ネット時代の“ゴシップエンターテインメント”
『アヒルと鴨のコインロッカー』『ゴールデンスランバー』などの監督として知られる、中村義洋さんの最新監督作品『白ゆき姫殺人事件』が3月29日から公開。人気小説家の湊(みなと)かなえさんの同名作品が原作であることに加え、2012年の日本アカデミー賞で最優秀主演女優賞を受賞した井上真央さんが主演、話題作に相次いで出演している綾野剛さんらが出演することなどから、注目を集めています。
ストーリーは、だれもが認める美人OLの三木典子(菜々緒)が惨殺され、同僚の女性・城野美姫(井上真央)に疑惑の目が向けられていく、というもの。テレビ局でワイドショーを制作するディレクター・赤星雄治(綾野剛)が関係者に取材をしていく中で、手に入れた情報をTwitter(ツイッター)で公開してしまい、インターネット上で情報が拡散。うわさ話や妄想までもが事実のように広まっていくなど、ネット時代特有の恐ろしさが物語に絡み合う“ゴシップエンターテインメント”作品となっています。
「原作を読んで、純粋におもしろいと思いました。人間のいやらしいところや心の闇であったり、描写がすばらしいな、と。昔からミステリーは好きなんですけど、本当におもしろかった。だからこそ、原作の読後感を、映画を観終わった時にも感じられるように意識しています。小説と映画では土俵が違うので、変更した箇所はありますけどね。たとえば、原作では週刊誌の記者だった赤星がワイドショーのディレクターになっていたり。でも、芯である大事なところはそのままにしています」
「一度言ったわがままは引っ込めない」
映画制作という、大人数で一つのものをつくる作業。撮影だけでも数カ月という、長時間をともにする場で必要なのは“信頼関係”です。
(C) 2014「白ゆき姫殺人事件」製作委員会 (C) 湊かなえ/集英社
「監督には、大きく分けて二つの仕事があるんです。一つは、各スタッフにオーダーを出すこと。もう一つは、そのオーダーに応えて持ってきてくれたものに『イエス』『ノー』の判断をすることです。極端な話、オーダーをする時って、わがままを言っていいんですよ。もちろん、言うべきところとそうじゃないところは前提にありますが。気を付けないといけないのは、一度言ったわがままを引っ込めないことです。
わがままなオーダーをして、スタッフが全力で応えて持ってきてくれたものに『ごめん、やっぱり違う』ということだけは、やらないようにしています。それをしてしまうと、次に何かお願いする時も『どうせ、そのオーダーもムダになるでしょ』と思われてしまうので」
確かな信頼関係の中でつくり上げられた『白ゆき姫殺人事件』。それは、出演者や制作スタッフについて話す、中村さんの様子からも伝わってきます。
大人数で一つのものをつくる、ということ
一人ひとりの証言によって異なる、“容疑者・城野美姫”の人間像…さまざまな“顔”を演じ分けた主演の井上真央さんについて、中村さんは「天才…うん、天才なんだろうな。文句なしです」と話します。
「何がすごいかというと、役をそのまま渡せてしまえるところ。こっちが思い描いていた“城野美姫”と、真央ちゃんの演じた“城野美姫”が少しズレていることもあるんですが、話を聞くと、真央ちゃんが考えてした演技のほうが納得のいくものだったりする。出してくるものが、確かなんですよね。僕よりも、真央ちゃんの考えたことのほうが正しいかもと思えるくらいに的確でした」
映画づくりの現場は、生き物のよう。想像していたものとは異なる方向に進むこともありますが、「それがおもしろい」とうなずきます。
「脚本を読んで、一人で考えて、つくり上げたイメージがあるんです。でも、撮影すると、そこからどんどんどんどん、上に飛んでいく。そういうことが、結構あるんですよ。『そう来たか!』っていう。その瞬間に立ち会えると…本当に、うん。この仕事の醍醐味ですよ」
つくりあげたイメージを飛び越える。それは、役者だけではなく、どんなスタッフとの仕事でも起こることだと言います。
「たとえば、美術スタッフが撮影のロケハンをしてきますよね。そのスタッフが『脚本を読んで頭に浮かんだのは、こういう場所なんです!』と言うので見に行くと、僕のイメージとは全然違う。でも、そこも『これはいい』と思えるところなんですよ。そういうことが、どのパートにもある。それが組み合わさって、『おお、きたね!!』と思えるものが出来上がる。そうなると、おもしろいですね」