『世界の映画館』
近年、動画配信サービスの充実によって、いつでもどこでも映画が見られるようになりました。だからといって映画館が必要ないかと聞かれると、もちろんNO!映画館ならではの大きなスクリーンと迫力ある音で味わう映像は、他に代えられない特別な感動を私たちにもたらしてくれます。本書はそんな「映画館」をテーマにした写真集。アールデコの豪華な映画宮殿から、星空の下での野外シネマまで、新旧問わず、映画をより楽しめるように追求された空間の数々が紹介されています。オープニングを飾るのは、アメリカ・ロサンゼルスの「グローマンズ・チャイニーズ・シアター」。世界で最も有名な中国風寺院建築の映画館で、ロサンゼルスの歴史文化財にも登録されています。同じくロサンゼルスからは、「エル・キャピタン・シアター」も登場。ディズニーの新作映画を中心に上映する映画宮殿で、「ハリウッド大通りにあるディズニーの家」として親しまれています。変わり種ではイギリスの世界一小さな映画館「ソル・シネマ」が印象的です。ヴィンテージ・キャラバンを使用した移動式の映画館で、定員は大人で8名ほど。内装はレトロな雰囲気ですが、音響はサラウンド・システムを採用しているというから、がぜん興味が湧きます。ちなみに我が国からは“活動写真館”をコンセプトにした広島県の名物映画館「サロンシネマ」と、新潟県にある日本最古級の映画館「高田世界館」が紹介されています。映画好きであればきっと訪れたくなる、エンターテインメント性に富んだ世界の映画館をお楽しみあれ。
『そして映画館はつづく あの劇場で見た映画はなぜ忘れられないのだろう』
新型コロナウイルスの感染拡大に伴う混乱から、映画興行の状況は変化を迎えました。映画館を守るために様々な声が発せられる中、「ミニシアター・エイド基金」がクラウドファンディング開設から数日で目標金額を突破したことは、まだ記憶に新しいでしょう。そんな大きな反響に胸を打たれながらも、同時に「映画館」という場所についてあらためて考えるべく立ち上がったのが、映像やアートを中心にクリティカルな視点を持った書籍を発行しているフィルムアート社。本書はそんな同社が、「映画館」を再考するため、劇場スタッフや配給会社、関連機関、映画人に映画館を巡る「これまで」と「これから」について話を伺い、まとめた一冊です。第1章「映画館と」では、東京・渋谷のユーロスペースをはじめ国内12のミニシアターに、館の成り立ちや映画館の意義をインタビュー。第2章「映画館のまわりで」では、映画監督の黒沢清氏など映画館という場所と直接的に関わる仕事をしている方々の言葉を紹介しています。第3章「映画館と上映をめぐって」では広く「上映」という営為に関わる人たちに、第4章「ミニシアター・エイドという試み」ではミニシアター・エイド事務局の方々に、映画館と映画がいかなる道を志向していくべきかを伺っています。全編を通して語られるのは、映画館という空間そのものの面白さと、温かさ。これだけ動画配信サービスが普及した今も、時折映画館に足を運んでしまうのは、やはりそこでしか出会えない体験があるからなのでしょう。