トラックドライバーへの憧れ
小学生のときに出会った1人のトラックドライバーと、1台のトラック――幼い頃の憧れが、現在の道へと進むスタート地点でした。
影山さんが働いているのは、運送会社の「金羊社(きんようしゃ)ロジテム」。エンターテインメント系のパッケージ印刷で国内トップシェアを誇る印刷会社「金羊社」の物流会社です。影山さんが運送しているのは音楽CDのジャケットや映画のポスターなど、わたしたちが普段、町中で目にしているもの。“物流”のプロセスを“川”に例えるなら、印刷会社などの上流から町のある下流まで、さまざまなものを運んでいるのが、影山さんたちトラックドライバーです。
大事な役割を担う一方で、トラックドライバー不足が叫ばれる昨今。2008年には国交省が「2015年に14万人のトラックドライバーが不足する」という試算を発表しています。現役ドライバーの高齢化や、免許制度の改正などによって高校卒業直後では中型トラックが運転できないなど、即戦力の人材が減少。増え続ける輸送量とは裏腹に、ドライバーは減り続けていきます。マンパワーが足りないことによって労働環境が厳しくなり、「トラックドライバーは大変だ」というイメージが、さらなる人手不足を招くという悪循環も…。
しかし、影山さんがトラックドライバーに抱いていたイメージは、決してネガティブなものではありません。幼い頃から抱いていた“憧れ”とともに、高校を卒業した2011年、金羊社ロジテムに入社します。
偶然の出会いが、今をつくる
影山さんがトラックを好きになったきっかけは“デコトラ”。電飾や箱部分のペイントなどのデコレーションを施したトラックのことで、影山さんは、デコトラをテーマにしたテレビゲームに夢中になっていました。
「実家が鉄骨業を営んでいて、キラキラ光るメッキを見て『カッコイイな〜』と思っていました。当時から普通の車も好きでしたが、メッキのパーツがたくさん使われていて、迫力ある絵が描かれていて、子供ながらに『デコトラってカッコイイ!』と」
ゲームの世界の存在だったデコトラが一気に身近になったのは、ある夜のこと。当時は個人事業でトラックに乗っていた天野祐一さんが、影山さんとの出会いを振り返ります。
金羊社ロジテム代表の天野さんが、個人事業時代に乗っていた“デコトラ”。
「飲み物を買おうと、コンビニエンスストアにトラック(デコトラ)を止めていたんです。お店を出たら、小さい子が自分のトラックを見てなんだか騒いでいる。小学2年生くらいだったかな。話してみると、目をキラキラさせながら『これ、“すずき工芸”の絵ですよね!?』なんて、小さいのに詳しいんですよ(笑)。礼儀も正しくてね」
それからは、自宅前を通る天野さんのトラックを見るために外で待っていたり、天野さんの荷物のおろし先まで自転車で足を運んだりと、デコトラ熱がヒートアップ。中学生のときには、夏休みの宿題である“職業体験”で天野さんのトラックの助手席に乗り、高校時代は天野さんが給油に利用するガソリンスタンドでアルバイトをするほどの入れこみ具合でした。そして、高校卒業後は、会社を設立したばかりの天野さんが代表を務める金羊社ロジテムに入社。運命的な出会いを経て、影山さんの今があります。
安全運転に大事な“心の余裕”
今年の春に入社5年目を迎えた影山さん。ドライバー職の傍ら、資格を有する整備管理者・運行管理補助者を務めています。ほかにも、安全運行体制とその評価制度の構築、毎月行われるドライバー教育の資料作成、三菱ふそうトラック・バス株式会社が主催する燃費コンテストで関東2位に入賞した経験を生かして、燃費の記録表などを自主的に作成。社内の労働環境の向上に力を尽くすとともに「免許を持っていれば、だれでもできる」というドライバーのイメージを払拭するような、質の高い仕事を追求しています。
「うちの会社は設立したばかりで事故がなかった分、明確な規則というのが最低限のものしかなかったんです。でも、毎日運転していくなかで、何も意識せずに事故が起きないというのは奇跡だと思います。だからこそ、自分たちが安全な運転ができているかを、絶えず意識して、確認する必要がある。そのために何をすればいいか、を考えています。みんな、仲がいいんですよ。それこそ、家族ぐるみでお付き合いしていて。もし事故が起きたら…と考えたとき、同僚の家族の悲しむ顔が思い浮かぶんです。みんなでずっと笑っていられれば、それが一番じゃないですか」
事故撲滅のために取り組んでいる影山さんが、一人のドライバーとして大切にしているのは“心の余裕”だと言います。
「安全教育が大事なのはもちろんですが、それだけで事故が起きないわけじゃありません。一番大事なのは、頭のなかに“もやもや”がないこと。そういう心の余裕をつくっておくことが大切だと思います。何かいやなことがあれば、運転に集中できずに事故につながります。でも、心に余裕があれば家族ともスタッフとも楽しく過ごせますし、生活が充実していれば運転も安全に行えます。仕事が充実していれば家族やスタッフと過ごす時間も、もっと楽しくなるのかなって。心の余裕って、いろいろなことに繋がっていると思うんです」