『世界の美しいスタジアム』
本書は、パイインターナショナル「世界の写真」シリーズのスタジアム版。熱狂的なサポーターが集うサッカースタジアムや、有名建築家が手掛けたオリンピックスタジアムなど、世界各地のスタジアムを美しい写真で多数紹介する、いわばスタジアムの写真集です。各スタジアムの歴史や見どころが分かる解説も付いており、テレビなどで度々、目にしたことがあるスタジアムでも、成り立ちや現地での愛称、建築的ポイントが分かると、より一層、興味が湧いてくるから不思議です。1ページ目を飾るのはドイツ・ミュンヘンの「アリアンツ・アレナ」。外装に透明で光沢のある特殊フィルムを使用しており、赤、青、白に発光するのが特徴。夜の街に浮かび上がる真っ赤なスタジアムの姿は息をのむほどの存在感です。ユニークな形がお好みなら、トルコにある巨大なワニをかたどったスタジアム「ティムサ・アリーナ」がお薦め。ワニが口を開いた威嚇的な外観とは打って変わって、客席と天井は緑と白で統一され、爽やかな印象を持たせる面白いスタジアムです。さらに、サッカー好きにはおなじみのスタジアム、スペインはFCバルセロナの本拠地「カンプ・ノウ」もピックアップされています。クラブカラーの青とえんじに塗りつぶされたスタジアムの様子はもちろん、歴史的逆転劇「カンプ・ノウの奇跡」についてのコラムも収録。写真集でありながら、しっかりと読み物としても楽しませてくれ、建築ファンのみならず、スポーツファンも魅了する一冊です。
『なぜぼくが新国立競技場をつくるのか 建築家・隈研吾の覚悟』
「東京オリンピック1964」の競技会場として建設された国立競技場が、「東京2020大会」に向けて生まれ変わるのは誰もが知るところ。また、そんな新国立競技場をめぐって起きたザハ・ハディド案の白紙撤回騒動は、当時、大きく報道されました。本書は、“火中の栗”を拾い、新国立競技場を設計することになった建築家の隈研吾が決意を語った一冊。やり直しコンペで選ばれた「杜のスタジアム」は、木を取り入れ、周辺環境と調和するデザインですが、そこに行きつくまでの考えや、新国立競技場を通じて表現したかったことはもちろん、あらゆる批判を引き受ける意思はどこから来たのかなど、余すところなく語っています。本書から見えてくるのは隈研吾氏の仕事の哲学。中には「世界は“受け身”で戦っていく」や「エラそうにせず話を聞く」など、これまでの有名建築家のイメージを覆すものも少なくなく、著者の姿勢は、これからの時代に建築業界で活躍していきたい人たちへの重要なヒントになり得るでしょう。さらに、新国立競技場との関りが深い人達のインタビューも収録。第5章では大成建設の山内隆司会長、第6章では梓設計の杉谷文彦社長が、それぞれの立場から新国立競技場への思いを語ります。そして最後の第7章には、著者と、脳科学者・茂木健一郎氏が「新国立競技場」をテーマに対談した様子を収録しており、著者の本音を垣間見る興味深い章となっています。隈研吾氏の、建築家としての熱い思いと覚悟が分かると、新国立競技場完成の感動は、より大きくなるはずです。