パワーズコート (アイルランド)
アイルランド随一の美しさを誇る旧子爵の邸宅と庭園

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友人に裏切られ、無実の罪で13年もの間幽閉された男の復讐劇を描いたアレクサンドル・デュマ原作の「モンテ・クリスト伯」。脱獄しモンテ・クリスト伯爵として新たな一歩を踏み出したエドモンが、招待客を前に気球に乗って現れる場面は鮮烈な印象を残しますが、その彼の邸宅として撮影されたのが世界で最も美しい庭園のひとつに挙げられるパワーズコートです。
アイルランドの首都ダブリンから南に下った風光明媚(めいび)なウィックローにあるパワーズコートは、かつてパワーズコート子爵が有した広大な屋敷と、47エーカー(約5万8000坪)もの庭園からなる観光名所。見晴らしのよい丘の頂上に建つ石造りの邸宅はもともと13世紀に建てられた城で、その後、レンスター・ハウスを手掛けたドイツの建築家リチャード・キャッスルが1731年から10年の歳月をかけて改築したもの。パラーディオ建築を基本に、両サイドにバロックのドームを冠した建物は重厚な雰囲気を醸し出しています。1974年に火災で邸内の大部分が焼失したものの、1996年に再建。アイルランドの老舗毛織ブランド・アヴォカ手織工場社のレストランなどが入る複合施設として生まれ変わりました。
このパワーズコートで特筆すべきは雄大なウィックロー山脈を借景にした広大な庭園です。ベルサイユ宮殿やウィーンのシェーンブルン宮殿などにインスパイアされた庭園は、およそ20年の歳月をかけて1880年に完成。劇中にも登場したトリトンレイクまで続くイタリア式庭園をはじめ、日本庭園、翼のある馬の彫像、ペット墓地、ドルフィンの池、生垣に囲まれた庭園など、特色ある景色は見応え満点。スタンリー・キューブリック監督の『バリー・リンドン』では、焼失前のパワーズコートの姿が見られるのでこちらと比べてみるのも一興です。
原作は1844年から1846年にかけて当時のフランスの大手新聞「デバ」紙に連載された、文豪アレクサンドル・デュマによる小説「厳窟王」。また、同じく1844年から1846年にかけて18巻の本としても出版されている。そんな名作を映画化させたのは『ロビン・フッド』などで知られるアメリカの監督、ケヴィン・レイノルズ。主人公の貧しい青年エドモン・ダンテスを演じたのは、『シン・レッド・ライン』のジム・カヴィーゼル。エドモンの裕福な親友フェルナン・モンデーゴを、『メメント』『タイムマシン』などで高い評価を得たガイ・ピアーズが演じている。さらに、惜しまれつつ2002年に亡くなった『ハリー・ポッター』の校長先生役でおなじみのリチャード・ハリスなど、演技派の名優たちが脇を固める。
■Story時は1814年、港町マルセイユに住む航海士のエドモン(ジム・カヴィーゼル)は、伯爵の子息フェルナン(ガイ・ピアーズ)と幼なじみ。やがて一等航海士となったエドモンには、フェルナンもうらやむほど美しい婚約者メルセデス(ダグマーラ・ドミンスク)がいたが、ある日、何者かの陰謀によって、無実の罪でイフ島の牢獄に幽閉されてしまう。エドモンの13年におよぶ幽閉生活を支えたのは、永遠の愛を誓った女性メルセデスへの一途な想いだった。目に見えぬ敵への殺意を抱き、見事、脱出したエドモンは、身も心も大変身を遂げ、“モンテ・クリスト伯”となってパリの社交界へ乗り込む。しかし、そこでエドモンが知るのは、メルセデスが親友フェルナンと結婚したという過酷な事実だった。