番組に「自分らしさ」は必要ない
「モヤモヤさまぁ〜ず2」をはじめとする、テレビ東京のバラエティー番組を手掛けるプロデューサー伊藤隆行さん。現在は、「モヤモヤさまぁ〜ず2」を含めて合計5本のレギュラー番組を抱え、さらにスペシャル番組を担当することもあり…と、多忙を極めています。たくさんの仕事に関わる中で、伊藤さんは“プロデューサー”という役割をどのように考えているのでしょうか。
「一言で言えば、『これ』という答えのない仕事だと思います。企画を成立させるための環境をつくったり、発想を仕事に変換したりするのもプロデューサーですし、ほかの人の意見の中に光るものを見つけるのも僕の役割です。また、テレビ東京の社員として考えねばならないこともあります。僕は担当する番組に“自分らしさ”は必要ないと思っていますが、誰よりも早く企画をまとめ、形にしたいと考えています」
番組は、スタートしてうまくいき始めると、出演者やスタッフから新しいアイデアが出てきて進めやすくなるのだとか。「自分らしさは要らない」と言う伊藤さんは、そうした意見も積極的に取り入れています。全体のまとめ役として、風通しをよくしていることが、今までとは違う流れを作り、番組の話題性や人気にもつながっているのかもしれません。
編集を放棄!? 「バカリズムの30分ワンカット紀行」
現在、伊藤さんが担当する番組の一つに「バカリズムの30分ワンカット紀行」(以下「ワンカット紀行」/BSジャパン)があります。これはさまざまな場所を30分ワンカットで撮影し、そのまま編集せずに見せるという内容。これまでに東京・下北沢や吉祥寺、谷中、月島などが取り上げられましたが、ナレーションもなく、街や店の紹介役として、そこに住んでいる一般の人たちが登場します。その斬新なスタイルが、“見たことのある街”の新たな魅力を引き出しています。
「『ワンカット紀行』は、そこで生活する人たちの温度が伝わってくる番組です。ロケは一発勝負なので、出てくださる皆さんの説明や動きがうまくいかないときもありますが、そういう予想できないところを予想しながら、カメラと一緒に追いかけて見てほしいですね」
ところで、ワンカットで撮影するというスタイルはどうやって生まれたのでしょう。
今までの街や店を紹介する番組とは一線を画す、「ワンカット紀行」。しかし伊藤さんは、今後のロケ地は街だけにこだわらないと言います。
「映像として見たときに面白い場所なら、アミューズメント施設など、いろいろなスポットを取り上げてみたいと思っています。ワンカットでの撮影はこの番組以外にも生かす方法があると思いますし、『ワンカット紀行』そのものにも、これからの可能性を感じています」

(C)BSジャパン
元野球少年が見せたい番組とは?
これまでさまざまなバラエティー番組を手掛けてきた伊藤さん。しかし、子供の頃は“テレビっ子”というわけではなく、高校まで野球に打ち込み、大学生になってからは高校でコーチを務めるほど野球漬けの日々を送っていたのだとか。そして今も、少年野球のチームを指導しているそうです。
「野球は思いやりのスポーツで、人間性が試されると思っています。チームメイトを思いやる、いい人間関係を作る、率先して行動する…こういう考えは野球を離れ、社会人として過ごす上でも大切です。仕事をするときには、苦手だなと思う人と働く場合もある。でも『苦手』と避けてしまうのではなく、『自分にないものを持っている』と思えばいいわけです」
野球に打ち込む中で培われた考え方は、伊藤さんのプロデューサーとしてのスタイルにもつながっているようです。では今後、テレビマンとして視聴者にどんな番組を届けたいと考えているのでしょうか。
「テレビというのは、“視聴者が見たい非日常が映っているもの”だと思うんです。だから、見た人が一瞬、『は?』となるものを作りたいですね。それは地上波でも、BSでも、ネット配信の番組でも変わりません。小さな驚きをあちこちに仕掛けて、いろいろな質感の面白さを楽しんでもらいたいと思います。そして、作り手の熱が感じられるものを見てほしいですね」
「自由度が高いから」と選んだバラエティー番組制作の道。その根本にあるのは、野球少年だったことを感じさせる、伊藤さんならではの考え方でした。
「僕は死んでも直球は投げません。どこに飛んでいくか分からないような、『またフォアボールか』と思われるぐらいがちょうどいいと思っています」