最も難しいポイントです。
『ワイルド7』で言えば、主人公たちが“元犯罪者”という設定が難点でした。しかも、劇中では犯罪者が相手と言えども、銃でバンバン打つなどしているわけですから。『悪を倒すためなら人に銃弾を放っていい』という理屈は、今の世の中では通用しません。原作の魅力を保ちつつ、今の時代に映画化する難しさも感じましたが、いい作品になったと思います。」
制作の苦労の先には、作品を見た人の「笑顔」と「言葉」があります。
「作品を見て、『おもしろかった』『楽しかった』と言ってもらえるのが、何よりの励み。その言葉があるからこそ、作品をつくっています。みなさんが作品を楽しみにしてくれて、テレビやスクリーンの前にいる約2時間だけでも、一人ひとりの感情を動かせられれば。『あー、おもしろかった!』と、満足してもらえるものをつくり続けていきたいです。」
演出力もさることながら、「つくり手が力を発揮しやすい」「受け手が楽しみやすい」という2つの環境をつくり上げる監督としての力が、話題作・ヒット作を次々に生み出すポイント。人々を夢中にする“2時間”をつくるために、今日もメガホンを握ります。
(取材・文/石川裕二)