システィーナ礼拝堂<バチカン〜イタリア>
ミケランジェロ渾身の作品に圧倒される教皇の礼拝堂

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『息子の部屋』でパルムドールを受賞したナンニ・モレッティが、世界で約10億人の信者がいるといわれるローマ・カトリック教会の最高位であるローマ法王(教皇)を主人公に描いたのは、法王版“ローマの休日”。ヴェールに包まれた聖職者たちの人間くさい姿をモレッティらしいシニカルとユーモアを交えて映し出しています。
本作の舞台となったシスティーナ礼拝堂は、1481年、ローマ教皇シクストゥス4世の命により法皇専用の礼拝堂としてヴァチカン宮殿内に建設されました。華美な装飾がひときわ目をひく総本山のサン・ピエトロ大聖堂に対し、システィーナ礼拝堂はレンガ造りの長方形で、外観は法王専用の建物としては意外にも簡素です。しかしながら、天才ミケランジェロが描いた巨大な祭壇画が迎える礼拝堂内部は、息をのむほどの美しさ。旧約聖書の創世記をメインテーマに、総面積500平方メートルを超える巨大なフレスコ画「天井画」と、新約聖書に記された人類終末のドラマを描出した縦14.5m、横13mの巨大な壁画、「最後の審判」。絵画という未知の分野に苦労しながらも、途方もない大きな舞台を大胆に使ったミケランジェロの発想力や、総勢約750人余りの人物を表情豊かに描きわけた巧みな筆遣いは圧巻。修復を経て、より色鮮やかに蘇った空間は、まるで天上の世界にいるかのような神々しさに満ちています。
このシスティーナ礼拝堂で行われるコンクラーヴェ(法王選挙)で、図らずも新法王に選ばれてしまったメルヴィルは、プレッシャーのあまりにローマの街に逃亡! 『ローマの休日』のアン王女とは対照的に、憂鬱(ゆううつ)な気分でローマをさまようメルヴィルの葛藤が見どころ。コンクラーヴェで新聞や電話、パソコンなど外部との接触を禁止されている枢機卿たちのユニークな過ごし方にも注目です。
監督は、『息子の部屋』『親愛なる日記』のナンニ・モレッティ。自ら脚本、演出、出演までをもこなし、その創作スタイルと現代が抱える問題を人間的な視点でユーモラスかつシニカルに描く作家性によって、“イタリアのウディ・アレン”とも呼ばれる。そのモレッティ監督が、100本以上の作品に出演しているフランス映画界の重鎮、ミシェル・ピッコリを主演に迎えて描く、コミカルにして深遠なドラマ。本作は2011年カンヌ国際映画祭コンペティション部門に正式出品され、イタリア、フランスでもスマッシュヒットを飛ばしている。美しい映像、そしてイタリアの華麗にして繊細な文化、法王を“悩める一人の人間”として描く。
■Storyローマ法王死去後、ヴァチカンで法王選挙(コンクラーヴェ)が開催された。聖ペドロ広場には、新法王の誕生を祝福しようと民衆が集まり、世紀の瞬間を心待ちにしている。そんななか、投票会場のシスティーナ礼拝堂に集められた各国の枢機卿たちは、全員が必死に祈っていた。「神様、一生のお願いです。どうか私が選ばれませんように―」。祈りも空しく新法王に選ばれてしまったメルヴィル(ミシェル・ピッコリ)は、バルコニーにて大観衆を前に演説をしなければならなかったが、あまりのプレッシャーからローマの街に逃げ出してしまった。あわてた事務局広報は、街中に捜索の網を張るが…。