“覚えること”は“初めて知ること”
生放送中、猫がセット内を自由に歩き回る姿が話題を呼んでいる『田勢康弘の週刊ニュース新書』(テレビ東京)。同番組の“2代目アイドル”として親しまれている猫“にゃーにゃ”のアニマルトレーナーを担当しているのが、ZOO JAPANの鴫原良子さんです。ZOO JAPANは、都内に複数の店舗を有するペットショップ「ZOO」のほかにも、数々のタレント動物が所属する「ZOO動物プロ」を展開しています。業界をリードしてきた実績から信頼は厚く、所属する動物は映画やドラマ、バラエティ番組、テレビCMなどに引っ張りだこ。多くの人が、知らず知らずのうちに「ZOO動物プロ」の動物たちを目にしているはずです。
鴫原さんの仕事は大きく分けて2つ。“ショップの仕事”と“プロダクションの仕事”です。ショップの仕事では犬や猫をはじめ、鳥類、は虫類、魚類、昆虫など1000種類を超える生きものの世話を複数人のスタッフで行い、プロダクションの仕事では、にゃーにゃの撮影現場へと帯同。テレビ番組や広告写真などの撮影がスムーズに進むようにサポートをしています。
「最初は、トリマーの仕事がしたくて入社したんです。なので、将来こんなにいろいろな仕事をさせていただけるとは、当時は思ってもいませんでした」と話す鴫原さん。多くのペットショップでは小動物や魚類など動物ごとの担当や、世話・販売・美容など仕事の内容によって部門が分かれていますが、「ZOO」にはその枠がありません。
「すべての内容をカバーするといっても、一人一人のいいところを伸ばしてもらえます。『自分には向いていないんじゃ…』と思っていても、実際に体験すると『自分にもできるんだ』という発見も多くて。専門学校を卒業して入社したばかりの頃は、覚えることが多過ぎて大変でしたけど、その分、初めて知ること・体験することばかりで、『おもしろい!』という気持ちのほうが大きかったです」
動物の反応は自分の映し鏡
幼い頃から、家にいる10匹以上の動物に囲まれて育ってきた鴫原さん。高校卒業後は“菓子づくり”と“動物”の専門学校が選択肢にあったものの、「一日のなかで、動物と一緒にいられる時間が増えるから」という理由で、進路を選んだほどの動物好きです。
「動物と一緒にいることが当たり前の生活を送ってきました。お世話が大変なときもありますが、それ以上に楽しい日々を送ることができるのが動物の魅力。私の姿を見て駆け寄ってきてくれたり、そばに寄り添ってくれたり、たまに体当たりもされますけど(笑)、そういう何気ない瞬間が幸せで」
たとえ同じ品種の動物でも、それぞれ個性が違うのも魅力の一つ。一匹ごとの性格はもちろん、スタッフ一人一人の接し方で動物の反応が変わるため、入社して15年以上が経ったいまでも発見が尽きません。
「動物って、人間の心の機微に敏感なんです。動物の反応がいつもと違うときは自分がピリピリしていたり、いつもとなにかが違う証拠。動物とは言葉を交わせない分、完璧に理解するのは難しいんですが、経験を重ねる度にどう対応すればいいのかがわかっていくのがおもしろいです。上司やほかのスタッフから『自分のときは、こうしてうまくいった』と教えてもらったことを試してみても、自分のときは言うことを聞いてくれないときがあったり、日々勉強です。動物は育った環境で性格が異なるので、お客さまの体験談など、さまざまなケースが参考になるんです」
離れてもつながっている、幸せな関係
「ZOO」を訪れる人々のなかには、動物を家族の一員として迎え入れようと考える人がいる一方で、パートナーが動物に対してネガティブなイメージを持っているケースもあります。
「毛嫌いしている方ほど、動物に触れた瞬間に心を動かされることがあって。動物を好きになってくださる姿を間近で見られるのはうれしいです。お店で育てていた子たちがお客さまの元に行くタイミングはそれぞれですが、後日、動物と一緒に店を訪れてくださる方や、その成長過程を知らせに会いに来てくださる方もいます。お客さまの元で暮らすようになった子たちの成長も共有させていただけるので、離ればなれになってもたくさんの関係が続いている―幸せで、ありがたいことだと思います」
毎年、夏になるとリスザルの赤ちゃんが「ZOO」にやってくるといいます。鴫原さんたちは連日、夜中でも3〜4時間置きにミルクをあげるなど、人間の幼児と同じように世話をしていきます。ほかにも、外国から来た動物たちは日本の気候など環境が異なるため、可能な範囲でいかに過ごしやすい環境をつくることができるかを試行錯誤。本などで調べるのはもちろんのこと、スタッフ全員がこれまでの経験と知識をもとに創意工夫し、我が子を育てるのと同じような愛情を注ぎます。
「いまよりもっと多くの人に、動物と暮らすことの幸せを知ってもらえれば幸せ。そのときのためにも、この子たちのためにお世話を頑張ろうって思います」