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Monthly FACE 〜極める人々〜

式田譲さん(ギャラリー館長)

Profile

1946年生まれ。東京都出身。アパレル会社勤務後、インテリアとしてのアートと額縁を販売する「アートショップ J-ONE」を立ち上げ、現在はアートの複合施設「The Artcomplex Center of Tokyo(ザ・アートコンプレックス・センター・オブ・トウキョウ)」の館長および同ギャラリーを運営する「Office J-ONE(オフィスジェイワン)」の取締役を務めている。

「The Artcomplex Center of Tokyo」ホームページ

アートの複合施設「The Artcomplex Center of Tokyo」

2007年、東京メトロ「四谷三丁目駅」にほど近い住宅街の中に誕生したギャラリー「The Artcomplex Center of Tokyo(ザ・アートコンプレックス・センター・オブ・トウキョウ)」。
地下1階には約100坪の広さを誇るホールギャラリーがあるほかに、地上階にも5つのギャラリースペース、アートショップ・カフェを兼ね備えた複合施設です。そんな同ギャラリーの館長を務めるのが式田譲さん。アートコンプレックス・センターのコンセプトについて、次のように話します。

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「『あそこに行けば、いろいろなジャンルのアートを一度に見られる』というのが、開館当初からのコンセプト。複数のギャラリースペースを設けているのも、それが目的です。アートコンプレックス・センターという名前は、米国発祥のシネマコンプレックス(複合映画館)が由来になっています。 アートコンプレックス・センターでは絵画などの平面アートの展示が多いのですが、日本画・洋画・版画・イラストレーションなど、同じ絵画でも複数のジャンルの作品を見られるように意識しています。一つの展示しか観られないギャラリーでは、物足りなさを感じる人もいると思いますが、うちはお目当ての展示のほかにも、隣の部屋で開かれている別の展示を観ることができる。せっかく電車賃と時間をかけて来てもらうなら、長い時間楽しめるほうがいいじゃないですか。それに、思いがけず素敵な作品とめぐり会えることもありますしね」

「Art in Life」――日常生活にアートを。

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元々はアパレル(衣料品)の仕事をしていた式田さんが、アートの世界に携わるようになったのは会社を辞めた30歳の頃。ファッションビルのはしりとされている、青山ベルコモンズを運営する企業から「アートショップを開きませんか」という話を受け、1976年、同所に版画作品や額縁を販売する「アートショップ J-ONE」を開いたのがきっかけでした。 当時の青山ベルコモンズにお店を構えていたのは、イッセイミヤケやコムデギャルソン、ヨウジヤマモトなど、日本を代表するアパレルブランド。当時はアパレルショップのほかにアートショップが入っているビルというのは「とても斬新だった」と式田さん。

「当時の日本は、住宅が欧米の文化を取り入れ始めていたにもかかわらず、壁に飾っているのは先祖の写真やカレンダー、サイン色紙ばかり。そこで、当時の住宅事情に合わせた『インテリアとしてのアート』の需要に注目したのです」

当時、式田さんが原画ではなく版画を中心に販売していたのは「アートが日常生活に取り入れられるようになってほしいから」。版画は、原画を複製しているので量産が可能で、比較的安価なのが特徴です。

「初めてアートショップを開いた当時から、『Art in Life(アート・イン・ライフ)』というテーマを持ち続けています。すばらしいアートが生活の中に存在すると、その空間がたちまち充実します。アートがもっと日常の中に入り込んでほしい――そう思いながら、ギャラリーを運営しています。 欧米はすごいですよ。デパートの中に100坪クラスの額縁・写真立て売り場がありますから。それだけ、絵や写真を飾るという行為が文化として根付いているんですね。日本もそのようになれば、と思います。うちで展示をする作家にも『部屋に飾ってもらうつもりの完成度で描いてください』と日頃から伝えています。そのほうが気が引き締まっていい展示になりますし、作家も購入してもらった作品を飾ってもらえれば、やっぱりうれしいですから」

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作家に展示の場を提供し続ける

式田さんの話す「完成度」とは、作品全体のクオリティのこと。絵と額縁との相性や絵の具の塗り方はもちろん、展示する場合はレイアウトや照明などによる総合的な空間演出が必要だといいます。

「電車賃と時間を使って見に来てくださるわけですから、ギャラリーとしては、そういう人たちに対して失礼のないレベルのものを提供してほしいわけです。カタログやパソコンのモニターで見る絵が『CD』なら、展示は『ライブ』。せっかく足を運んだのに『CD』と同じでは、つまらないじゃないですか。 絵というのは、現実では見ることのできない『非日常』の世界をつくることができるエンターテインメント。その作品の雰囲気を、最大限に引き出せるような空間演出をした展示が理想ですね」

アートの世界に携わって35年――式田さんは、これからの展望を次のように話します。

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「人に作品を見せることに尻込みしてしまうような人に、展覧会に参加する楽しさを経験してほしいですね。ギャラリーである以上、作家に対してそういう機会を提供し続けられる場所でありたいと思っています。アートコンプレックス・センターが作家と、その未来のファンをつなぐきっかけになれれば。何より、私自身が才能あふれる作家たちとの出会いを楽しみにしているんです」


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