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Monthly FACE 〜極める人々〜

koyaさん(映像作家/漫画家)

Profile

1990年生まれ、東京都出身。東京藝術大学大学院に在籍。koya名義で映像作家・漫画家として活動している。これまでに制作したアニメーション作品『じゃんけん大戦争』がテレビ番組「デジスタ・ティーンズ」(NHK Eテレ)で放送されたほか、『おだやかにアグレッシブ』が、ブラジルの映画祭「FANTASPOA 2012」で招待上映。漫画作品は『連続してコインを入れるという事。』『koya傑作選』が「ブックシェア」(ソニー・デジタルエンタテインメント・サービス)で配信されている。2010年には、宙出版が主催する「ネクスト漫画大賞」で『先輩とオレ』が期待賞を受賞。代表を務めるグループ・賢者では、「裏サンデー」(小学館)で連載中の漫画『モブサイコ100』(ONE)の単行本用テレビCMとして、アニメーション作品を制作。同作品は現在審査中の「学生CGコンテスト」にノミネートされている。

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芸大院生・映像作家・漫画家――3つの顔

海外の映画祭への作品招待、テレビCMの制作、テレビ出演、漫画賞の受賞など、気鋭の作家として注目を集めるkoya(コヤ)さん。今年入学した東京藝術大学大学院ではアニメーションを専攻しており、多忙な学生業の合間を縫って精力的な作家活動を行っています。

koyaさんが作家として注目を集め始めたのは、2012年。武蔵野美術大学に在籍していた3年生当時に、進級制作としてつくったアニメーション作品『じゃんけん大戦争』がテレビ番組「デジスタ・ティーンズ」(NHK Eテレ)で紹介されたことに始まります。同番組は、10代や学生のアート・デザイン作品を募集し、番組のホームページ上で公開。感想が多かったものなどを番組で公開するというもので、同作品は視聴者人気3位という結果を収め、作品が放送されただけではなくkoyaさん自身も番組に出演しました。

『じゃんけん大戦争』

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また、同年制作したアニメーション作品『おだやかにアグレッシブ』は、ブラジルの映画祭「FANTASPOA 2012」に招待上映。大学4年時には、koyaさんが大学の友人らと結成したグループ・賢者のアニメーション作品『君のここはもう大人』が「学生CGコンテスト」の応募作約500点の中からノミネート作品に選出。大学院1年生となった今年は、ソニー・デジタルエンタテインメント・サービスの社長である福田淳さんが『じゃんけん大戦争』を観たことがきっかけで、同社の電子書籍アプリ「ブックシェア」で、漫画『連続してコインを入れるという事。』『koya傑作選』が配信されたほかにも、koyaさんがアシスタントを務めていた漫画家・ONE(ワン)さんの『モブサイコ100』(裏サンデー/小学館)の単行本用テレビCMを賢者で制作するなど、映像作家・漫画家として頭角を現しています。

『おだやかにアグレッシブ』

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『君のここはもう大人』

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『モブサイコ100』テレビCM

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技術と努力から逃げた浪人時代

koyaさんがアニメーションや漫画をつくり始めたのは、小学生の頃のこと。「インターネットで棒人間が動き回るGIF(ジフ)アニメを観て、どうやってつくるんだろうと思った」ことから自分で調べ、パソコン上でパラパラ漫画をつくるようになりました。同時に、いつも外でサッカーをしていたほどのサッカー少年でもあったkoyaさんですが、中学生の時にプロのユースチームと対戦して大敗したことで「やっていても意味がない、と思ってしまって。それから家でインターネットをしたり、GIFアニメをつくったりするようになりました」

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転機となったのは、小説や漫画の投稿サイト「新都社(にいとしゃ)」との出会い。「中学生の時にGIFアニメを投稿していたサイトで知り合った仲間が、新都社で漫画を投稿していたんです。読んでみるとおもしろくて、自分も描きたくなりました」と、高校1年生の頃から同サイトに漫画作品を投稿し始めます。

