『建築家ブルーノ・タウト ―人とその時代,建築,工芸―』
1880年、現在のドイツに生まれた建築家のブルーノ・タウトは、一時期を日本で過ごしていたことや、桂離宮の知名度を世界的に高めた功績などで、私たち日本人にもなじみの深い人物です。タウトの波乱に満ちた生涯と時代背景、建築、工芸における多彩な活動を、建築家の視点に立ってまとめられた本書の中で特に注目したいのは、タウトが1924年から携わっているジードルンク(住宅団地)です。ベルリンにある集合住宅群は現在世界遺産に登録されていますが、特に馬蹄形をした住棟を中心にした1,963戸を擁するブリッツ地区のジードルンクは国際的な評価を得ています。1931年までの8年間続けられたこの事業でタウトは、12,000軒の住宅建築に関わったといいます。また、第7章で触れられているタウトの日本での活動も非常に興味深いものがあります。日本における唯一の建築物である旧日向別荘については、竹や桐をふんだんに用いた社交室から部屋の一部として階段がある洋室まで、各部屋を詳細に取り上げています。

- ■発行:オーム社
- ■著者:お茶の水女子大学名誉教授・工学博士 田中辰明
お茶の水女子大学・博士(生活科学) 柚本 玲 - ■参考サイト:オーム社のウェブサイト
- ■価格:¥2,500+税
『日本の家屋と生活 <新版>』
1933年に誘いを受けて来日したタウトは、そのまま日本での生活をスタートさせます。日本文化に魅入られ、関連著作を多数発表しますが、本書もその中の一つ。1936年に日本を発つまでに各地で目にしたもの、感じたことが詳細につづられています。日記的な側面もある本書は、タウトが住まいとした洗心亭での暮らしぶり、各地でみた日本家屋(農村、漁村など)についての考察、そしてタウトが世界的に知名度を高めた桂離宮についてなど、自身の残したスケッチとともに記されています。彼は本書の中で、桂離宮をはじめ、今では少なくなった昔ながらの日本家屋には「その背後に無限の思想と精神とのつながりを持っている」と述べています。豊かな四季に寄り添うように暮らしていた当時の日本人の生活と風俗を愛したタウトが、外国人であるからこそ見つけることができた日本の精神を教えてくれるのです。そしてそれを知る事は日本家屋の構築している要素を知る事と同義なのではないでしょうか。