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Monthly FACE 〜極める人々〜

福山功起さん(映画監督)

Profile

1969年生まれ、東京都出身。2008年以降、自主制作映画が全国各地の映画祭でグランプリなどを受賞。高い評価を得る。映画のほかにもテレビCMや企業プロモーションなどさまざまな映像を手掛けている。監督として参加したオムニバス映画『埼玉家族』(松竹株式会社配給)は10月12日から公開。長編作品『夜だから』(出演/波岡一喜・千葉美裸ほか)の劇場公開も控えている。

40歳を機に調理師から映像の道へ

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元探偵、そして元キックボクサーで元調理師という異色の経歴を持つ映画監督・福山功起さん。調理師として働いていた時に「遊び感覚で撮り始めた」という自主制作映画が、制作本数を重ねていく内に全国各地の映画祭で高い評価を得て、2010年には自身が代表を務める「映像制作Jill Motion(ジルモーション)」を創業。そして、44歳になった今年、オムニバス映画『埼玉家族』(松竹株式会社配給、10月12日公開)の1編「ハカバノート」の監督を務め、満を持して商業映画の世界にも進出します。

高校時代は、小説家を目指していた福山さん。卒業後はアルバイトをしながら作品を書き続け、新人賞に応募するも落選。24歳当時に「アルバイトをしていたバーのお客さんに誘われ」、調理師の仕事を始めます。仕事をするかたわら、和太鼓や阿波おどり・キックボクシングに傾倒し、キックボクシングはプロデビューしたほど。「仕事だけでは、エネルギーを抑えられないんですよ」と笑います。

そのエネルギーが映画に向かい始めたのは、35歳の頃。友人が、福山さんが以前書いていた小説を読み「映画にしましょう!」と言ったのがきっかけでした。映画を撮った経験こそありませんでしたが、「大人になってから始めたことは、一生ものになる」という思いから、友人たちと素人の遊び感覚で映画づくりを始めます。

「最初は人に見せられるような代物ではありませんでしたが、何本か撮っていく内に映像で表現していくことにのめり込んでいきました。映像でできることは幅広いので、物好きな自分にはちょうど良かったのかも。それに、調理と映像って似てるんです。仕込みをして、つくって、楽しんでもらって……っていう。調理師の経験をはじめ、人生そのものが作品づくりのバックグラウンドになっています」

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調理師の仕事を続けながら、自主制作映画やミュージシャンのプロモーションビデオ、結婚式の映像などを撮っていた福山さん。ある日、一つの思いがふと胸をよぎります。

「このまま映像を趣味にしていくのか、調理師の仕事を辞めて映像制作の道に進むのか―自分がおじいちゃんになった時に、どっちがいいかなって。趣味でやってきたものを生業にすることへの不安はありましたが、残りの人生をどうしたいか。それで決めたんです」

その後、全国各地の映画祭に自身の作品を応募。2009年には自主制作映画『しあわせならたいどでしめそうよ』が7つの映画祭で、2010年には『おうちへかえろう』が12の映画祭でグランプリをはじめ入選・受賞を果たすなど注目を集めます。2012年には、美元(ミヲン)さんらが出演した『わらわれもしない』が、埼玉県などが主催する「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭」にノミネート。映画『埼玉家族』での監督起用へとつながります。

映像で表現するということ

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『埼玉家族』は、埼玉県に住む一つの家族を通して「現代の家族の姿」を描いたもので、新進気鋭の映画監督4人がそれぞれ「父親編」「母親編」「息子編」「娘編」を制作。鶴見辰吾さんと伊藤かずえさんが27年ぶりの共演を果たしたことなどで話題を集めています。福山さんが監督を務めたのは、人気アイドルグループ「アイドリング!!」の元メンバー・森田涼花さんのほかにも、ドラマ『僕と彼女と彼女の生きる道』でSMAPの草なぎ剛さん演じる主人公の娘役を演じて一躍有名になった美山加恋さんらが出演する娘編「ハカバノート」。また、作中の4編を結ぶエンディングの監督も務めています。

福山さんの自主制作映画が高く評価されてきたポイントの一つは「映像による心情表現」。『埼玉家族』では、商業映画として多くの人が見やすい作品にしながらも、ところどころのシーンで“福山さんらしい表現”を垣間見ることができます。自身の作品について「言葉で説明することは、チープな感じが否めません」と話すように、「セリフや物語だけではなく、言葉以外のものを映像では表現できる。自分はその表現方法を模索し続けていきたい」

映画もCMも同じ。すべてが楽しみ

10月の『埼玉家族』の公開に加え、自主制作映画『夜だから』の劇場公開も控えている福山さん。テレビCMや企業のプロモーションビデオなどのほかにも、現在は兵庫県加古川市を舞台にしたドラマ『ずっと一緒に…』(山石企画)を制作中。「街の人と映画をつくる!」をテーマにした作品で、出演者の多くは演技経験のない地域の人たち。演技のワークショップを経て8月の時点で3話までが完成しているなど、さまざまな映像作品を手掛けています。

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「一つに凝り固まりたくないんです。『おれの世界はこれだ!』『おれは撮りたいものしか撮らないんだ』なんて言えば、カッコ良く見えるかもしれないですけど、自分の世界観にとらわれてしまうというのは、いろいろなハードルを下げてしまうことにつながるような感じがして。そう言ってしまえば楽じゃないですか。自分はそれよりも、いろいろなことに挑戦するのが楽しいんです。それぞれの映像制作で得た経験が、また次の制作に生きますしね。

自分の中では、映画をつくるのもCMをつくるのも同じ。というよりも、CMなども映画だと思ってつくっています。自主制作映画の場合は、お金を出すのが自分だという違いがありますけど、観ている人に感動を与えたいっていう根っこの部分で通じている。全部楽しいですね」

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