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Monthly FACE 〜極める人々〜

外村哲也(トランポリン選手)

Profile

1984年生まれ。東京都出身。小学生の頃からトランポリン競技を始め、2008年に開かれた北京五輪では日本代表選手として出場。4位入賞を果たした。現在、16年に開かれるリオデジャネイロ五輪への出場に向けて活動している。父はロサンゼルス五輪の体操団体銅メダリスト・外村康ニ氏。

外村哲也オフィシャルブログ

「失敗を終わりにしたくなかった」

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「『オリンピックへの挑戦失敗』を、競技生活の終わりにしたくなかった。いろいろなものに負けてしまった自分がいて、それに納得したくありませんでした」――スポンサー契約が終了しながらも、体操教室で講師を務めて生計を立てながら練習する日々。トランポリン選手の外村哲也さんが、リオデジャネイロ五輪でのメダル獲得を目指し、再び高く、華麗に、跳躍します。

日本人史上最高の4位入賞を果たした北京五輪から4年後、メダル獲得のリベンジを胸に望んだロンドン五輪の最終代表選考会では落選。「長い間、心技体のすべてにおいて無理をしていました。その結果、選考会の前にベストの状態に持っていくことが出来なかったんです」と振り返る。スポンサーの契約期間も終了し、競技の練習を行うこともままならない状況に「引退せざるを得ないのかな、と思ったこともあります」と外村さん。

2000年から五輪競技に採用されたトランポリン競技は、長さ4.28メートル・幅2.14メートルの“ベッド”と呼ばれるネット部分で跳躍。異なる宙返りを10回連続で行い、美しさ(演技点)・難しさ(難度点)・高さ(跳躍点)を競うものです。世界レベルの男子選手では跳躍時の高さが約8メートル(3階建てのビルに相当)に達することもあり、ほかの体操競技に比べて練習出来る施設が限られています。

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「自分が競技をやりたい・やりたくないという意思に関わらず、そもそも練習する環境を整えることが出来ませんでした。それに加えて、ロンドン五輪に出られなかったことがダメージとして大きく残っていて『これからどうすればいいんだろう』と、気持ちの整理がついていなかったんです。それでも、アスリートの先輩など、いろいろな方の話を聞くことで、だんだんと『どうすればいいのか』がわかってきました。この1年で少しずつ……、少しずつ気持ちが上向いてきました」

現在、外村さんは28歳。競技生活に集中出来た学生時代とは異なり、仕事をしながら五輪に向けた練習に取り組むのは初めての経験です。加えて、痛めた腰のケアも行うなどの苦労も。しかし、アスリート生活を続けることが出来た背景には、心強い味方の存在があります。外村さんが週に数回、講師として働いている体操クラブ「Clubネイス」(ネイス株式会社)の代表・南友介さんです。

縁が繋いだアスリート人生

南さんは、外村さんの母校・日本体育大学の先輩。面識はありませんでしたが、知人を通じて知り合った同窓会で意気投合し、アスリートとしての所属を打診しました。「芯がしっかりしていて、ストイック。それでいて社交的で、“アスリート”としても“人”としても魅力的。スポンサーとしては難しくても、なるべく競技に打ち込めるような環境を提供したいと思ったんです」と南さん。

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「自分の人生にとって、とても大きな環境を提供していただいています。最初はその同窓会に行く予定はなかったので、本当にラッキーというか…人が繋いでくれた縁です」

偶然の幸運は重なります。埼玉県川口市を中心に展開する同クラブからほど近いところに、トランポリン競技の練習を行える施設があったのです。たぐり寄せた縁で、整い始めた環境。有望視されていたロンドン五輪出場を逃し、一度は地に落ちるような思いを味わいましたが、跳躍するかのように気持ちが上向くことで見えてきたものがあります。それは、2016年に開かれるリオデジャネイロ五輪。

「いろいろなものに負けて終わるのが嫌だったんです。どうしても嫌でした。それなら、もう一度オリンピックに挑戦しよう、と」

オリンピックへの特別な思い

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外村さんが抱くオリンピックへの特別な思いは、物心がついた時から変わらないものとして、心の中に存在しています。

「父親を含め、周りにはオリンピック選手――それもメダリストだらけでした。だからというわけではありませんが、『競技をする以上は世界一を目指す』『オリンピックでメダルを獲る』という目標は、自分の中でごく自然に培われていきました。五輪出場を掲げる以上は、やっぱりメダルの獲得を目標としたい。(トランポリン競技は)オリンピックでは、まだ日本人がメダルを獲ったことがないんです。 そういう意味でも、トランポリンはまだまだ認知度の低い競技。これから外村哲也という人間を通じて、トランポリンという競技について興味を持っていただければうれしいです」

—幼少時代から追い続けてきたオリンピックのメダルは、外村さんが高く跳び続ける原動力となっています。

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トランポリンはジャンプが高ければ高いほど、そのわずかな大きさのベッドから飛び出し、失格になる可能性が高まります。高く・美しく跳ぶために必要なのは、パワーはもちろん体の芯となる体幹が重要で、いかに重心をずらさずに着地出来るかがポイント。外村さんは「心も体も徐々に慣らしている最中。まだまだエネルギーが弱い」と現状を自己評価しますが、しっかり前だけを見据えるその心の中には、ぶれることのない1本の幹があります。

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