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Monthly FACE 〜極める人々〜

前田みねりさん(バイオリニスト)

Profile

栃木県出身。国立音楽大学卒業。オーケストラ、ソロコンサートのほかにもJ-POPやアニメ音楽のレコーディングに参加。児童館やデイサービスセンターなど、さまざまな場所で演奏活動をしており、近年は銭湯でのコンサート活動が話題になっている。とちぎ未来大使。

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バイオリンから近付いていく

バイオリンを、身近な存在として広めていきたい――そう話すのは、近年、銭湯でのコンサート活動が話題になり、数々のメディアから取材を受けているバイオリニスト・前田みねりさん。クラシック音楽はもちろん、浜崎あゆみ、長渕剛、森進一など、名だたるミュージシャンのコンサートやレコーディングにも参加している前田さんは「普段、『バイオリンは敷居が高い』と感じている人にこそ、こちらから歩み寄っていきたい」と、銭湯をはじめ図書館や児童館など、ホール以外でのコンサートも積極的に行っています。

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「いまの私のメインテーマは『生演奏を身近に届ける』こと。私の大好きなバイオリンの音を、たくさんの人に聴いてもらいたい。そして、私のコンサートが、バイオリンを楽しんでもらえる入り口になればと思っています。それで、銭湯をはじめとしたさまざまな場所でコンサートをさせていただいているんです」

港区を中心に、約3年で50回以上行っている銭湯でのコンサート。「コンサートホールまで足を運びにくいご年配の方にもバイオリンを聞いてほしい」と企画を持ちかけたのは、前田さんでした。

「大きなお風呂に手足を伸ばして入りたいと、近所の銭湯に行ったんです。そうしたら、すごく気持ちが良くって。しかも、翌日の演奏会では体がいつもよりよく動いて、とてもいい演奏ができたので『これは』と思いました。それから、いろいろな町の銭湯に足を運ぶ中で、落語や手品ショーなどのイベントが開かれていることを知って。それならバイオリンもどうだろうと思い、相談してみたんです。最初の頃はお客さんから『スペースは大丈夫?』『こんなところで弾いてもらっていいの?』と逆に気を遣われてしまいました(笑)。ご年配の方でも、初めて生でバイオリンを聴いた、という人が少なくないんです。でも、初めてだからこそ、バイオリンの音色にとても感動してくれる。音楽のパワーはすごいです。どんな場所でも伝わるんだ、と感じました」

生まれる前からバイオリニスト

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そんな前田さんがバイオリニストになることは「生まれる前から決まっていました」。バイオリンの音に魅せられた前田さんの母は、その美しい音色をなぞり「みねり」という名前に「美しい里の音」という意味を込めました。4歳の頃に楽器を手にした前田さんは、国立(くにたち)音楽大学を卒業後にフランスへと短期留学。ヨーロッパにおけるクラシック音楽が、いかに生活に根付いたものであるかを知ることになります。

「フランスの人たちは、近所へお出掛けするように普段着で教会までお祈りに行き、音楽を聴いているんです。日本だと、クラシック音楽やバイオリンはどうしても敷居が高いと思われがち。バイオリンをもっと身近に、という思いはその時に生まれました」

大学時代からプロとして活動していた前田さんですが、胸の内に生まれた思いに動かされ、ソロコンサートなどのほかにも養護学校やデイサービスセンターでの演奏活動を行うように。近年の銭湯コンサートへとつながっていきます。

私だからこそ、できること

一般のホールとは演奏環境も聴き手の年齢層なども異なる場所でのコンサート。前田さんは一つひとつの会場にあわせて、演奏する曲のセレクトやパフォーマンスを変えています。

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「通常のコンサートホールとはちがって、演奏環境が決していいとは言えない場所もあります。音の響きが期待できないなら、指の動きをわかりやすくして眼で楽しんでもらおうとか、曲の解説をいつもより丁寧にして話を楽しんでもらおうとか。選曲でも、60歳以上の人が多い場合は美空ひばりさんなどの世代に合った曲を演奏するようにして、その中にクラシックを2〜3曲入れています。あとは、映画の曲を演奏すると『あー、観てた観てた!』と、当時の記憶を呼び起こすこともあって。音楽には、そういう力があるんです」

その“力”を引き出しているのは、前田さんのストイックな姿勢。技術の追求だけではなく、楽曲の背景にあるものを調べ、理解することを大切にしているといいます。

「ストーリーを知らないと、弾けないんです。もちろん、楽譜を見て弾けば曲にはなるんですが、表面上だけで説得力が出ないというか。大正・昭和時代の曲や映画音楽を演奏したりアレンジする時は、特にそう感じます。あとは、毎日の練習です。お客さんを楽しませるには自分も楽しまなければならないし、練習なしに自分が楽しむことはできないと思っていて」

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ホール以外の舞台へと積極的に飛び込んでいけるのは、前田さんがバイオリンの音に感動しているからこそ。あらゆる場所をステージへと変えていきます。

「私自身、音楽に心を揺さぶられると、ほろっとしたり、肩の力が抜けたり――私、演奏中にお客さんの表情を見るのが好きなんです。表情がやわらかくなったり、笑顔になっていくのを見られるのが嬉しい。ステージに立っている瞬間が一番幸せなんです。もっともっと、いろいろな場所に生のバイオリンの音を届けに行ければ。私だからこそできることを、していきたいんです」

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