頭がすっきりすれば、物も片付く
整理収納アドバイザー1級の資格を持つ杉之原さん。取締役社長を務める株式会社サマンサネットでは、整理収納サービスをはじめ、年間数百件に及ぶ引越の荷物の梱包や整理収納に関するセミナーを開くなど、お客さまが快適な空間で暮らすためのお手伝いをしています。
「近年、自分にとって“本当に必要なもの”が何なのかを見極められない人が増えているように感じます。たとえ自分の物だとしても『捨てるかどうか』を選べないんです。でも、その背景にあるのは“優しさ”だったりします。『これは、あの人にいただいたものだから捨てられない』というように。ただ、それでは物が増えていくばかり。本来は必要ない物の中に、必要な物が埋もれてしまって見えなくなってしまうんです。それこそ、健康保険証や年金手帳のような大事な物まで見つからなくなる人もいます」
そんな時、杉之原さんが整理や収納のアドバイスをする上で大切にしているのは「話を聞くこと」。「相談してきた人が一番大切にしているものは何なのか」「今、何に困っているのか」「何を望んで、部屋をきれいにしたいと考えているのか」などの話をする中で、相談してきた方の頭の中にあるイメージを明確にし、共有していくといいます。
「イメージさえ明確になれば、その人にとって必要な物が次第に見えてきます。その後に、物を一通り出した状態で『今必要な物は何ですか?』とお伺いすると、スッと手が伸びるんです。『いらない物は何ですか?』ではダメなんです。それがわからずに悩んでいたのですから。でも、お話をしていく中で、必要な物がわかってくる。頭の中がすっきりすれば、物も片付くんです」
「歴史も一緒に運んでいる」
杉之原さんが整理収納アドバイザーになったきっかけは、お子さんが小学校に入学してからパートとして勤務した運送会社での仕事。事務員を経て、引越事業を手掛けている同社の営業職を担当していた杉之原さんは、引越の現場に立ち会う中で「荷物の梱包・片付けがうまくできないお宅をたくさん見てきました」。
「荷物を片付けられずに梱包ができないということは、引越先で荷物を出してもうまく整理・収納できないということ。せっかく新居で新しい生活を始めるのに部屋がゴチャゴチャでは、もったいないじゃないですか。それをなんとかしたかったんです」
整理・収納のスキルを身に付けることで、引越の梱包の悩みを解決できる――こうしうて、杉之原さんは「整理収納アドバイザー」の道を歩み始めます。
「現在、お客さまの多くは50代以上の方々。引越の時に、荷物を梱包する際に新居に持っていく物を一緒に選別していくのですが、その人たちの人生そのものを見ているような気持ちになります。お客さまが一つひとつの荷物を見ながら『昔はこうだった、ああだった』とお話をしながら段ボールを積み重ねていって……。私たちは、お客さまの歴史も一緒に運んでいるんだな、と実感するんです。すべてをきれいに梱包した時に『本当にありがとう』と喜んでいただけると、本当にうれしいですね」
それは、本当に必要なものですか?
「最近、物を片付けられなくなってしまった人が増えているように思います」と話す、杉之原さん。あらゆる物があふれる現代では家の中に物を増やすのが容易な反面、「家の外に物を出すのは大変な時代」だと話します。
「コンビニエンスストアや通販など、いつでもどこでも物を買える時代なので、家の中に物を増やすのは簡単です。しかし、現在はゴミの分別など、物を外に出すにはひと手間必要。高齢の方ですと、通販の梱包用段ボールや粗大ゴミなどを出すのも大変で、家の中に溜め込んでしまう人もいます」
そこで大切になってくる意識は「本当にその物が必要か」ということ。家に物を入れる前に、そのことを意識するだけで環境は変わるといいます。
「たとえば、食品の場合は傷みやすい物を必要以上に購入していないか。『まだ大丈夫』と思っている内に消費期限が切れて食品を無駄にしてしまったり、冷蔵庫の中にいろいろと溜め込んでしまうケースがよくあります。食品を例にあげましたが、つまりは自分の必要な分だけ物を持つ、ということが大切です。そうしないと、本来の需要以上に物が生産されては無駄になり、日本はあっという間にごみの山になってしまうように思うんです」
ごみの最終処分場スペースの問題も取りざたされる中、杉之原さんは整理収納アドバイザーとして人々に伝えていきたいこととは――。
「現代は『物の豊かさが精神的な豊かさ』という時代ではないように思うんです。むしろ、そのことで深刻な悩みを抱える人たちをたくさん見てきました。整理・収納の大切さを通じて快適な暮らしのサポートをすることはもちろん、私たちの国や地球がごみの山にならないような社会につなげられればと思います」