「学校の友人に見せる時とは違った反応が返ってくるのがおもしろかった。“友人”というフィルターがない分、率直な感想をもらえるんです」

その後、インターネットで知り合った複数の友人の影響もあり、美大を目指すための予備校へ通い始めます。しかし、打ち込んでいたサッカーを辞めたkoyaさんが「自分にはこれしかない」と思っていた“絵”に対する自信は、予備校に通うことで「錯覚だったと気付かされた」と言います。

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「『絵だったら、周りよりも少し上のほうにいるだろう』とヘラヘラしていたんですけど、予備校には本気の人がたくさんいて。ありえないくらい上手いんです。その人たちが持っていた技術は、努力すればするだけ上手くなるもので、間違いのない確固たるものなんですけれど、僕はそこで、努力だけではどうにもならない――もっと得体の知れない、センスや直感的なおもしろさを重要視するようになりました。今考えれば、技術や努力からの逃げなんですけど」

結果、koyaさんは1年の浪人時代を経て、武蔵野美術大学の映像学科へ進学します。

つまらないものは、つまらないと言わせる

大学進学後の実績の数々は冒頭で紹介した通りですが、「技術や努力から逃げた」と話すkoyaさんが、いかにして注目を集める作品をつくれるようになったのか――本人は、自分で課題を設定してそれを克服してきたほかにも、中学時代から続けている「ネット上での作品公開が大きかったかもしれない」と話します。

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「中学生の頃から、自分の作品を公開してコメントをもらう、ということをコンスタントにしていました。つまらないものをつくってしまったとしても、隠さずになるべく人に観てもらって『つまんない』と言わせてしまうんです。そうすることで、ちゃんと反省して次の作品につなげられる。でも、大学時代、自分の作品をインターネットで公開するのが怖いという人もいました。理由を聞くと『自分の作品は未熟だから』。自分よりも上手な人はたくさんいるから、見せられないと言うんです。『じゃあ、いつになったら見せられるようになるんだろう。いま精一杯やったものを見せればいいんじゃないかな』と僕は思うんですけど」

そんなkoyaさんが現在、大学院で学んでいるのは映像史などについて。芸術表現の中における映像が社会の歴史の中でどのように変化し、いまに至るのか――その文脈を踏まえた上で、いまの自分の立っている場所を明確にし、これからの進むべき方向を模索しています。同大学院には、『頭山』が世界の主要なアニメーション映画祭で6つのグランプリを受賞した山村浩二さんを筆頭に、著名な作家陣が教授として名を連ねるほかにも、国内外のコンペティションで高い評価を得る同級生らに囲まれた刺激的な環境。矢のように過ぎていく日々の中でkoyaさんが考えているのは「卒業後に進む道」について。一つひとつの言葉を慎重に選びながら、次のように話します。

「――正直、僕はこれからどうするんだろう、という迷いがあって。何の担保も保証もない中で、作家として独り立ちできるのか不安もあります。作家になるのか、会社員になるのか。大学卒業後の進路を決める時にも悩んでいたことなんですけど。いずれにせよ、親に迷惑をかけないように在学中に勝負していかないとな、と感じています。いまの自分は、学生という安全地帯にいます。ここからもっと厳しい場所へと進んでいく。そのためにも力を付けないといけません。大学院は、そのための期間・場所だという認識です」

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迷いの日々は、進むべき場所へ走り抜けるための大いなる助走。いまはただ、ひたすらに、白い紙へとペンを走らせます。

「満足したい、みたいな感情が一番にあります。何をすることによって満足できるのかはわからないんですけど、作品を見た人から反響があったり、後から振り返って、当時のことがフラッシュバックしてくるような創作物があるのは、単純にうれしいなって。それに、道の先にはおもしろいことをしている人がいっぱいいる。だから、その人たちと同じ場所まで行きたいんです」

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